エピローグ ぼくはきかいにんげん。

「みずきは人間じゃないから」

「みずきは人間だよ」

相反する2つの言葉を頭の中に思い浮かべて、僕は考える。

僕は、機械人間なのかもしれないと。

人間だけれど、人間じゃない。

宇宙人みたいに他の星から来た、よくわからない生命体でもないけれど、皆と同じように『生きる』わけじゃないんだろう。

"Love"についても色々調べた。色々な愛し方はあるけれど、母さんと父さんはきっと、その『好き』を抱いて、結婚して、僕を産んだのだろう。

結婚は大前提として、"Love"があるのかもしれない。そして、子供を作るという行為も恐らくそうだ(無理やりでなければ、の話だけれど)

だとすると、僕は「生産性がない」と言われてしまうのかもしれない(いつだか偉い人がそんなことを言っていた)

さっきまで黙っていたけれど、僕はそもそも手を繋いだり、ハグしたり、キスしたり、その先のことをしたり、ということに抵抗感がある。

いくら仲のいい友達でも、『先生』でも、家族でも、苦手なのだ。

手を触れられて、びっくりして退いてしまったり、ハグをされてびっくりしてやんわりと身を捩りながら抜け出したり。

そんなことをすぐするものだから、また人間じゃないと言われる(正直、それ関係ある?と思っていた)

キスやその先に至っては見るだけで顔を顰めてしまう。こんなことを言うのは申し訳ないが、どうしても気持ち悪いと思ってしまうのだ。

だから、僕は、子供を授かることができない。生産性がない、ということになる。

これは僕の『機械』の部分で、確かに生命活動を行う身としてどうなの?と言われればぐうの音も出ない(だって、生物の授業で子孫繁栄のためにそういうことをすると習ったもの。僕は、どちらかというと人間が絶滅する道を辿ることに加担していることになってしまう)

僕の『人間』の部分は『先生』が言ってくれた所もそうだけれど、探すと意外とたくさんあった。

言葉を使って伝えるのが得意だ(これは人間にしかできないこと)し、昔からよく泣き、よく笑う子だったらしい。

電卓みたいに正確な答えは出せないし、スーパーコンピュータみたいに膨大な数の計算も出来ない。

ボーカロイドみたいに音域の広い声は出せないし、ドローンや飛行機のように空は飛べない。

「なあんだ、僕は人間じゃないか」

明日も僕は『人間じゃない』と言われるだろう。高校を卒業して、大学に行って、社会人になってもきっと、心を軋ませるその言葉はついてまわると思う。

だけれど、僕は人間なのだ。確かに僕は人間なのだ。

「ふふふ、人間、なんだなあ……」

僕はふと『シャーロック・ホームズの冒険』の第1話『ボヘミアの醜聞』を思い出した。そういえば、彼も機械と言われていたっけ。意外な共通点に気づいて少し嬉しくなる。

だって、好きな登場人物と同じことを言われるだなんて!

「僕が僕でよかった」

わからなくて、苦しい時もある。

『人間じゃないから』と言われて悲しい時もある。

けれど、僕が僕でなかったら気づけなかったことは沢山あるのかもしれない。

僕は、デートコースを計画した。相手は勿論『好きなもの』

今週末は本屋に行こう。それから、美術館に行って、画材屋さんに行って。

次の日は宛もない散歩にでも行ってみようか。素敵な風景に出会えるかもしれない。

皆がマッチングアプリを使うように。

僕は、自分の足で、未だかつて見たこともない『理想の好き』を求めて。

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