第17話 オッサン、王宮に舞い戻る。
「はっはっはっは。災難だったな、タケシ。それにしても……プッ」
「笑うな。俺の一生の問題なんだぞ」
「そうですわよ、お父様。勇者様の先生に失礼ですわよ。フフッ」
なんと失礼な親娘なんだ。食事中にマナーの悪い!
ジャージ姿で晩餐会にお邪魔している私が憤慨しても滑稽なだけだが。
ここは王宮のどこかにある『小食堂』とかいうところらしい。国賓を招くところではなく、王様の家族が私的に客を招く場所なのだそうだ。
今日の招待客は私と何故か筆頭宮廷魔術師の爺さんで、王族からは王様本人とついにご対面の王女サマだ。
しかし、折角の王女サマとの出会いも台無しである。
それもこれも、壁際に控えている王宮警護隊のガブリエルのヤツがあることないこと報告してくれちゃったからだ。
食事の世話をしてくれているメイドさんたちも笑顔だよ? こう、好意的とか歓迎の表明とかじゃなくて、なんとも生暖かい感じでね。
私が針の筵に座って30時間ぶりのまともなメシをバクバク食う羽目になったのも、妙な事件に巻き込まれてしまったからである。
しかも、その原因の99%は全知全能の神、の分体? 分け御霊? のシュレにあるのだ。全知全能なんだからこうなることを知っていてやっているハズである。確信犯だ!
だが、シュレは元々バグ対策のため生み出されたようなものである。思考もバグっていても仕方ない気もしなくはない。
このやり場のない怒り、お分かりだろうか。といっても怒りはシュレにぶつけますが、何か?
王都警備隊本部でのことだ。シュレ謹製なんちゃってスキルの詳細が日の目を見たところで私の容疑は晴れた。爆笑とともに。
その後、ニヤけ顔の謝罪と事情説明があった。
特殊スキル(笑)を持つ私だが、さらに特殊な背景を持っていることと、王宮から警護隊の隊長を呼んでしまったこともあって事件の詳細を聞くことができた。つーか聞かせられた。もう、探偵ゴッコは十分楽しんだのに……
詳細と言ってもたいしたことはなかった。
事件が明らかになった時間が夕方ぐらいということと、そこが飲み屋だったということぐらいだ。
被害者は昼過ぎから一人で飲んでいたらしいが、店の主人はいつの間にか酔って潰れていたと思っていたそうだ。店から叩き出そうとしたところで息をしていないのに気づいたようだ。
テンプレ通り、現代日本に比べて人間の命は安い世界だったが、流石に人目につく店内での人死には無視できなかったようで、飲み屋の主人もすぐに届け出たらしい。これが裏路地だったりしたら通報する者もなく発見が遅れたことだろう。ましてや、城外であったら発見すらされなかったかもしれない。
ここまでだと、急性アルコール中毒による心不全か脳溢血を疑うが、一応調べに来た警備隊が鑑定して毒殺と判明したんだそうだ。
あとは脳筋隊長が『これは警察に対する挑戦に違いない!』とか思ったんだろう。
行動が早いのはいいが、それで無実の人間(私)が疑われちゃたまらん。この世界、人権なんてあるのか? 連行された時は推理ゴッコができるなどと調子に乗ってたけど、後になって考えると拷問されなくて正直ホッとしてるよ。神様と王様にコネがなかったらどうなってたか。
とまあ、結局は推理といいつつも事件に関しては何の進展はなかった。
当たり前だ。中学教師がいきなり名探偵になれるか!
事情説明も終わったところで、私は釈放された。
いつの間にか夕方になっている。
腹が減った。考えてみれば、昨日の朝王宮で朝飯を食ってからリンゴしか口にしていない。しかも、取調べ中にカツ丼だって食べられなかったのだ。
急いでギルドに行って依頼完了報告して報酬をもらって飯屋で何か食うぞお!
と意気込んでいたら、ガブリエルさんに捕まった。
あるぇ~、なんで~?
