#02 イチローとドズルとヒメカ、初めての会話





 好きだった幼馴染の言葉に絶望していると、ドズルの吠える声が聞こえてきた。


 気が付くと、僕は冷たいアスファルトの上で寝転がっていた。


 左頬と頭が痛い

 ああ、そうだ。 顔面にケリ入れられて倒れたんだ。

 今のは夢か・・・



 朦朧とする頭を押さえながらなんとか上半身を起こしドズルを見ると、僕を守るかのように女性に向かって吠えて威嚇しているようだった。

 女性に視線を向けると、オロオロしながらドズルを宥めようとしている。


 ガルルルッ(やらせはせん!やらせはせんぞ!)


『ドズル、吠えたらダメだよ。怖がってるでしょ、こっちにおいで』と声をかけると、威嚇を中断したドズルは僕に抱き着くように飛びついてきて、顔をペロペロ舐め始めた。 


 う、臭い・・・


「ごめんなさい! 痴漢と間違えました・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」


 ドズルにヨシヨシしながら女性を見ると、同じクラスの漆原さんだった。

 道理で見たことある後ろ姿だと思った。


『不審者居ませんでした? 何かされたりしませんでした? 大丈夫ですか?』


「ええ・・・すぐに走って逃げて行ったようです・・・」


『そうですか、なら良かった』


 そう言って立ち上がろうとすると、頭が重くてノックダウンしたあとのボクサーみたいにグラっとよろける。

 

「だ、大丈夫ですか!? 無理したらダメです!」


 あー僕がダメージ受けてるの見たら、漆原さん責任感じちゃうか


 歯を食いしばって立ち上がる。


『大丈夫です、大丈夫です。もう平気です』


「で、でも・・・」


『僕のことよりも、もう暗い時間だから早く帰った方がいいですよ? 確か漆原さんですよね? ココからお家は近いですか?』


「え? ・・・・あぁ、確か・・・森山くん?」


『ええ、そうです・・・』


 漆原さんが、僕の名前を知ってることに驚いた。


 何せ、僕は学校では誰とも関わろうとせず、常に気配を消して一人で過ごす日陰キャラだから。 そんな僕の名前を知ってるなんて思いもしなかった。


『あの・・・家まで送って行きましょうか? 不審者がまだその辺ウロウロしてるかもしれないし』


「そ、そうですね・・・お願いします」



 ココから漆原さんの家まで歩いて10分程度らしい。


 歩く間、お互いずっと無言だった。




 漆原ヒメカさんは、僕と違って学校では人気者だ。


 黒髪のストレートロングで、色白で染み一つない肌にキリリとした眉毛と意思の強そうな瞳。誰もが認める正統派美少女。

 スタイルは女子としては身長は高いほうで体形はスリム。

 成績は学年上位で、性格も落ち着きのある真面目な優等生で、生徒会の役員もしてる。


 教室でもいつも周りに男女関係なく友達が集まってて、僕とは正反対の人だった。



 無言で歩いていると(しまった・・・家に送るとかまた余計なお節介をしてしまった・・・僕みたいな根暗ぼっちと一緒に歩くなんて、漆原さんにしてみれば迷惑でしかないよな)と気が付き、後悔の念に襲われた。



「ここがお家です・・・今日はすみませんでした・・・送ってくれてありがとうございます」


 漆原さんの視線を感じたが、僕は余計なお節介をしてしまった申し訳無さで漆原さんの顔を見ることが出来ず

『いえ、コチラこそ余計なお節介でした・・・すみません。それじゃあ』と言って、ドズルを連れて逃げるようにその場を離れた。



 ドズルと歩く帰り道


 やっぱりお節介なんてするとロクな目に会わないな

 第一、僕が助けに入らなくても、あの回し蹴りで不審者撃退したたんじゃないか?

 結局、僕のお節介は迷惑なだけだったな

 これ以上漆原さんに迷惑掛けないように、学校でも気をつけないとな


 そんなことを考えながら、トボトボ歩いた。

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