第44話 冬の王 宴の煌めく氷の城 一人の魔法使いの御話1

空の下で雪に覆われた大地と森 大きな湖

点在する小さな村や町


大きな湖の 空中に浮かぶ 一人の老年の男がいた・・

魔法使い その大いなる魔力により 冬の王と呼ばれた男


湖…


まだ完全には凍ってない 湖の水

そこに魔法の呪文が唱えられる・・。


そこに男の魔法の呪文と共に 幾つかの水の塊が空中に浮かぶ


やがて水はかたまり 様々な形をなして氷の彫像となる

翼を広げた氷の巨大な鳥や

羽のついた天馬(ペガサス)に変化する・・。



そして・・・いくつも氷の塊が空中に浮かびあがり

形をなしてゆく


湖の上・・・空に浮かぶ氷の城に・・



そして 他の氷の固まりは・・・


まだ凍ってない 湖の水

幾つかの水の塊が空中に浮かぶ・・


やがて形をなす氷の彫像・・


翼を広げた氷の巨大な鳥や

羽のついた天馬(ペガサス)に変化する・・。


氷の彫像達は

声を上げ・・羽をばたつかせる・・。



雪の競演の中で

氷の生き物が造り上げた

湖の上の氷の城は 空中に浮かび


美しい、光を浴びてその姿を輝かせている・・


雪だるまも

かりそめの命を与えられて 城造りを手伝う


それから

金の冠と豪華な毛皮の衣裳を纏う壮年の男が 氷の馬に乗り現れた・・

王は 手をゆるやかに踊らす それに合わせて水が答えるように

柔らかなウエーブを描く


水の中から氷の乙女達が現れ、微笑してくすくすっと笑っていた



知らせが来る・・


知らせが来る・・・


祭りの宴を楽しみに待つ村人たちの元へ小さな氷の生き物達が 駆け出した


村や小さな街の人々に 一夜の祭りが来る事を・・

宴の知らせを・・


男の手から生まれるのは 小さな灯かりの玉

幾つも

幾つもの・・光の玉


光の玉は手を離れると 夜空に浮かび

氷で出来た城を 幾つもの灯かりが 照らしだす


氷の彫像がそのまま動き出したような馬


その馬に乗った男が、 ひょいと杖を振るい 大地を杖で叩く


すると湖の水が 振動で揺れ まるで鉄砲水のように

弾けて 湖の空中に浮かぶ城

その城を めがけて 飛び上がる


水はそのままの形で氷つき

城の下部分に植物のツタのように絡みつく・・


小さい氷の生き物達が

一斉に集まり

固まった鉄砲水の氷に手を加えて、階段の形に仕立てあげる・・。


鷹は じっと男を見ている。


「・・そうさな、100年前の王達にくらべるなど

我が魔力は・・・微々たるもの 」


「その魔力により

大地は豊穣に満ちあふれ

癒しの魔法は多くの病から人達を救い 長い長寿と繁栄を得た。


そう私の出来る事など 微々たるもの・・。 

氷の城の宴と 冬の嵐から人々を守る魔法」


「前の王は、冬の中でも

果実が実り続ける永遠の森を一つ残された」


「我は何が残せるだろうか?」王は寂しげにつぶやき 思う・・。

「次の王ならば 、もっと多くの事は可能だろうか・・?」


鷹が 魔法を操る男の腕に止まる  まるで同じ姿をかたどった

氷の鷹も近くを舞う・・。


その顔に寂し気に笑みがこぼれる。



