アクマdeぷろぽーず

縹まとい

アクマdeぷろぽーず

 うだるような暑さが少し和らいだ、街灯がまばらにしか無い郊外の住宅街。


「好きです。愛しているんで、お願いです────……死んで下さいっ!」


 その数少ない貴重な街灯の明かりの下、繰り広げられる現実離れした世界。ピンクの花は飛び散らないけど、一瞬だけ少女漫画の世界にでも迷い込んだのかと思ってしまう。

 ナゼって?

 それはたったいま、そりゃあ見事な銀髪で彫りの深い外人顔が、無駄にキラキラ輝く蜂蜜色の瞳で私の目を真っ直ぐ見てそう言ったから。

 いきなり私の前に飛び出して来た目の前の男をギュンッと眉間に寄った皺をそのままに、ついマジマジと見てしまう。

 感想、すっごいイケメン。

 先ず、こんな田舎崩れではお目に掛かれる事は無いに等しい。

 ちょっと野性的で、背が高い上にモデル並みの美貌。プラス、耳に心地よい魅力的で綺麗に透き通った少しだけ高めの声。

 きっと状況が普通だったら喜んで飛びついただろう話。だがどう考えたって、今のコレって普通じゃ、ナイ。


 さてと。


 あぁ、いけない、いけない。軽くスルーしちゃったけど、そう言えばなんかすっごいコト、言われなかった? そうそう、コイツは何て私に言ったんだっけ?

 確か、好きで愛してるんで『付き合ってください』じゃ無くて『死んで下さい』って言ったよね? 聞き間違い……な訳じゃないだろうし。

 少なくとも愛の言葉にしては物騒だよね? それに、初対面の人間に言う言葉じゃないよね? 大体さ、よぉっーく考えてみようね? 普通こんなの人通りの途絶えた夜の道で起きることじゃないでしょー?

 無言、恐らく無表情で立ち尽くす平凡を絵に描いたような私。その私の目の前にはどっかの雑誌から抜け出たような満面笑顔の美青年。

 あーもう、絵面としてコレは相当間違いなく笑えるね、うん。

 バタバタ……ってイヤな音を立てて蛾が街灯の周りを飛び回る。いつもだったら、半泣きで走り抜けるパターンだ。

 しかし、現状がそれを許さない。

 男は恥じらいを含んだ目付きで私を窺い、照れくさそうにポリポリと頭を掻いている。

 いや、だからさ、なんなのよこの状況。

 もしかしてドッキリ? 誰かの悪戯? キョロキョロと目だけを動かして、周囲を見るけど暗くって良く分からない。


「ダメ、ですか?」


 何時までたっても返事をしない私に焦れたのか、男が悲しそうな声音で私に催促する。

 あ? ナニ、言ってんのコイツ。そんなのダメも何もあったモンじゃない。

 こんなバカな話に付き合うのも面倒だから、私はかなりぶっきらぼうに答えた。


「いやぁーそりゃもう、ダメですね。きっぱり、さっぱり、絶対イヤです」


 言わせて貰うけど、誰が愛の告白を受けた瞬間に死にたいと思うのか。

 少なくとも私の答えはノーだ。

 それこそ、こんな夢のようなステージを用意されたって、自分の残りの人生が掛かっているとなれば話は別。どんなに理想的なイイ男に告白されたって、死んでしまったらお終いでしょう?


「…………そう、ですか……」


 男はシュンと肩を落として、蜂蜜色の綺麗な瞳を彩る長い睫毛に涙を光らせた。

 ちょっとだけ、ほんの少しだけ……どこかで見たような目をしているって思った。でも、残念なことに私の知っているその目は、こんな綺麗な人間のモノじゃない。


「じゃ、私は帰りますんで。他を当って下さい。サヨウナラ!」


 それだけ言い残してサッサと男の脇をすり抜けて帰ろうとした時、思いの外強い力で手首を掴まれた。

 その掌の吸い付くみたいな余りの柔らかさに、一瞬ビクリと体が強張る。


「サヨナラ、なんてヤダ! ボク、はなちゃんの為に頑張ったのに!!」

「はい?」

「ボク、花ちゃんのコト、大好きだから! 絶対、やだ!!」


 振り返ったソコには、大の男が見事なまでにボロボロと涙と鼻水を垂らしまくる顔。これじゃ折角の美貌が台無しだ。


「え、ちょっ……やだ、なに?」

「花ちゃんの魂は、ボクのだもん!! 誰にもあげないっ!」


 魂って……オイオイ、だからって、なんでソコまで話が飛躍するの?


