2章 管鮑の交わり

#15 漆原親子、森山家へ




 週末の土曜日


 今日は森山くんのお家へママと二人で謝罪に伺う。



 森山くんとは無事にお友達になれて良好な交流を続けてはいるけど、親御さんとなれば話は別で、正直緊張と恐怖で朝から落ち着かない。


 塩まかれたりするのかな

 それともコップの水を掛けられるのかな

 お説教だけで済んだら御の字かな


 そんなことを心配していると、ママから「もうヒメカちゃんは相変わらずネガティブなんだから! シャキっとなさい!」と怒られた。



 森山くんに教えてもらった住所をスマホのナビを頼りに歩いて向かっている。


 お詫びの手土産は高級どら焼き。

 1個700円くらいする。

 絶対美味しいヤツだ。

 食べてみたいけど、流石に私の立場ではそんなことは言えない。



 約束の時間の11時より15分早いけど、目的の森山くんの家が見えてきた。

 というか、家の前に立つ森山くんが見えた。


 森山くんも私たちに気が付くと、気を付けの姿勢で頭を下げて

『おはようございます! お休みの日に態々すみません!』と大声で挨拶してくれた。


 それを受けて、ママが小走りして森山くんへ駆け寄ったので、私も急いで追いかけた。


「森山くんですね。初めまして、ヒメカの母です。 コチラこそご無理言いましてすみませんでした」


『あ!森山イチローです! コチラこそ漆原さんにはお世話になってます!』


 森山くんは相変わらず気を付けの姿勢で緊張しているようだった。


「森山くん、おはようございます。 今日はお休みなのに、ごめんね」


『いえ!大丈夫です! あ、狭い家ですが中へどうぞ!』


「はい、それでは失礼します」



 森山くんが玄関を開けて入り、後に続く。


 森山くんはお家に上がらずに中へ声を掛けた。

「母さーん! 漆原さんがいらっしゃったよー!」


 すると、奥から森山くんのお母さんがトテトテと歩いて来て、正座して一礼した。


「今日は態々来て頂いてすみません。 イチローの母です。 狭いところですがどうぞ上がって下さい」


 すると、ママが玄関の土間にヒザを付いて頭を下げ


「この度は大事なお子さんにケガをさせてしまいまして、本当に申し訳ございませんでした!」と謝罪したので、私も慌ててヒザを付いてしゃがみ頭を下げた。


 それを見た森山くんのお母さんが慌てだして「そ、そんなところで!お洋服が汚れちゃいます! 立って下さい! 中へどうぞどうぞ!」と促してくれた。




 リビングに案内されると、女の子が居て「妹のハルコです」と自己紹介された。

 中学生とのことで、お母さんによく似てて、とても可愛らしくてニコニコと愛嬌のある女の子だった。



 改めてお互いの自己紹介を済ませると、5人向かい合う様に座り、私と森山くんとで事件当時の状況の説明をして、ケガの経過の説明を森山くんがしてくれた。


 ママと私は何度も「すみませんでした」と頭を下げてたけど、その度に森山くんのお母さんが慌ててそれを止めてくれて、怒鳴られたり罵倒されるようなことは一切なかった。


 寧ろ、歓迎されているような、もてなされている様な、そんな雰囲気だった。



 30分程で一通り話し合いが終わり、その頃にはママも私も緊張が解けてきた。


 すると森山くんのお母さんが

「お昼の準備してますので、一緒に食べましょ? イチローのお友達が遊びに来るなんて凄く久しぶりだからね、奮発しちゃったのよ? 特上お寿司よ! ヒメカちゃんはお寿司好きですか?」


「え?ええ!? お、お寿司ですか・・・」 

 お寿司は好きだ、大好きだ。 しかし、ここでそれを言っていいの?今日は謝罪に来たんだよね?


 ママも慌てて「そ、そんな!どうぞお構いなく!」


 すると森山くんのお母さんも負けじと「えー・・・帰っちゃうんですか~? 折角お昼ご一緒しようと楽しみにしてなのに~」


 そしてママは「あの、その・・・・分かりました。ではお言葉に甘えて・・・」


「ホント! お昼ご一緒して頂けます!? それじゃあお食事の用意始めちゃいますね♪」と楽しそうに小躍りしながらキッチンへ行ってしまった。なんか可愛い。



 ママと顔を見合わせてアイコンタクトをしていると


『ウチの母がすみません。 僕が友達を家に招くのが相当嬉しかったみたいで、はしゃいでしまって・・・お恥ずかしい』


「明るくて楽しいお母様ですね。 私も色々と見習わないといけないわ」


『え? いえ、漆原さんのお母さんのが、とてもしっかりしてらっしゃるし、物凄くお綺麗ですし、ウチの母なんて明るい性格だけが取り柄ですし』


 むむむ?

 ママのこと”物凄くお綺麗”とか言ってる。 なんかモヤモヤする。


 耳をダンボにしてママと森山くんの会話を横で聞いていると、ハルコちゃんに話しかけられた。



「ヒメカさんは、兄のクラスメイトなんですよね?」


「はい、そうですよ」


「学校での兄は、相変わらず目立たない様にぼっちなんですか?」


「う~ん、そうですね。 でも学校だけですよ。 学校以外では私ともお喋りしてくれるし、ドズルちゃんと遊ぶ姿は本当に楽しそうだし、あの時だって私のことを守ろうとしてくれた、とても強くて優しい男の子です」


 私の話を聞いたハルコちゃんは、目を大きく見開いて、ビックリした顔のまま固まった。


「ハルコちゃん? なんか変なこと言っちゃったかな?」


「あ!いえ! ヒメカさん! 今から私の部屋行きませんか!? 大事なお話があります!」


「え? 良いですけど・・・」

 チラリとママと森山くんに視線を向けると、二人とも楽しそうにお喋りに夢中になっていたので、ハルコちゃんの部屋に行くことにした。






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