「そう、100年前の王に比べ 私の出来る事など ささやかだ・・」

「たった一晩の贈り物が せいぜいだ・・。」自嘲ぎみにつぶやく冬の王。



そして、ふと思い出す・・私を憎む あの魔女の事を・・

失った愛しい妃と同じ顔をした魔女・・雪の女王


「あの魔女めは、我が結界で閉じ込めておる 氷の宮殿の中で

私の事を どれだけ、笑っておるやら・・・。 」


氷の鷹達が空を舞う・・。


そして・・地下深く・・。

地下深くにある氷の中 その奥深くに女王の氷の宮殿がある


氷をくり抜き 見事な細工が彫られて 氷の柱が立っている

いくつもの部屋

だが・・いるのは・・

本来ならば 住人は唯一人・・。


美しき女王

彼女に使える 氷の僕(しもべ)たちがいるのみ・・


いや・・たまに 彼女に命じられて

彼女のために 生贄となる人間たちが浚われて 連れてこられる

王の結界のほころびから 水の塊として抜け出し おもに小さな子供たちを浚うのだ・・。


女王は 狩りに出ることが出来ない・・冬の王の魔法で

この地下にある氷の宮殿に 閉じ込められているからだ。


氷の迷宮奥深くにある 地下の氷の居城

氷は 形よく整えられて 見事な部屋の造形を再現されていた


その氷の部屋には 豪奢な調度品の家具が備えつけられ 大きな箱には

大きな宝石がついた宝飾品


天蓋付きのゴシック様式の大きなベットが置かれている


毛皮がベットの上に そして

そこに一人の見目麗しい女が一人


深紅の黒みを帯びた華やかな光沢のある生地のドレスをまとい眠っている

ドレスにはレースの縁取り 足元まで届く長い裾 細やかな金の刺繍


首元には赤い色のレースの大きな飾り 微妙な色のグラデーションをして

上のフチに小さな真珠色のビーズが少々。

スカートの裾部分には 他にも同じ生地で作ったバラの形をした細工を幾つか縫い付け小さなビーズが星のように輝いている。


部屋の天井の氷から 水がポタリ 滴り落ちる。


その清らかな水の水滴は 女のドレスの間 胸元の白いふくらみの間に滴る。


ぱちん! その美しい女は瞳を開く


「よく眠ったわ・・喉の渇きを潤すには 冷たい清らかな水も素敵だけど

まったりとした 薫り豊かな赤いワイン

いいえ・・生気を与え 若さを与える人の血がいい・・。」


美しい美貌の顔が 恐ろしげにゆがむ。



女主人の目覚めた事に気がつき 人体の形をした 氷の塊がゆっくりと近ずき

ワイングラスを差し出す。 ワイングラスは足の部分と下半分が黄金で出来ており

複雑な文様と 文様の中に赤いルビーで飾られたもの・・。


ワイングラスの中身は、赤い人の血

彼女の地下の城近くにあるのは 幾つもの火が閉じ込められた氷のツララ

そのツララの中の人から取り出したもの。


「狩りをしなくてはね・・。それとも 罠に獲物が囚われるのを

待つ・・どちらでも いいけど」


唇についた 血の雫をまるで 口紅でもひくように そっと自らの唇の上に

延ばす。


大きな赤いルビーの宝石が幾つもはめ込まれた首輪を手に取り

自らの首にかける。


「どうしょうか? 

