#08 三十六計逃げるに如かず



 朝から漆原さんに晴山くんとクラスでも人気者の二人に絡まれてしまい、日陰ぼっちの僕が取った対応は、逃げることだった。


 三十六計逃げるに如かず

 逃げるが勝ち

 逃げるは恥だが役に立つ


 最後のはちょっと違うか


 しかし、僕にはそれしか手段が無かった。

 どうせ教室には僕の安息の地など無いのだ。


 授業さえ受けていれば、高校生活などなんとでもなるだろう・・・・たぶん。



 常日頃から他人と関わらないように気をつけていたけど、昨日の自分が取ってしまった行動のせいだし、自業自得だと諦め、トイレの住人となるしかないのだろう。



 昼休憩に非常階段でぼっち飯を済ませて予鈴が鳴ってから教室に戻ると、案の定、教室の雰囲気が一変していた。

 クラスメイトたちがチラチラと僕を見ているのが分かる。

 昨日まではこんなことは無かった。


 これまで存在自体だれにも認識されていなかったはずの日陰ぼっちが、いきなり学園のアイドルとも言える漆原さんに話しかけられたのだから、そりゃ誰だって「あいつ誰?」「ぼっちがなんで?」「モブのくせに生意気!」って思うのは当然だ。



 これからはより一層自分を戒め、気配を消す訓練に励まねば・・・と決意を新たにし、放課後帰宅部の僕はそそくさと帰ろうとすると、これまた厄介な爆弾が下駄箱に仕込まれていた。



 そう、下駄箱と言えば、手紙だ。

 本来、靴や上履きを仕舞うはずのスペースなのに、なぜか時々ポストの代わりにされている下駄箱。



 まぁ、僕宛の手紙っていったら、イジメによる嫌がらせか、罰ゲームの嘘告か。

 いずれにせよ、ロクな物でないのは分かる。


 はぁ、今日は全くなんていう一日なんだ。

 たった1度、女生徒を不審者から守ろうとしただけだというのに。 


 やっぱり中学の時にカスミたちが言っていたことが真理なんだろう。


 ”親切の押し売りは、ただの迷惑”



 とりあえず手紙の中身を確認する必要はあるが、人通りの多い玄関では不味いと思い、カバンに仕舞い家路を急ぐ。



 こんな気分の時は、ドズルと一緒に走り回って汗をかくのが一番だ。


 帰宅すると、素早く着替えていつものようにドズルを連れて小学校の校庭を目指す。


 昨日、帰りが遅くなり妹のハルコを心配させたし、怪我のダメージが残っていることもあったので、10分程度で今日は引き上げる。

 ドズルはまだ物足りなさそうだったけど『家まで競争だ!』と僕が掛け声をかけると、すぐにスイッチが入った様で、自宅目指して猛ダッシュしてくれた。


 ヘトヘトになりながら家に帰ると、ドズルの飲み水を用意してから自分もシャワーを浴びる。


 夕食をハルコと一緒に食べてから自室に戻り、勉強を始めようとカバンを開けて手紙の存在を思い出した。



 すっかり忘れてた。

 まだ僕の厄災は終わってなかったのだ。



 そして、ビビりながら封筒を開封すると、便箋に綺麗な字でびっしり書かれた三枚分の手紙が入っていた。


 一瞬呪いの手紙か!?と恐怖したけど、送り主を確認すると、”漆原ヒメカ”と書かれていた。





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