第12話 瘴気の少女 5


「へー……そんな魔物がいるのね」


 言葉には出さなかったが、何か言いたげな目をしたアマヒルダが私の話を聞いてそう言った。

 別に私の出自は隠しているというわけでも……あったりなかったりするわけだが、普段から魔物を見かけては「あれは何?」「これは何?」と聞いていた私から出てきたその話に、アマヒルダは少なからぬ疑問を感じているようだった。

 しかしアマヒルダはそんな目をするだけにとどめて、話題を私の話の内容の方へと持っていった。


「ニアプール……ねえ。クルスタじゃそんな魔物聞いたことないわよ。もしそんなのがいたら警備兵隊も冒険者ギルドも思いついてるでしょ?」

「うぐ……それはそうね。……でも、もしかしたら魔王の影響でここまでやってきたとか……」

「……」


 私の苦し紛れの推測に、アマヒルダが眉を顰める。

 私としてはいいひらめきだと思ったのだが、アマヒルダはそう感じていないようだった。しかし、たしかにこの辺にはいないと言われてしまえばそれまででもある。


「ていうか、その話に続きはないの?結局どんな魔物だったわけなのよ」


 ぶっきらぼうにアマヒルダが放ったその質問だが、私は言葉を詰まらせることしかできなかった。


「……なによ、続きはないの?」

「……ええ」

「はあ?……じゃあ、その牛飼いたちはどうしてるわけ?」

「消える牛のことは諦めてるらしいわ」

「……なにそれ」


 それじゃあ意味ないじゃない。とアマヒルダが呟く。

 それは至極尤もな意見であり、その話を聞いた私も当時はもやもやとした気持ちを残していたものだった。

 とはいえ、私も何もこの話がストレートに解決へと直結するとは思っていない。何かの糸口になるのではないかというだけの話だ。それを伝えると、アマヒルダは渋々といった風に納得を示した。


「まあ……そうね。そこまで言うなら信じるわよ」

「……ありがとう」

「なによ、調子狂うわね……とにかく、そのニアプールって魔物が犯人だったとしたら、どうなるわけ?」

「ニアプールは牛を消すっていう魔物だわ。でも、ただどこかに消すなんて意味わからないし、意味もないじゃない。魔物だって生き物なのだから、何か目的があるはずよ」

「そうね」

「だから、牛を消しているというよりも、牛を攫っていると考えるべきだわ。牛飼いからしたら攫われてようが消されてようが同じ被害だからどうでもいいのかもしれないけれど」


 そこまで私の考えを話すと、アマヒルダも私の言いたいことを理解したようだった。


「なるほどね。謎の少女が現れるっていうのは、攫おうとしている最中のことってわけね」

「ええ。どこかの少女を攫おうとして、そのどこかから町周辺まで転移させて…………」


 ……で?という疑問が浮かび上がる。

 私は一度頭を振って、話を切り替えた。


「その前に、ニアプールがなぜ牛を攫っているのかを考えるべきね」

「それは捕食じゃないの?普通に」

「そうね……だとしたら、その少女も食べるために?……でも、牛は消えても牛飼いたちがその対象になったことはないのよね。ならニアプールは人を食べないってことかしら……」


 私がぶつぶつと考えを呟いていると、アマヒルダは何か思いついたような顔をして視線を下に向けた。

 そして、ゆっくりと口を開く。


「……謎の少女に出会った報告って、毎日来てたわよね?」

「ええ。……!」


 その言葉を聞いて数秒。私もアマヒルダの言わんとしていることを理解して、アマヒルダの顔を凝視した。


「……もし、もし誰もその少女に合わなかったら……」


 私の言葉を聞いて、アマヒルダも顔を縦に振った。


「……何かが、起こるかもしれないわね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る