第9話 オッサンがオッサンたちに囲まれる。王女サマはどこいったの?



 素晴らしい朝が来た。希望の朝だ。


 ホントは寝起き最悪です。夜更かししすぎました。年甲斐もなくはしゃぎ過ぎました。


 昨晩泊めてもらった部屋は使用人用らしく、リクエスト通りとはいえ、お世辞にも立派な部屋とはいえなかった。

 それでもベッドつきだったので、メイド長と分かれてからすぐに横になりました。


 しかし、それが午後9時頃のこと。眠れません。現代日本人としては。

 幸い、ネット環境は生きているのでネット小説の巡回をして、異世界研究という名の暇つぶしをします。

 更新分を読み終えるととたんにすることがなくなります。


 夜中でしたが、勝算あってシュレに電話しました。仮にも神様なんだから寝てないはずです。

 はい、ワンコールで応答がありました。


 何なの? 電話の前でスタンバイしてたの?

 そんな光景が目に浮かびましたが、スルーしてあげました。

 代わりに暇つぶしに付き合ってもらいます。


 アカシックさんの謎の同時通話システムで三人? で楽しくおしゃべりします。


 オッサンが自分から質問したのはケータイの日付・時間表示についてだけ。この世界に対応してるって。すごいサービスがいいな。

 他の話題といっても、どうしても異世界転移に関してのことになります。

 アカシックさんによると、無数の異世界があるので、どんなに異世界の説明を受けたところで話は尽きません。

 まるでネット小説のレビューを読んで聞かせられているみたいでした。


 中には現在私が召喚された、905,967番と数字で管理されている異世界についてもざっと話を聞いたはずです。

 類似の世界が多すぎて全く印象に残りませんです、はい。


 けれど、それでいいと決めていました。

 シュレにもそれとなく宣言しています。


 妙に前知識持たせんなよと。

 怪しい使命なんぞ御免だと。


 シュレは『わ、わかってるわよ、なの』と引き攣ったような声で答えた。

 こりゃ何か企んでたな。


 聖母のごときアカシックさんによると、宇宙の意思、管理神とはいっても特に世界を支配しているわけでなく、未来予測と過去の記録がお仕事? だそうで、世界が崩壊するようなことがあっても干渉はしないとのことだ。


 ここでトンデモ情報が。

 すでにいくつかの異世界が、転移した日本人が原因で滅びているそうだ。

 あー、ヒャッハーしちゃったんだねえ。


 日本人は異世界に影響を与えやすいって言うから私も気をつけなくっちゃ。転移したところがなくなったら細く長くの人生も終わっちゃうよ。






 そんなことをお迎えの人に起こされてからなんとなく考えておりました。

 ボーっとしたまま歩かされてるといつの間にか目的地に到着したようだ。

 重厚な扉が開く音でやっと目が覚める。


「おもてをあげよ」


 私は髭のオッサンの前で跪いている。

 案内人の文官? の指示だ。反抗期はとっくに過ぎているので快く従ったまで。相手は王様だし。


 ここは謁見室。

 派手な玉座のある広間じゃなくて会議室風だ。

 後でわかったことだが、大広間はセレモニー用で実務的謁見はこちらを使うことが多いそうだ。結構現実的。ファンタジーなのに。


 私の場合かなりイレギュラーだったみたい。呼ばれた時間に来なくて一晩遅れだったんだから。


「はじめまして。タケシ・ハンムラと申します。日本という国から呼ばれて参りました」


 顔上げて自己紹介する。

 隠し事はなしだ。秘密主義は余計なフラグが立ちかねない。

 まあ、シュレのことは隠すんだけどね?


 状況証拠だけだったろうが、理解してくれたようだ。

 席を勧められた。立ちっぱなしも覚悟したが、やはり異世界召還は特殊なようだ。

 会議用? のテーブルに着く。王様がお誕生日席で私がその真向かい。他にも何人か大臣らしき人たちも同席。後ろにはずらっと警護の騎士が並んでいる。圧迫面接にも程があるぞ。


「タケシとやら、何か気になることでもあるのか?」


 私が席に着いてからもキョロキョロしていると、王様から声がかかった。


「いえ、王女サマはどこかなあ、と……あ……」


 やはり寝不足だったのだろう、つい本音が出てしまった。

 さっき紹介された(既に記憶の彼方)お偉いさんたちの中に宮廷魔術師とかいたけど、爺さんだっだ。何故魔女っ子じゃない。テンプレはどうした? 

 このショックも原因だろう。


「うん? 王女? 余の娘のことか? 安全が確保されぬうちは会わせられんだろう」


「いえいえ。ご挨拶をと思っただけでして……」


「それに、今は‘勇者’に執心でのう。そなたも勇者ということが確実になればいずれ顔を会わせよう」


 ん? 今、何かおかしくなかった?

