モブの僕がヒロインを助けたら回し蹴りを喰らって失神して、ラブコメが始まった

バネ屋

1章 塞翁が馬

#01 始まりとトラウマ



 学校から帰り、着替えを済ませると、庭にある犬小屋から

「く~ん、く~ん」とドズルの鳴き声が聞こえてくる。


 ドズルは3歳のビーグル犬。

 もちろんオスだ。


 ドズルは帰ってきた僕に(早く散歩行こうよぉ)と催促しているのだ。


 運動靴を履き散歩用のリードを持って犬小屋に行くと、ドズルは(待ってました!)とばかりに二本足で立ちながら僕にしがみついてくる。


 可愛いやつめ


 興奮するドズルの首輪にリードを繋げてから、鎖を外す。


 それを合図にドズルは走り出す。


 引っ張られるように僕も後に続く。



 散歩コースは、自宅から住宅街を抜けて河川敷の堤防を通って、小学校を目指す。

 小学校に到着するとリードを外してあげて、好き放題遊ばせる。

 最初は一緒に走り回ってあげるけど、30分ほどで僕の方がスタミナ切れで座り込んで、放置。


 あたりが暗くなり始めたら『ドズルー!帰るよ~!』と大声で呼びかけると、スタタタタと僕のところに戻ってくる。


『ヨシヨシ』と言いながら首をガシガシしてやると、嬉しいのか僕の顔をベロベロ嘗め回そうとする。


 でも、犬の口臭ってちょっと臭いんだよね。

 僕のであるドズルでも、臭いものは仕方ない。


『やめーい!』って言いながら顔面を手で押さえて、素早くリードを繋げる。





◇◆◇





 家に向かって歩いていると、僕と同じ高校の制服の女性が歩いていた。

 ただそれだけだったら、気配を消して素通りするんだけど、この時は脚を止めて様子を伺った。


 なぜなら、怪しい男性がその女性の後ろを付けていたから。

 帽子を深く被り周りをキョロキョロしながらも女性との距離が不自然で『もしかして、痴漢?』と思い、あとを付けた。


 普段の僕だったら面倒ごとは避けて、こんな場面でも気が付かないフリしてスルーするのに、その女性の後ろ姿が知ってる生徒に似ていたからなのか、ほおっておくことが出来なかった。


 女性は住宅街を歩き続け、小さな公園の前に差し掛かっていた。

 すると不審者は急に歩く速度を速め女性の後ろに迫った。


 僕は『あ!』と思わずドズルのリードを手放して走り出す。


 不審者が女性の肩に手をかけようとしたのと同時に僕は不審者の肩を掴む。


 すると不審者はよほどびっくりしたのか「うわぁ!」と変な声をあげながらひっくり返るように地面に尻もちをついた。




 その瞬間、僕の視界にケリが飛び込んできた。


 どうやら、僕の顔面に女性が振り向きざまに回し蹴りをしたようだ。


 ノーガードで顔面に重い衝撃を受けたと同時に、膝から崩れ落ちる。

 僕は薄れゆく意識の中、やっぱりお節介なんてするんじゃなかった、と思った。









 ◇◆◇









 廊下に立っていた。

 目の前の教室は2年3組と書かれている。


 あぁここは中学の時の教室だ。


 中から女子生徒数名の話し声が聞こえてくる。

 一人は僕が良く知っている人の声。


「カスミちゃん、今日は森山と一緒に帰らないの?」


「いいのいいの、あんなのほっとけば」


「えーそれひどくなーい?」


「あんなにカスミLOVEで尽くしてくれてるのに~」


「カレシでも無いのにいちいちウザいんだよねぇ」


「あーでもわかる! 森山って、いい人なんだけど空気読めてないっていうか、親切の押し売りっていうか、そういうとこあるよねー」


「そうそう!ソレソレ! 頼んでも無いのにいつも私にお節介焼いて、そのたびにイラってするんだよね」



 カスミとは家が隣同士で、幼稚園の頃からずっと一緒だった。

 僕はカスミのことが好きだったから、カスミのためならと思って何でもやってきた。 カスミだけじゃなくて、友達やクラスメイトに対しても、みんなが嫌がることとか進んでやっていた。


 でもそれがタダの迷惑だったと突き付けられた瞬間だった。






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