「ねぇ、花ちゃんだってボクのコト大好きだって、言ってくれたじゃん! 別れたあんな男より、ボクの方が好きって言ってくれたじゃんっ! アレは、嘘なの!?」


 おーコノヤロウ。人の泣き所、いきなりザックリぶっ刺しやがって。

 きりりと胸の奥が痛んだ。ついでに胃も。

 ええ、そうですよ、つい最近付き合ってた男と別れたさ。でも、だからって何でアンタを好きだってコトまで話が飛躍するんだい? え、お兄さん?


「あのさぁ言わせて貰うけど。アンタ、一体、誰?」


 これでもかって位に怒りを込めて睨む。すると男はキョトンと目を見開いた。


「え……? 花ちゃん、ボクだよ?」

「だから、ドコのボク?」


 イライラと舌打ちしたい気持ちを抑えて、出来るだけ冷静に聞く。


みつ、だよ。ボク、蜜! 別の名前もあるけど、花ちゃんが付けてくれたんじゃんっ!」

「蜜?」


 私の出来の悪い脳内コンピューターは、その単語を目まぐるしく検索し、ついにたった一つの生き物を弾き出した。



 なぁご。



 一週間前、男と壮絶なケンカ別れをした私は、この道を今日と同じ様に歩いていた。

 その時、道端で泥とゴミに塗れた一匹のネコと目が合って、なんとなく家に連れ帰ったんだっけ。幸い、私の住んでいるアパートはペットの飼育が可なので、何を遠慮する事無く連れ込めた。

 毛足が長く薄汚れて灰色じみたそのネコは、ぐったりとあからさまに元気が無かった。とりあえずご飯を上げるかどうするか迷ったものの、いかんせん余りの汚さと臭いに負けて先ずはお風呂に決定。ユニットバスだから、ネコだけって洗い辛くて、ついでに私も一緒に入ることにして服を脱ぐ。

 後に人から聞いた話では、ネコってお風呂を嫌がる生き物らしいんだけど、このネコは嫌がるどころか私のするがままに身を任せていたから不思議。時折、気持ちいいのかゴロゴロと喉を鳴らす。