『勇者』? 『そなたも』? 『も』って何?


「あの~、それはどういう……」


「では、調べさせてもらおうか」


 私の質問を軽く無視して王様が話を進める。

 えー。もっとコミュニケーションを!


 私の心の声を無視して、文官さんが目の前に何かを置いたよ。実務的ねえ。


 でっかい水晶みたいだ。


 それに手を触れろと指示される。テンプレだから躊躇わずに従った。

 どうせステータスとかが表示されるんだろ。織り込み済みだよ。


 ハイ、こんなん出ました。


 ・・・・・・


 名前:タケシ・ハンムラ

 人種:ヒューマン

 職業:教師(元勇者候補)

 年齢:42

 性別:男

 血液型:A


 レベル42

 HP:42 MP:42

 力:42

 素早さ:42

 器用さ:42

 知力:42


 スキル

 異世界言語 アイテム・ボックス 高速思考 毒


 ユニーク・スキル

 *** **** ご都合主義


 称号

 二度落ちた者 管理神の**


 ・・・・・・


 翻訳スキルのおかげで見やすい。どうもオッサンはアルファベット表示は苦手だ。ありがとうアカシックさん。


 って、おい! 

 突っ込みどころ満載じゃねえか! 見ろ! 王様たちの表情、すんげー微妙そう。


 まずな、

 職業教師って、そりゃそうだったけど、ステータスってそういうもんだっけ? 違うでしょ! 剣士とか魔法使いとかでしょ!

 さりげなく元勇者候補とか書いてあるし。何? 前から後ろから否定してくれて。主人公キャラじゃないのはわかってるし面倒も御免だから勇者じゃないのはいいけど、じゃあ書かなくたっていいじゃん!


 次!

 血液型って何? この世界献血でも流行ってんの?


 次だ!

 数値おかしいよ! いきなりレベル42って、フツー転移者ってレベル1から始まるんじゃないの? それから、ステータスオール42ってどういうこと? 年齢にあわせたの? 高いとか低いとかの問題じゃないよ? 作為的過ぎるだろ!


 まだあるぞ!

 スキルはお約束のもあるが、何だよ『毒』ってよ! 『毒耐性』とかじゃないの? 毒を物理的に吐くのか? それとも、毒舌ってこと? そりゃもうスキルじゃないじゃん! シュレの八つ当たりだよ! はっ! 『毒男』だっていう嫌味かも知れん。


「た、タケシ……殿」


「はいはい。何でしょう?」


 王様が話しかけてきた。真っ白空間で手に入れた(はず)の『高速思考』でも突っ込み終わらなかったよ、多すぎて。まあ、適当に私が名づけただけだったんだけどね。それをわかっててシュレが仕込んだネタスキルだろうし。


 おや、『どの』って敬称つけられたみたいだけど……ああ、わかった。ったく、シュレも余計なことを。


「前代未聞のステータスであるが、我々が呼び出したのは間違いないようじゃ……です。それよりも聞きたいことが……」


「はいはい。何でしょう?」


「ユニークスキルに読み取れぬものが二つもある。何より、称号に『管理神』とあるが……タケシ殿は異世界人ではなく神の国から来たのか、でございますか?」


 ああ~、やっぱり。王様まで語尾が支離滅裂だよ。覚えてろシュレ! 後で電話で泣かしてやるからな!


「いえ。私は単なる一般人です。称号も何かの間違いでしょう。私にも読めない文字ですから」


 神の国から来たって、確かに真っ白空間を経由してしましたけど、それって『消防署の方から参りました』ってのと同じレベルだよ。認めたら訪問詐欺になっちゃうよ。


「ですから、私のような平民に敬語など不要にございます」


「う、うむ。わかった……」


「それでですね、陛下。陛下が私に聞きたいことがあるように、私もお伺いしたいことが山ほどあります。突然異世界に召喚されて困惑しておりますもので、態度にご無礼がありましたらご容赦ください」


「そうだな。勇者でなくとも我らが呼び出したには違いない。責任は取ろう。年も近いことだ、そなたもざっくばらんに話すといい」


 お、話せる王様だな。ここは一つお言葉に甘えよう。


「そうか。わかった。王サマがそう言うんなら従わんワケにはいかないな。よし! ところで、話の前に飯が食いたいんだが」


 え? 豹変? 大丈夫。言質はとってるし、『ご都合主義』っていう謎スキルもあるから。主義ってスキルなのか?


「どこまでも驚かせてくれる……わかった、用意させよう」


 私の豹変振りに王様一同は唖然としていた。テンプレどおりの『無礼者!』とか『平民の分際で!』とかないぐらい唖然としてたよ。

 おかげで落ち着いて異世界メシが食べられそうだ。

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