第2話 医療行為


彼が言うには私は事件発生から3週間程、気を失っていたらしい。

犯人は未だ逃走中、彼氏を名乗る男。

分かっていることは思ったより少なかった。

少し過去のことを思い出す。

大学に入学した年の記憶はあるようだ。

つまり3年前の記憶はあると言うわけだ。でもそれから今日までの2年間程の記憶がない。

「私は入学して…それから」

なにも思い出せない。

正直、彼のことはイケメンだと思う、優しいイメージで綺麗な二重、それに柑橘系の爽やかな匂いがする。

あんな人が私の彼氏。

記憶にない過去の自分は大層良い学生ライフをおくっていたようだ。

そんなことを考えていると突然、病室のドアが開いた。

白衣を着た男が入ってくる。

青色のマスクをつけ、ゴム手袋をはめている。頭には手術の時に被るような帽子を着用している。

お医者さんだろうか。

白衣を着たその男は無言でこちらに近づいてくる。顔はよく見えない。

その男は軽く会釈をした後すぐに私に繋がれている点滴袋に目を遣る。

残りの液体の量のチェックをしているのだろうか?注射器のようなものを取り出し、追加の液体を点滴袋に注入する。

「あのー…」

不審がった私は声をかける。

たがその男はまた軽く会釈をして病室から出て行ってしまった。

あの人はきっと医者だろう。

無愛想な人だ。

私は3週間ぶりに目が覚めたのだ。

「体調はどうですか?」の一言くらいあってもいいだろう。

もしかしてあの人は通り魔事件の犯人で殺し損ねた私を殺しに来たのかもしれないと妄想する。

我ながらバカらしい、ここは病院だ。そんなことはありえない。

それに新人看護師という可能性もある。

入院なんて今までしたことなかった私は病院のルールを知らないだけかもしれない。ドラマや映画の医者のイメージと現実では違うのかもしれない。

そう思うと人生初めての入院。

今後の入院費や治療費、いろいろと考えることが増えてくる。

事件や失った記憶のことですらいっぱいいっぱいなのに今後のことなんて今はとても考えきれない。

なんだかドッと体が疲れてしまった。

どんどん眠くなっていく。

今後のことや事件のこと、記憶のことに、彼のこと。

考えるのはまた起きてからにしよう。

それに今はまだ完治していないのだ。

思えばさっきから少し頭が痛む。

だがその痛みを超える眠気。

気がつくと私はまた眠りについていた。

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