 一通りネコと自分の体を洗い終えるとバスタブにお湯を張って少しあったまることにした。

 見れば、あの薄汚かったネコは見事なまでにピカピカのポカポカになり、美しい銀の毛並みを輝かせている。

 気のせいか蜂蜜色の瞳が私を見つめ、うっすらと細められた気がした。


「アンタ、綺麗なネコじゃん。血統証とか付いてるのかな? 家が無いならウチで暮らす?」

「なぁご」

「それって、返事? あはは、律儀ねぇ。なら名前、付けなきゃ。んー……綺麗な銀の体毛。あ、目の色が蜂蜜みたい。そうだ、蜜ってどう?」

「にゃぁお」

「うん、気に入った? 私は幸長(ゆきなが)花これからヨロシクね。よしよし、お風呂でたらご飯にしよう?」

「なぁごぅ、ゴロゴロ……」


 ネコが嬉しそうに体を擦り寄せ、濡れた毛がペタリと素肌に張り付き、滑る。

 その時ふとその首に似つかわしくない、古びた銀色の鎖が絡まっているのを見つけて、何の気なしに指に絡めた。


「何? これ」


 全然引っ張るつもりとか無かったんだけど、蜜が急に体を捻った所為でその華奢な鎖に思わぬ負荷が掛かったみたい。


 ぷつん。


「ありゃ、ごめん。切れちゃった」

「なぁご」


 しかし、まるでそのネコはアリガトウ、とでも言いた気に私の手をザリっと舐めた。

 以来、その時のネコ・蜜と暮らしているが……。


「あー……私の知ってる蜜は、ネコなんですけど?」

「うん、そう。ネコの姿になってる時もあるよ? だって、ボク、悪魔だもん」


 ほぉ~……そう来たか。

 ガンバレ花、落ち着け花! とにかく沈黙、沈黙。沈黙は金だぞー。

 こりゃマズイ。

 頭に浮かぶのはそんな言葉。

 私はきっと頭が常春のヤツと出会ってしまったのかもしれない。

 何も聞いてない、私は何も聞いてない。ヨシ、それで行こう!


「……左様ですか。じゃ、ウチで蜜が待ってるんで」

「あ、花ちゃん、疑ってるね?」


 そりゃそうだろう?

 どこの誰が、今日、いきなり出逢った男を自分の飼いネコだと思うのか? あまつにさえ、自分を悪魔だと嘯く男をハイそうですかと信じられるのか?

 有り得んダロウよ、普通。

 ドコのバカだよ、そんなの信じるヤツ。


「ねぇ、どうしたら信じてくれる? どうしたら、花ちゃんの魂をボクにくれるの?」


 キラキラとまるで希望の光を見つけたみたいに、蜂蜜色の瞳が揺らいだ。

 いや、だから、ちょっと待って。

 なんで私の魂、あげるのが前提なのさ?

 ヨシ! 百歩譲って、アンタの頭が常夏(春より悪い)だったとして、どーいった理由で私の魂を『ハイ、どうぞ』ってやらにゃならんのだ。


「花ちゃん?」

「手、放して」

「逃げない?」

「はぁ!? 当たり前でしょ? そりゃ力一杯、全力で逃げるって!! それで、とりあえず警察呼ぶし!」


 握られた手首に、キュウと更に男の掌が吸い付いた。

 あ、なんか蜜の肉球、こんな感じで気持ちいいんだよねー。なんて、ふと全く緊張感のない言葉が浮かんだりする。


「花ちゃんはイジワルだ」

「冗談。マトモって言って欲しいわ」

「だって、花ちゃんが言ったんじゃないか。ずっと一緒に居てって、蜜が人間だったらイイのにって! だからボク、頑張って人間の姿になったのに!!」


 男の目には、再び大粒の涙が浮かぶ。

 えー? そんなコト、言ったっけ?

 蜜が人間だったら……って……。


 あ。


 言った、かも?

 でもそれって蜜と暮らし始めて三日後位に確か友達と飲んで、でろんでろんに酔っ払って帰ってきた時、蜜がイソイソと嬉しそうに出迎えてくれ時だよね?

 誰かが家で迎えてくれるってのが嬉しくて、蜜を抱き上げて『みつ~、大好きぃ~あーもう、アンタ人間だったらもっといいのにねぇ~? ずっと一緒に居てね~ふふふ……』なんてコト、言った、かも。


「……あ~…………でも! だからって、何で一緒に居てが魂取られることになるのかな?」

「だって、ボクは悪魔だよ? 人間とは寿命が違うもの。ずーっと一緒に居る為には花ちゃんの腐る体は要らないんだよ」

「く、くさるっ!?」


 そりゃアンタほど綺麗な容姿じゃ無いけどね、こんなパッとしない肉体だって両親から貰った大事な体だぞ!? それをにべも無くスッパリと、本人の了承を得ずに切り捨ててんじゃねーぞ、コラ!

 それに、腐るってなんだ、腐るって!!


