#16 ハルコの願いとヒメカの殺気




「急にすみません! どうしてもヒメカさんに聞いて貰いたい話があったんです」


「はい、大丈夫ですよ。 何でも話して下さい」


「ではお昼ご飯もあるので手短に」

「兄の事なんですけど、見ての通り、兄は自分の意思で周りと距離を置いて、誰とも交流しようとせず一切の面倒ごとを避けています」


「はい、森山くん本人も、目立つのが怖い、周りの視線が怖いと言ってました」


「以前は全く逆だったんです。それでその変わってしまった原因をヒメカさんに聞いてもらいたかったんです」


「え? 原因?」


「はい。 ウチの隣に兄と同い年の女の子が住んでて、兄とその子は幼馴染で小さい頃からいつも一緒だったんです。 私もよく一緒に遊ぶ仲だったんですけど、兄はその幼馴染のことが小さい頃からずっと好きで、それでその幼馴染の世話とか困った時に助けたりとか、進んでその幼馴染の為に色々してたんです」


「それに兄は、その幼馴染だけじゃなくて、妹の私のことも色々面倒みて可愛がってくれてたし、周りの友達やクラスの人に対しても進んで色々やってたんです。 人が嫌がることを進んで代わりにやるような人って言えば分かりやすいかな、要はお人好しですね」


「それで、そんな兄が中学2年の時に急に態度が変わったんです。 周りと距離取り出して、幼馴染とも全然遊ばなくなって、私がお願いしたり相談したりしても断られる様になって、それで理由が分からなかった私はその幼馴染に相談したんです」


「そしたら、兄がそうなった原因はその幼馴染でした。 幼馴染のその人は、兄の事を迷惑がっていました。 親切の押し売りとも言ってました。 多分ですけど兄にも同じ事を言ったんだと思いました」


「ちょ、ちょっと待って! その人、森山くんのこと、親切の押し売りっていったの???」


「はい、カスミちゃん、あ、カスミちゃんっていうのはその兄の幼馴染の名前なんですけど、私にそう言いました」


「酷い・・・だいたい、親切って要求されてするものじゃないでしょ?自発的にするから親切なんでしょ? 善意か押し付けかって見方の違いだけの話でしょ? それを迷惑だって一方的に切り捨てるなんて・・・その幼馴染さん、森山くんのこと何もわかってないわ!そんな人に森山くんは勿体ない! 森山くんは、とても思いやりのある素敵な人なんだよ!」


「あぁ・・・やっぱりヒメカさんは私が思った通りの人です」


「え?私?」


「はい。 今の兄は自分に味方なんて居ないって思ってます。 周りのみんなに自分はウザいって思われてる。だから自分は目立たない様に大人しくって」

「ヒメカさん、兄の味方になってくれませんか。どうかお願いします」

 そう言ってハルコちゃんは私に頭を下げた。


 私はハルコちゃんの手を取り

「ハルコちゃん!頭なんて下げないで! 私は言われなくても森山くんの味方だよ! この前ね、私からお願いしてお友達になって貰ったんだから! ドズルちゃんに続いて2番目の友達だって森山くんも言ってくれたんだよ?」


「ヒメカさん・・・ありがとうございます。 ・・・・あと、ドズルはオスですので、”ちゃん”よりも”くん”のが」


「あ、そうね、ドズルくんだよね、たはは」


 その後お昼ご飯の準備が出来たと呼ばれたので、ハルコちゃんと固い握手をして、リビングに戻った。





 特上寿司は、素晴らしく美味しかった。

 中トロばかり食べてたら、ママに睨まれたけど。


 でも森山くんも玉子ばかり食べてて、それがちょっと面白くて可愛いと思った。



 そして食後に、森山くんのお母さんがまた騒ぎ出した。


「漆原さん!このどら焼き!!!」


「え!?お好みに合いませんでした!?」


「ち、違います! コレ、木尻庵キシリアンの高級どら焼きですよね!?」


「ええ、そうです」


『母さん、何騒いでるの? 恥ずかしいよ?』


「イチロー、落ち着いて聞いてちょーだい。 木尻庵キシリアンのどら焼きって言えば1個730円もする高級お菓子で、毎日限定100個しか販売しないのよ。 これ10個入ってるわね・・・」


『す、凄い・・・』


「食後のデザートはコレにしましょう! 漆原さんもヒメカちゃんももちろん食べますよね???」


 うぉー!

 私も頂けるの!!!


「それではお言葉に甘えて、頂きますね」



 5人でどら焼きを食べた。一人2個も食べた。 

 5人ともニコニコ笑顔で、今日が謝罪の場だということをみんな忘れてしまっているような楽しいデザートタイムだった。


 これが森山くんのお家なんだ。

 森山家では、こんなにも明るく楽しい空気で満たされているんだ。


 そう思うと、普段学校での森山くんのギャップや、先ほどハルコちゃんから聞いた話が、とてもやるせなくて、そして沸々と怒りが湧いて来た。





 森山くんのお母さんに「夕飯も」と誘われたけど、流石にそれは断って、お暇することになった。


 帰る時、森山くんとハルコちゃんが家の外まで送ってくれた。


「今日は本当にありがとうございました。 お詫びに来たのにお昼ご馳走になってしまって。 今度はウチに遊びに来てくださいね」


『はい、母が色々失礼なこと言ってしまい、すみませんでした』


 ママと森山くんが挨拶を交わしていると、ハルコちゃんが変な方向を向いてて、気になって視線の先を見ると、お隣さんのお家の2階で、窓から女性が一人コチラを見ている様だった。


 ハルコちゃんの肩をツンツンして、耳に口を近づけ小声で「あの人が例の幼馴染?」と聞くと、ハルコちゃんは無言で頷いた。




 私はもう一度その女性に視線を向けて、試合の時でも出さない程の殺気を放った。


 10秒ほどそうしてただろうか、ママに肩を叩かれ、殺気を止めて目を向けると、森山くんが怯えた表情をしていて、慌てて森山くんに「ち、違うの! 今、ペルビアンジャイアントオオムカデっぽい虫が居て、危ないから駆除しようとしたら逃げられちゃったの!」と必死に誤魔化した。


 流石森山くん、私の殺気を直ぐに感じ取ったみたい。

 今後は森山くんの前では自重しなくては、と反省していると


『ええ!!?? ペルビアンジャイアントオオムカデって、南米アマゾンに生息する毒ムカデの!? そんなのが居たら大ニュースだよ! こういう時は保健所かな!? 市役所のがいいのかな!?』




 なんで森山くんペルビアンジャイアントオオムカデを知ってるのよ・・・

 誤魔化すどころか、話がややこしくなったじゃないの・・・









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