またあの憎らしい冬の王が 黙ってはいまい

そろそろ あれを始末したいものだが・・」


私の宝石を目当てに 盗賊どもが群れをなして、やって来るが

皆 我の餌食・・しかし

やはり、若い女か 愛らしい子供の血が欲しいものよ」


女王の地下王宮の近くの森の雪や氷

雪に包まれた この辺りの森


それは 決して、女王の魔法により溶けない氷雪


天に向かい、突き刺すように出来た2メートル前後の氷のツララの柱群

中には それぞれ 哀れな犠牲者たちが 目を見開き 凍りつき入っている。


「お兄ちゃん」 


「!駄目じゃないか ついてきたのか アニス。」


「お兄ちゃん、これは・・・」


「氷雪(ひょうせつ)の魔女の宝を 狙った者たちの骸(むくろ)さ」


「・・・お兄ちゃん」

「魔女の王宮の近くに 雪の中でしか 咲かない薬草がある

あれが あれば 父さんと母さんの病が治るんだ。」


「魔女に・・魔女の手下に見つからないようにしないと・・。」



氷で出来た豪奢な部屋には 毛皮やペルシャ絨毯が飾りとして

敷き詰められている。


奥のクローゼットには 金や銀 宝石のテイアラや 首飾りや耳飾り

それから 絹織物や刺繍や宝石が縫いこまれた衣装の数々



「善人ぶった冬の王 彼が主催する祭りの宴が始まったか くくっ」

 笑みを浮かべ 女王は笑う。


豪華な衣装を纏い それに完璧に整った肢体を持つ 美しい顔の女


「宴の始まりか・・ふふん・・ 良い良い、それで良い」

宴の祝いに集まる村人 、その暖かな血潮 妾のグラスに注ごうか


さてさて・・どうやって

王の目を誤魔化すか・・ 早く この邪魔な結界さえ、なければ・・



美しい貴婦人は 綺麗な細工模様のボトルから ワイングラスに 紅い液体を注ぐ

一口飲み、満足そうな笑みを浮べた。


伏し目がちに微笑みながら

つぶやく・・極上の血潮・・・

子供の血・・


なんとも、まろやかで心地よい味



そして足元の二人の子供達を見る 先程,捕えた子供たち

「先の鋭い氷のツララで 苦しまないように 一気に貫いてあげる・・。」


男の子は 彼女、残忍な女王を睨みつける

女の子は半泣き状態で脅えている



「ふふふ・・助かりたい? 」

「片方だけでも 助けてあげようか・・?」


「それとも二人とも助かりたい?」 「ねえ 私の望みを叶えくれる?」

愉快そうに女王は優しく囁くのだった。



「あの善良な氷の城の主、王から奪いたいものがあるの」


少年の縄を解き、こう命じた

「この少女は妹 それともお前の大事な友達かしら?

まあ、どちらでもいい・・大事なものには違いあるまい ふふっ」


「私の望みを叶えてくれたなら 二人とも助けよう

それとも 逃げるなら それも良い、少なくとも・・そなたは助かる・・・。」


「私には わかる お前は魔法使いの素質があるわ 

お前なら結界石を壊せる・・」


「結界石?」男の子は問いかける

「妾(わらわ)達を 縛る結界が 張り巡らされている」女王


妾(わらわ)達は 結界石には近寄れない だが普通の人間には壊せない

まれに人間の子供に魔法使いの素質のあるものがいる」


「まずは この忌々しい結界をほんの少し壊してくれるだけでいい。」

「それから王の魔法の源、赤きペンダントの宝玉を奪うのだ」女王はそう告げた



その頃 

森の湖のすぐ傍では・・


ちょっと さぼって 氷の仔馬達が 雪を転がして 雪だるまを作って遊んでいる

大きな氷の鹿が『めっ!』とばかりに 

その角で軽く仔馬達のおしりをつつく…。


大慌てで 氷の仔馬達は 湖に浮かぶ氷の城を作る作業を手伝うのだった。


それからしばらくして・・無事に完成した 氷の城・・。


今度は 氷の動物たちは 村や町の人々を迎えにゆくのだった・・。


冬の王の方は・・最後の仕上げとばかりに 冬の王が 彩りに 無数の魔法の玉を

作り出す それは光輝き煌めく・・


無数の魔法の玉は 城や周りの森を照らして 紫色の夕暮れに染められた空を

灯りのように煌めいて燈していた。 


それから・・湖の傍で こっそり覗いて氷の動物達を見つめていた者たちがいた。


毎年の出来事に 城が出来上がるまでは近づくなと言われた村の子供たち

・・とは言うものの 彼らも楽しみで遠巻きに見つめていた


「ねえ、二人 隣村の男の子と女の子がいないみたい」


「どこ行ったんだろうね」皆が不思議そうに首をかしげる

「先に行ったんだろ?」子供たちは笑う

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る