#05 翌朝の教室




 翌日、朝起きて洗面所で昨日蹴られた頬を鏡で確認する。



 特にアザとかは出来ていない様で、ケガらしいのは切れた唇だけだった。

 これなら何とか誤魔化せそうだ。


 昨夜は家に帰って、夜になってからダメージが出てきて、蹴られた頬は熱を持って凄く痛いし、頭もズキンズキンと響いた。


 朝になり頬の痛みや頭痛は多少残ってはいるけど、昨夜に比べれば大分マシだ。




 学校へ行く準備を整えると急いで朝食を済ませて家を出る。

 母さんや妹のハルコが心配そうに見ていたけど、気が付かないフリをした。




 学校へ登校し教室に入ると、既に漆原さんは教室に居た。


 気配を消して目を合わせないように静かに教室に入り、自分の席に着く。


 いつもの様にスマホを取り出しゲームを起動させ、デイリーの周回をこなす。

 毎日やっている作業なので、無心になって進める。


 スマホの画面を見つめていると、隣に人が立っている気配を感じるが、このクラスで僕に用事がある人なんて居ないので、隣の席の人に用事があるんだろうと、気にせずにゲームを続ける。



 すると

「森山くん、怪我は大丈夫ですか?」と女性の声がしたのと同時に、昨日蹴られた左頬を触られる。


 いきなりのコトで『どわっ!?』と変な声を出してビックリしてしまい、そのままイスから飛び跳ねてイスごと倒れて床に尻もちを着いた。


「きゃ!大丈夫!!??」


『あ! 漆原さんでしたか・・・失礼しました・・・』


「こちらこそ急に話しかけてごめんなさい!」


 これ以上迷惑かけてはいけないと昨日から考えて、接触しないようにしていたのに、漆原さんの方から来てしまった。

 しかも教室で。

 これは不味い。非常に不味い。

 僕の様な日陰ぼっちが漆原さんのような人気者と会話なんてしていたら、みんなの注目を集めてしまう。


 そうなれば、きっとみんなから僕はウザがられるだろう。



 立ち上がって漆原さんの方へ顔を向けると、クラスメイトたちがコチラを注目しているのが視界に入る。


 やっぱりだ・・・


 慌てて『ケガは無いのでもう大丈夫です。コチラこそ余計なことしてご迷惑おかけしました。すみませんでした』と早口で伝え、90度腰を折って頭を下げて、急いで教室から飛び出し、トイレへ逃げ込む。



 まさか漆原さんから声を掛けられるなんて思ってもいなくて、油断していた。

 それにしても不味いことになったな・・・


 あんなに注目を浴びてしまっては、きっと他にも絡んでくる人が出てくるだろう。


 そして、結局僕はまたウザがられるんだ。


 昨日まで何とか平和に過ごしてきたのに、漆原さんを助けようとしたばかりに厄介なことになってしまった。



 トイレの個室で一人頭を抱えて居ると、HR前の予鈴のチャイムが聞こえた。



 僕は重い足取りで廊下を戻り、担任が教室に入るタイミングでどさくさに紛れて教室に入る。


 いつもの様に気配を消して席に向かうと、ふと視線を感じ、その視線の方を見てしまう。


 視線の主は漆原さん

 バッチリ目が合ってしまった。

 しかも漆原さん、なんだか泣きそうな不安そうな悲しそうな、そんな顔している。

 いつもの凛々しい優等生っぽさが全く感じられない。



 席に着いてから必死に考える。


 コレは本当に不味いぞ

 他人から見たら、まるで僕のせいで漆原さんを悲しませているみたいじゃないか


 どうしたらいいんだ


 いや、僕にはこんな状況を好転させるのは無理だ

 もしそんなことが出来る様なら、最初から周りと上手く付き合ってる。

 今みたいに周りを避けるような生活なんてする必要ないし。



 嫌な汗が止まらない

 もう自分じゃどうすることも出来ないと絶望しているとHRが終わり、早速クラスメイトの晴山くんに声を掛けられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る