「だって、ボクは花ちゃんとずっーと一緒に居たいんだもん。大丈夫、痛くないから! ね?」


 何が、ね? だよ!! ヒクリと口元が引き攣る。


「言っとくけど。一応、私の今後の人生設計の中には、悪魔に魂を売るってのは無いんで。あるのは、人間の男と結婚して子供産んで、孫の顔見て老衰で死んで天国ってラインなんだよねー?」


 すると蜜だと名乗る男の方眉が不機嫌そうにピクリと跳ね上がった。


「――――そんなの、ダメだよ。人間の男なんて、ダメ。花ちゃんには合わない。もし、花ちゃんがどうしても人間の男がイイって言うなら、ボク、花ちゃんの目の前に居る男……全部殺しちゃうよ?」


 お兄さん、物騒過ぎます。

 ぎゃー目が、マジで笑えない。男の整いすぎた顔立ちが、酷く酷薄な印象を生み出して背筋が少し薄ら寒くなった。

 男の空いている方の手が頬をスルリと撫で、逸れた私の意識を再び自分へと向けさせる。

 ふにふにした柔らかな指の腹が、再びネコの蜜の足を思い出させて不覚にも口元が緩んでしまった。


「蜜の、肉球もこんな感じ」

「?」

「柔らかくて、ふにふにしてて、気持ちイイ。大好き」

「大好き? ボクのこと?」

「ネコの蜜のこと。それに、私の魂が欲しいんなら断らずにいつでも持ってけたじゃない。何で今更になって了解を得ようとするの?」

「だって、そういう決まりなんだ。ボクがどうしても花ちゃんの魂が欲しいなら、その代わりに何か花ちゃんの願いを叶える必要があるんだよ。俗に言う契約ってヤツ」

「じゃ、仮に、私が素敵な旦那様と結婚して、可愛い子供と孫の顔を見て天寿をまっとうするまで幸せに暮らしたいって言ったら、どうなるの?」

「だから、ソレはダメ。他のヤツになんか……人間の男なんかに、花ちゃんを触らせたくない。だって、子供を産むってそう云うコトでしょ? 絶対ダメ、絶対ムリ。この前、女友達と来た男、アレも嫌い。花ちゃんと楽しそうに話してた。だから大嫌い!」

「ナニそれ、友達の彼氏じゃん。もしかして、あんなに蜜が怒ってたのってソレ?」


 でろんでろんに酔っ払った翌日、私はバイトが休みで、親友の瑛子えいこが失恋したての私を心配して彼氏と遊びに来てくれたのだ。

 蜜は普段とても大人しくて手が掛からないネコだったから、瑛子の彼氏に毛を逆立てて唸ったのには正直驚いた。勿論、瑛子が私と接触するのも、やたらと蜜が間に入って妨害していたっけ。


『えーなんか、すっごいヤキモチ焼きの彼氏みたいだねぇ!』


 なんて、今思えば笑えないコトを瑛子は言っていた。

 恐るべし、恋多き女・瑛子。伊達に数多くの男を渡り歩いてないね。


「他のコト、それなら叶えてあげる。その代わり、ボクに花ちゃんの魂を下さいっ」

「やだ。ってか、何で私? 理由は? どうして?」


 純粋に疑問。

 すると途端に男の顔が困ったように曇った。


「理由、理由……? うーん、うーん。鎖、切ってくれたから? ボク、あの鎖を切ってくれた人と契約するって決めてたから。あ、でもでも! 花ちゃんは本当に好き、大好き! ずーっと契約無しでも一緒に居たいの!!」

「えっとぉ~じゃ、鎖を元に戻したらオールオッケー?」

「ボクの話、聞いてた? 花ちゃんが好きなの!! 大好きなの!! ずーっと一緒に居たいの!!」

「いや、ムリでしょう? 完全にムリだし。さっきも言ったけど~私の未来設計は……」

「じゃー……そうだ! ならボクと結婚すればいいんだよ!! あと、うーん、子供は作れなくも無いけどなぁ」

「こら! ちょっと待て!! 私は悪魔っ……てか、そんなんじゃなくて、人間の男を希望してるの!! アンタこそ人の話聞きなさいよね!? あの鎖、ドコよ!? 返すから! ソレ持って……」

「あぁコレ?」


 男はそう云うと、さっきまで何も持っていなかったハズの掌にアノ鎖を出現させた。

 え? マジック?


