第2話 ぼくはにんげんじゃない。
高校生になった僕は、もしかすると人間は大人になるにつれて僕は『好き』を抑えなくてはならないのだろうという仮説を立てるようになっていた。
高校生になった途端に『好きなもの』への想いを熱弁すると「ヲタクキモい」と言われるようになった。『好きな人』への想いを熱弁するのは許されるのに、本や絵に対する想いを熱弁すると否定される意味がわからない。
"Love"以外の『好き』は抑えなければ、周りに嫌われてしまうのだろうか。でも、僕は嘘をつきたくない。
そんなことを言う人間よりも本とか絵とかの方がよっぽど素敵だと思う。本や絵は悪口を言わない(僕を褒めることもしないけれど)
SNSに「親友とデート中〜」という投稿をするクラスメイトがいたから、「本日は!本とデート!」という投稿をしたら、「頭おかしい」と言われた。
「一緒に帰ろう」と言われて「今日○○くんと遊ぶ用事があるから……」と断るクラスメイトがいたから、「絵の展覧会に行きたいから……」と断ったら「人間じゃない」と言われた。
なんでそんなことを言われなくてはならないのかわからなかった。
僕が本を好きだと言う度、絵を好きだと言う度に「人は嫌いなんだ」とか「人間じゃないから」とか「心が無い」とか、笑いながら、冗談めかして言われることがとても辛いのだ。
僕は、人が嫌いなわけじゃない。皆のことが大好きだ。
僕は、人間じゃないわけじゃない。れっきとした人間だ。
僕は、心が無いわけじゃない。素敵な言葉や風景画に心を動かされるのだ。
なのにどうしてそんなことを言うのだろう。冗談だということは百も承知だったが、それでもギィギィと心が軋む音がする。
授業中に先生が「こういうシチュエーションっていいですよね、ドキドキしますよね」と言ったのがわからなくて、「なんでそうなるの?」と隣の席の子に訊ねてみたことがある。その子は確かに一生懸命説明してくれたのだと思う。けれど、正直あまりよくわからなかった。
「うーん……ごめん、よくわからないかも」
そう言うとその子は溜息をついた。
「みずきって時々そういうところあるよねー
意固地になるっていうか、なんていうか。そういうときのみずき、面倒臭い」
単純によくわからなくて、ただそれだけだった。どうしてドキドキするのかわからなかった。だから、訊ねた。
「だって、わからないんだもの。わかる人に訊いたら教えてくれるはずだと思っただけだよ」
「私はわかるよ?でも……ああもう!みずき、人間じゃないんじゃない!?」
またか。人間じゃない。僕は、人間じゃないのか。だから、わからないのか。高鳴る胸の鼓動とやらもキュンとする、という気持ちも。
でも、それがわからないと人間じゃないなんて、なんて哀しい世界なんだろう。
そんなことをぼうっと思った。
隣の席の子は盛大な溜息をついて、「もういいよ、みずきはみずきのままでいいんじゃない?人間じゃないからわかんないんだよ」と黒板に向き直った。
人間じゃない。
その言葉が反芻して、やっぱりギィギィと心を軋ませて、とても苦しかった。
僕は、人間じゃなかった。
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