王宮警護の責任者をわざわざ呼び出したのだから、王様に事情説明しろ。だって。
何で私が……
仕方がない。だが、折角だから大いに利用してやろう。
王様の部屋に行く前に、メイドさんを捕まえて風呂を借りる。食事も頼んだ。
ガブリエルさん、呆れ顔だったけど、そんなことは知らん!
で、風呂から出て食事が用意してある部屋とやらに案内されたらここだったというわけ。油断した。知ってりゃジャージではなく正装でも用意してもらったのに。
事情は私が話すまでもなく警備隊やらガブリエルさんから聞いた王様が面白がって食事会をセッティングしたらしい。
「ところでシャルさん、なぜこの二人が……」
一応名目として事情説明の場、というのがあるので食事しながら昨日から今日にかけて体験したことを話した。
当然それに先立って出席者の紹介があったのだが、ここでついに王女サマが登場しました。
リアル王女様はカミーユちゃん、好奇心旺盛な15歳だそうだ。
王様の子供は三男四女だそうだが、この王女、勇者に会ってから異世界に強い興味を持ち、メイドさんから私のことを聞いて王様に同席を強請ったんだって。
『人物鑑定』とか『看破』とかの都合のいいスキルは持っていない(『ご都合主義』はあるんだけど)が、異世界物でよくある‘腹黒王女’でないことは二十年の教師経験でなんとなくわかった。
ゆるふわの金髪ロングだが、うちの生徒と三者面談してる気分だ。
あとは、宮廷魔術師のクレモンとかいう爺さん。転移初日に一応会ってはいた。
王様に理由を聞くと、王女はついでだが、爺さんの方は私の助けになるかも、だって。何のこっちゃ?
「うむ。そなたのステータスを見たときから気になっていたのだが、今回話を聞いてさらに不思議に思ったのでな。何かの役には立つだろう」
ああ、なるほど。私の出鱈目ステータスってこっちの人が見ただけでも変だと思うんだね、やっぱり。
こりゃ、まじめにシュレに話しておかんと。目立つだけ目立って、それなのに使えないって罰ゲームだよね。土下座も視野に入れておかねば。
「そうか。面倒をかけてすまないな。宮廷魔術師殿もよろしくお願いします。王女様にもご関心のほど感謝いたします」
「いやいや。珍しきスキルじゃとは思うとったが、これほどまでとはな。こちらも研究のし甲斐があるというものじゃ」
ああ、研究者魂に火が着いたのね。解剖とかされないよね?
「こちらこそ。是非色々とご教授願います」
「勇者さまの先生! 私も是非勇者様の世界のことを知りたいです!」
こっちはこっちでメンドイな。
「王女殿下。私は勇者の先生ではありませんよ? 面識もありませんから。たぶん」
「え? お父様、どういうことですの?」
ガブリエルさんもそうだったが、おかしな肩書きで呼ばれるな。正確には『勇者がいた世界の中学教師』なんだがな。
そういえば、勇者の容姿を聞いただけで悪い予感がしたもんだからそれ以上聞くの止したんだっけ。名前も知らないや。まさかうちの学生とかないよな。もしそんなんだったらまさに『勇者様の先生』になっちまう。面倒ごとが増えるだけだよ。
幸い王様と魔術師の爺さんはちゃんと理解しているようで、王女サマに説明し直してくれている。
あらら、王女サマってば、興味半減って感じだよ。
勇者の世界に興味があるんじゃなくって、勇者自身に興味があったのか。それなのにその勇者は修行中で城にはいない。で、私に教え子のことを聞きに来たってところか。そんなに勇者のことが気に入ってたのか。
「タケシ様、申し訳ありませんでした。勝手なことを……」
「いえ、いえ。些細な誤解です。こちらこそご期待に応えられなくて申し訳ございません」
「いえ、私が悪いのです」
いえいえ、こちらが……などと王女サマと二人、お互いに謝罪を繰り返してしまった。
ああ、なんか、この王女サマ、日本人っぽいぞ。
どう考えても善良キャラだ。
しかも、これで実は『隠微』スキルとか使った腹黒だったとしても、もう私には興味もないだろう。
少し安心した。
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