#09 ヒメカの恋の芽生え
森山くんが私の手紙をカバンに仕舞うのを見届けた後、教室に戻り私も帰り支度を急ぐ。
いつ森山くんから連絡があるか分からないし、出来れば落ち着いて連絡の応答が出来る様に家で待機したいから。
学校から出ると、カバンからスマホを取り出して握りしめながら歩く。
急ぎ足で歩いていると、昨日の公園前まで来た。
昨日の森山くんの姿を思い出す。
よろけながらも立ち上がり、私に向かって『大丈夫です。もう平気です』と言って優しい微笑みを向けてくれた。
辛うじて名前を知っていた程度のクラスメイトで、特に意識したり注目したりすることは無かった人。
でも立ち上がって優しく微笑む姿は、今まで見てきたどんな男性よりも強くて恰好良かった。
急に顔が熱くなる。
むむ
さっきまで森山くんのことを考えると、罪悪感と嫌われたかもしれない不安で落ち込んでたのに、あの時の森山くんの姿を思い出すと、顔が熱くなる・・・
私、森山くんを男性として意識しはじめているの???
そう考え始めてしまうと、今度は自分の手紙の内容を思い出し、更に顔が熱くなってくる。
”お友達になってほしい”と書いた。しかも手紙で。
手紙を書いていた時は、これからはスマホで気軽に連絡できる程度のお友達にでもなれればと深く考えずに書いたけど、態々手紙で友達になりたいだなんて、まるで「お友達からお願いします!」と告白してるみたいじゃないの・・・???
ううう~
胃が痛くなってきた。
どうしよどうしよ
蹴り入れて失神させた相手に、翌日告白する女だなんて思われたらどうしよう。
暴力女で、すぐに色目を使うはしたない女
恥ずかしい・・・
本当の私はこんなんじゃないのに。
生徒会役員で空手の有段者で、学業だって頑張って学年上位をキープしてる。
野蛮な女だって思われないように身嗜みは人一倍気を付けているし、言葉遣いや態度だって女性らしさを忘れないように心がけてきた。
お陰で学校では周りの友達はみんな慕ってくれるし、異性から告白されたことだって1度や2度ではない。恋愛に興味が無かったから全部断ってきたけど。
そんな私が、昨日森山くんを失神させてからは散々だ。
ダメだ
こんなことで動揺していたら、更に失態を繰り返してしまう。
曲がりなりにも私だって武道家の端くれ。
こういう時は精神を統一して、気合を入れなおそう。
私は公園の中に入るとベンチにカバンなどの荷物を置き、ローファーと靴下を脱いで地面に正座し、一礼してから背筋を伸ばして目を閉じ精神統一を始めた。
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