第5話 救済の力 5
「はぁ⁉何もできない⁉」
周囲を気にすることもなくそう叫んだのは、もちろん私ではなくアマヒルダのやつだ。
いちいちそんな声を荒げなくてもいいだろうに、アマヒルダは必要以上に反応をする……一言で言えばうるさいやつだった。
事の発端は、ギルドの飲食ブースにていざ何の依頼を受けるのかという相談を始めた時だった。
あのギルドマスターには打ち明けなかったが、これから一緒に行動することになるアマヒルダにまで私の本当の実力を隠しておくわけにはいかない。そう思って正直に打ち明けた結果が、これというわけだ。
「じゃあ……じゃあアンタには何ができるっていうの?」
「だから、何もできないって言ってるでしょ?戦闘は無理だし、ましてや冒険のぼの字も知らないわ。そもそも一時間も歩き続ける体力もないわね」
「それって……本当に何もできないじゃない……」
だからそう言っているでしょう。なんて言葉を言ってはまた叫ばれるだけなので、ぐっと飲み込んでおいた。
「あーあ。国からの極秘任務なんてどんなやつがこなしてるのかと思ったのに……」
そう言って大きく項垂れたアマヒルダは、そのまま机に突っ伏して動かなくなってしまった。
私に何の期待を寄せていたのかは知らないが、どうやら私のカミングアウトで相当やる気を削がれたらしい。
「……はあ。とにかく私は何もできないから、依頼とかはそっちに任せるわ。そもそも、やり方も知らないもの」
私が聞いているのかもわからないアマヒルダに向かって一方的にそう言うと、アマヒルダはしばらく沈黙した後のろのろと立ち上がった。
「……帰る」
「はい?」
「……今日はもう帰る」
アマヒルダはぽつりとそう言い残すと、そのままふらふらとギルドを出て行ってしまった。
私はその姿を見届けてから、先程のアマヒルダと同じようにして机に突っ伏した。
……なるほど。こちらでも面倒事を押し付けられたわけですか、と。
その後私がギルドで聞き集めた情報から、あのアマヒルダという女は実力こそ確かなれど相当な気分屋で、言ってしまえばガキなので誰ともウマが合わずギルド側も手を焼いているということだった。
そしてギルドには一人で依頼を任せると失敗率も高く、冒険者の死亡率もチームを組んだ時と比べて格段に高いというデータが昔からあるそうで、原則一人での依頼遂行は禁止しているらしい。それ故にギルドは相当な実力者であるアマヒルダを持て余している状況であり、色々と試行錯誤を試みているようだ。
そして今回その矛先が私に向いたというわけだが、私はあんなのと一緒は無理だと投げ出すわけにはいかなかった。
いや、本当にプライドやなんやを投げすれてばそれも可能だが、少なくとも私にそれをする気はない。私は非力だが、プライドだけは高いのだ。それはもはや貴族として生まれついたものの定めともいえるだろう。他人からナメられるのは最大の恥辱であり、また貴族の社会とはそういうものなのだ。貴族の社会からは外れた私だが、その精神だけは変わらず持っていた。
それに、考えようによっては好都合でもある。上手くアマヒルダと連携をとれてチームとして活動できればギルドからの評価や信頼も上がるし、何より私の実力も誤魔化せるだろう。無論命を必要以上に危険にさらすつもりはないが、私が冒険者として一端の稼ぎを得るには、普通に活動していてはいけないということもわかりきっている。ならば、今回の件はやはり好都合と考えるべきだ。
ただ、その肝心なアマヒルダがあの様子である。
今日は帰るということは、また明日になれば顔を出すということだろうか。だとしても、何時に?そもそも私は彼女の居場所を知らないわけだし、彼女も私の居場所は知らないだろう。
そんな疑問を一通り浮かべてから、私は深くため息をついた。
……面倒くさい。帰ろ。
そう思った私の思考回路は、アマヒルダと大差ないのかもしれない。
そんな自虐じみたことを考えながら、私はあの安宿へと帰っていくのだった。
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