第56話 その樹の下で貴方を腕に抱く

舞台は中世のある地方都市


時を知らせる修道院の鐘が鳴る鐘の音が響き渡る



街から少しばかり離れた山の街道


街へと向かう街道をほんの少し離れて

上に上がると街を見下ろす その場所は

野原や花畑があって

大きな樹が一本

眺めの良い素敵な場所がある


恋人達や子供達の憩いの場所

優しい風が吹いて来る 遊びに来た恋人達や遊びに来た子供達を

祝福するように・・


また春ともなれば小鳥が歌い樹の花が咲く

貴方の為に花を降り咲かす・・。


花ビラはヒラヒラ・・

踊るように舞い落ちる・・


そして

冬の日に

彼女は樹の下に立ちつくし

ジッと誰かを待ってるようだった。



初老の修道士は その美しい娘に

明るく声をかけた


「エリシアナ」声をかけられて神父に向かって

「ブラザー」 はにかみながら娘は微笑んだ

淡い銀色の髪と黄昏色の瞳をした美しい娘


紅い頬をした憂いを帯びた紫色の瞳が

彼を見つめてる



彼女の様子にほんの少しため息つき

こう口を開く

「もう今日は日がくれる」


「先日、体調を崩して寝込んだばかりだろう身体に触る

そろそろ家に戻った方が良い」


「風邪でもひいたら大変だよ

いやはや・・・そんなに何時間も

後ろの道ばかり 振り返っていては

ロトの妻のように塩の固まりになってしまうよ」



「ブラザー」 はにかみながら娘は微笑んだ

淡い銀色の髪と黄昏色の瞳をした美しい娘


紅い頬をした憂いを帯びた紫色の瞳が

彼を見つめてる



彼女の様子にほんの少しため息つき

こう口を開く

「もう今日は日がくれる」


「先日、体調を崩して寝込んだばかりだろう身体に触る

そろそろ家に戻った方が良い」


「風邪でもひいたら大変だよ

いやはや・・・そんなに何時間も

後ろの道ばかり 振り返っていては

ロトの妻のように塩の固まりになってしまうよ」


「・・はいブラザー」

娘は微笑んで答える


名残惜しげに彼女は樹を振り返りながら

街はずれの自分自身の家に戻る


修道士はため息一つ


可哀想な娘だ


十字軍に参加した幼なじみの黒髪の若者を待ってもう何年もああして待っている


一体 どうすれば良いものか・・



しかも 低い身分の貴族で身体が弱いとはいえ

あの美貌・・


身分の高い貴族や金持ちの商人が

世話をしたいと何人も声がかかっているという・・


それから

しばらくしての後に


半年も立たぬ間に

家の借財と歳の離れた弟の為に

実家への援助と弟の出世将来への約束の為に


都の高い身分の貴族のものとなり



そして

・・・

一年後に


ある夜、娘は血を吐いた・・


彼女は家に返され

静かに日々を送っている


身体は弱り この街で誰より医術の心得を持つ

神父は毎週 調合した薬を持ち

彼女の家に通う


「具合はどうかね麗しきレディ

エリシアナ姫」

少々おどけてウィンク一つ投げ掛ける神父(^_-)


そうして神父は彼女に微笑んで

口直しの為の蜂蜜を入れた暖かいハーブのお茶と薬湯を差し出す


「ブラザー・・」

ベッドに横たわるやつれた顔


彼女は身体を起こして目を細め

娘は小さな声でつぶやくように、声をだす


薬湯に少々 顔をしかめ 甘いハーブのお茶に

ホッとした顔をする


「昨日は食欲があっただってねエリシアナ」


「はいブラザー有難うございます」


「ブラザー」


「私 約束したのです


あの樹の下であの人を待たなきゃ」


「必ず役目を果たしたなら

帰って来るって約束したんです。」


「でも・・私は約束を破り


別の方の世話になってしまいました。」


「あの人に会いたいですブラザー」


「でも・・

こんな裏切りをしてしまった私ですがあの人に会いたいですブラザー」


彼女の瞳から流れ落ちる



涙・・。


「もう泣くのはおよし・・・・そなたのせいではあるまい・・。

きっと彼もわかってくれる」


「ブラザー・・」



そうして


そうして

雪の降りしきる日だった


彼女が家から抜け出して

あの恋人達の樹の下で倒れていたのは・・


助けられたものの・・・ひどい熱を出して

うわ言のように彼女は繰り返した・・


「彼に会いました

やっと彼に会えました・・

左の片方の瞳を戦で失っていたけれど


彼は私をあの樹の下で

その腕で抱きしめてくれたのです」


「雪が

まるで花ビラが舞うように

綺麗でした・・。」


嬉し気に語る


それから


それから

一月も立たないクリスマスが近くある日だった長い戦から

遠い土地から黒髪の青年が帰還した


熱い大地の下

日焼けして沢山の傷を身体に刻み

彼は彼女の待つ故郷に帰ってきたのだ


もう一つ

付け加えるなら

武勲、名誉、ちょっとした富、財産と

それに何より大事な命と引き換えに


その左の片目を戦地に置いてきたのだった・・



・・・

彼は全てを受け入れて

愛する娘を

その腕に抱きしめた・・


彼女にはわずかに数年の時間しか残されては

いなかったが


幸せな幸せな時間を過ごしたのだ


小さな忘れ形見の子供が残されて


それからその子供は

他の子供らに混ざり


子供達は何ごともなく

楽し気に遊び、あの樹の下で過ごしている


そうして樹の下で

恋人達は互いに

愛の言葉を囁きあう繰り返し

繰り返し


あの樹の下で

恋人は腕に抱かれる


花ビラが・・


雪が・・


彼らを祝福するように舞い落ちる


そうして変わらず

教会の鐘の音が時を告げて響き渡ってゆく......


FIN


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アドベント・・クリスマスの為の小話集 のの(まゆたん@病持ちで返信等おくれます @nono1

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