「でも、コレはもう要らないから、こうしちゃおう」

「はい?」


 男はニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべると、その鎖の乗った掌を握り締めた。瞬間、うっすらと薄黄緑色の光が見えたかと思うと直ぐに開く。ソコにあったのは、最早鎖ではなく綺麗な模様が彫り込まれた、銀色に輝く指輪。


「え? 指輪? 何で? どんな仕組み?」

「で、こうしちゃおう」


 男はそう言うや否や、驚く私の左薬指にその指輪を素早く嵌めた。


「コレで、花ちゃんはボクのモノ」

「えぇぇー!!」


 慌ててそれを必死に抜こうとする私を尻目に、男は更に追い討ちとばかりに指輪に口付けて、どんな方法か知らないけど抜けなくしやがりました!!


「さ、花ちゃん」

「なに!? 一体、なにしてくれちゃってんのよ、アンタ!! 外せ、コレ、外せー!!」

「次は花ちゃんの望みの二番目、子供つくろ?」

「はぁ!? イヤよ! 何で、そんなコト!! もし、アンタと子供なんか出来たら、子供はどうなんの!?」

「そりゃ、人間と悪魔のハーフでしょ?」

「冗談じゃない! 少しは子供のこともかんがえろー!! そんなの、可哀相でしょ!? ね、だからっ」

「大丈夫だって! 子供を信じましょ?」

「いや、違うよ!? なんか違うよ!? なんでソコだけ驚くほど前向き!? アバウト過ぎでしょ、それ! もう少し、なんか色々と責任持とうよ、マジで!」

「うんうん、大丈夫大丈夫。ボクは花ちゃんがもういいよーってまで、ずっと傍で待ってるから。だから、その時はボクに魂を頂戴ね!」

「だからぁぁぁ~……」


 ダクダクと涙を流して抵抗するも、男はサッと私を肩に担いで家路へとつきましたとさ。って、冗談はこの状況だけにしてくれー!

 何とか男の腕から逃げ出そうと藻掻くも、まるでガッチリ固められたみたいに微動だにしない。筋骨隆々と逞しい訳ではないのにとんだ馬鹿力だよ!

 私は男の肩の上で暴れまくって逃げられないと悟った瞬間、自分でも驚くほどの大声で腹の底から叫んだ。


「蜜!! みつー! 止めて、そんなコトするなら、嫌いになっちゃうからぁぁぁぁー!!」

「え?」

「ホント、嫌いになっちゃうからね!?」


 私の言葉に驚いたのか、男は慌てて地面に降ろした私の顔を覗き込んだ。


「ヤダ、そんなの、や!!」

「じゃ、やめよ? ね、こういうの、止めよ? いきなりこんなのって、やっぱ不自然だし、ゆっくり時間掛けないと……」

「んーじゃ、ゆっくり時間を掛ければイイの? なら、子供はまだいいかな? うん。あ、気にしないで、ボクには幾らでも時間があるから大丈夫! 安心していいよ!」

「は?」

「ね、ね、早く帰ろ? お腹すいたなー。あ、でもやっぱ気持ちイイことも、ちゃんとシヨ?」

「へ? え?」


 なんでそうなるのー!? って、心で叫ぶもこの男には通じない。しかもるんるんで私の手を握り、引き摺るように歩くその姿が滑稽だ。

 いや、ここまで来りゃマジで、ホントに笑える。

 なんでこんなことに……そう思うも全てが後の祭り。


「そんなぁぁ~……」


 これが、私とネコじゃない蜜とのトンでも無い生活の幕開け。

 以降、死ぬほど嫉妬深い美形と暮らすことが、平凡な女にとってどれ程苦労が絶えないのかを身をもって知ることになりました。

 …………そして悲しいことにどうやら私の魂は、この美しい獣に持って行かれてることになりそうデス。

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