第14話 魔族の村 1


「……まあ、解決ってことにしておいてあげるわ」


 アマヒルダの口からその言葉を引き出せたのは、私たちがあの女と対峙してから三日が経ってのことだった。

 あの後あの女は霧のように消えてどこかへと去っていき、それと同時に瘴気の少女もどこかへと消えていってしまった。私はその状況こそは呑み込めなかったものの、あの女にも何かの事情があって私たちは命拾いをしたのだということは嫌でもわかってしまった。それと同時に、私たちの知らない何かが起きているのだということも。


 私たちは魔王が突然現れたなどと騒ぎ立てているが、冷静に考えてみれば魔王というのも一つの命であり、唐突にこの世界に現れた何かなどでは決してない。つまり魔王は現れるべくして現れた存在であり、何かの意図があって私たち人類を攻撃しているのだ。

 そして、それにはあの女のように協力している者がいる。あの女は人間のことを餌だと言っていたが、人間を捕食する存在など私の知る限りでは存在しない。つまり彼女は私の知らない存在であり、おそらくそれは魔王も同じだろう。人類の手が及んでいない場所で、人類を滅ぼさんと息をひそめていた者たち。到底信じられない、それこそおとぎ話のような話しだが、たしかに今そんな者たちが人類を攻めてきているのだ。

 そして、あの女が私に言っていた、『お前が魔王様の言っていた……』という言葉。魔王の伝説に出てくる勇者という存在。ライランの生き残り……


(……嘘であってほしい……)


 その運命は、私にはあまりにも重すぎる。ただでさえ、私は人類の中でも下から数えた方が圧倒的に速いくらい貧弱なのだ。それに───


「お金がない!」


 私の思いとリンクするように、悲痛なアマヒルダの叫びが宿内に響き渡った。

 元々私もアマヒルダも手持ちが少なく、私たちの旅は節約節制の旅だったのだ。街に寄るたびに細かな依頼をこなして小銭を稼いでいたが、ここ三日はアマヒルダの謎のこだわりで瘴気の少女の探索に一日のすべての時間を費やしていた。なんでそんなに───などと今更文句を言っても仕方がないので詳しいところは割愛するが、とにかく私たちの手元には旅の支度を整えられるほどの資金もないのだ。


「まあ、依頼を受けるしかないでしょうね」

「……そうね。本業はそれだし……」


 どこか不服そうなアマヒルダは、そう言ってから大げさにため息をついた。


「今はそんな場合じゃないってのに……いろいろ気になることもあるし、やるべきことも……」

「そんなもの誰にもあるでしょう。それをやりたければまずは仕事をしなさいってことよ」

「はぁーあ。あたしたちは仮にも勇者ご一行なのに」

「世間的にはただの冒険者よ」


 私はそう言いながら、ふと勇者として活動している彼のことを思い出した。数日前に耳にした情報では、彼は魔王が息をひそめている間に修業を積んでいるらしい。本当にそれだけの些細な情報しか入ってこなかったが、どことなく私は安堵のような感情を抱いたものだ。王都スタークでの印象は決していいものではなかったが、アレでも同じくライランから生き延びた仲間でもあるのだ。どこで何をしているかというのは、やはりどうしても気になってしまう。


「とにかく、依頼を受けに行きましょうか」

「……そうね」


 私たちはそう言って頷き合うと、冒険者ギルドへと足を運ぶのだった。


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人魔戦争 @YA07

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