すぐそばに
アケローン川出身大猫
第1話 目覚め
「逃げろ!」頭の中で誰かが私に向かって叫んでいる。
苦しい。。。
頭に衝撃が走る感覚に襲われ私は目を覚ました。
簡素なベット、見覚えのない白い壁紙、独特なアルコール臭
寝起きのボケた脳でもすぐに理解できた。
ここは病室だ。
右腕には点滴が刺されている。
正直なにも覚えていない。
状況が分からずあたりを見渡すと隣に男が椅子に座っていた。
「あの〜」
人見知りの私は勇気を出して声をかける。
「おっ目が覚めたのか!よかったー心配してたんだ!」
いまどき風のラフな格好をした男は笑顔をこちらに送る。
ますます状況が読めなくなる。
この人は誰で、私がなぜ病室にいるのか思い出せない。
私が不思議そうな顔をしていると男が続けてこう言った。
「大丈夫かい?なにがあったか覚えてる?僕のことは…」
私は正直に答えた。
「何も覚えてません。あなたのこともさっぱり…」
男は一息飲んだ後に今までの出来事を鮮明に話してくれた。
どうやらこの男は私の彼氏で、私は彼と歩いている時に通り魔に襲われて気を失いこの病院に運ばれてきたらしい。
自分の耳を疑う。
あまりの衝撃に言葉が出てこなかった。
「記憶が自己防衛のため一部消えてしまっている可能性があるとお医者さんが言っていた。
そんな…ほんとに覚えていないなんて」
彼は暗い表情を浮かべながら言った
「その通り魔は…?」
「僕たちを襲った後バイクに乗って逃走したらしい…未だ逃走中だって、でもここは安全だよ」
彼は自分の後頭部をさすりながら言う。
「凶器は鉄パイプだったらしい」
私も自分の頭を撫でる。
ガーゼや包帯でがっちり傷が塞がれているようで触ってもゴワゴワとした布の感触しかしなかった
「もう大丈夫だ」彼は私の頭をポンポンと優しく触りながら言った。
傷があることに気づくと痛みだしてしまうのが人間、私も例外ではないみたいだ。ズキズキと傷が痛む感覚に襲われる。
「僕も15針は縫ったよ。君の方が重症だけどね。僕は君を守れなかった…」
気を落とす彼
「大丈夫ですよ!生きてますし…記憶はないですけどこうやって2人で話してる」
励ます私
記憶はないし、まだ混乱している私はこんな言葉しか出てこなかった
「あぁごめん僕もう行かなきゃ、詳しい事はまた来た時に話すから!目が覚めてほんとよかった。今はいろいろ混乱してると思うけどきっと大丈夫だから、あぁそれとまだ病室とかから出ちゃダメだよ傷が開いちゃう」
時計を確認した彼は立ち上がり足早に出口へ向かう
「待って、まだあなたの名前を聞いてなかった」
私は急ぐ彼を呼び止めるように言う
彼は一コンマ時間を置き言った
「いつかきっと思い出す」
こちらに背を向けたまま答えた彼はそのまま部屋から出て行ってしまった。
静まり帰った部屋は時計の針の音がうるさいほどに聞こえる
目が覚めてから今まであっという間の出来事だった。
何かのドッキリかとも思った。
でも何があったか思い出せないのは事実だ。
私の彼氏と名乗るあの男は本当に大雑把な事しか教えてくれなかった。
急いで出て行った様子を見るに仕事だろうか。きっと彼は仕事の合間に来てくれたのだ。さっきまで彼が座っていた椅子を見るとその横には綺麗な花が飾られていた。これを届けるために来てくれたのだろうか。
そして運がいいことに私は彼が来ている時間に目を覚ました。
よくできた話だ。
これは現実なのか?あまりにフィクションのような今の現状に私はただ途方に暮れていた。
軋むベットに横たわる。
今わかっていることを自分なりに整理しよう。私はゆっくりと考え始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます