27、過去とこれから


 俺は二人に昔のことを話た。

 すると、


「では本当にサージ様はあの伝説賢者様なのですか!?」

「そうだよ。でも伝説でもなんでもないさ。俺が勇者達と旅をしているときにやっていたのは後方支援のサポートのみだけどね」

「ですが、先ほどのように凄き魔法も使っていたのですよね」


 レーナは羨望の眼差しを俺に向けてくる。

 俺の話た五百年前の勇者達との冒険譚はレーナにとってもハクアにとっても想像以上のものだったらしく興味津々であった。

 そして、俺への質問を投げかけてくる。


「まあな、でもそれは魔人王との戦いの時くらいで、それ以外の時は殆ど攻撃魔法は使ってなかったよ。それほどにレーナの祖先である勇者は強かったんだ。そしてレーナはその血を濃く受け継いでいる」

「ですが私は、剣のスキルしか使えません」

「それでいいんだと思いますよ」

「え!?」


 俺の言葉を少し疑っていたレーナに声を掛けたのハクアであった。

 優しい顔でレーナの頭を撫でる。


「昔賢者様がおっしゃっておりました。勇者は剣しか使わなかったと」

「ですが、勇者様は全ての武器スキルを使えたのではなかったのですか!?」

「使えたけど彼は使わなかったんだ」


 そう勇者は剣しか使わなかったが、複数の武器スキルを織り交ぜて戦ってくる奴を軽くあしらったり、一撃で倒したりと無双の強さを持っていた。

 戦った相手は皆、勇者のことを出来損ないや無能だと言っていた。

 武器以外のスキルを持たず、剣以外を使わない勇者をバカにしていた。

 だが、勇者はその全てを笑って受け流していた。

 俺はそれを見て、どれほど前向きな奴かと思ったくらいだった。


 二人に勇者のことを話している内に、色々なことを思い出してきた。


「どうしたのですかサージ様?」


 俺が思い出に浸っているのを見て心配してくれるレーナ。


「何でもないよ。ただ少し昔のことを思い出してしまっただけだよ。俺の親友であり、初めて俺のことを認めてくれた勇者のことをな」

「私のご先祖様がサージ様の親友だったのですか?」

「そうだよ。俺はあいつと一生一緒に冒険したいと思っていたんだ」

「ですが、ご先祖様は賢者様を選ばずに幸せを選んでしまったのですね」

「そうだ。でも今になって思うと当然の選択だったんだと思う。あの時の俺は、そのことに頭にきて皆の前から姿を消した。そしてそれ以来他の三人とは合わずに、転生した」


 あの日のことを今になって後悔するとは思ってなかった。

 あの宿での夜の話合い、親友としては彼の幸せを喜ぶべきだったんだと思うが出来なかった。


「ですがそのおかげで私は師匠に出会えました。魔法を覚えることが出来ました。そのことに私は感謝しております」

「そういってもらえて俺は幸せ者だな」

「私もです。サージ様、いえ賢者様が転生する道を選んでなければこうして出会うことが出来ずに私はあの日、あの場所で死んでいました。夢を叶えることも出来ずにです」

「確かにそうだな」


 二人の言葉に俺は少し救われた気持ちになる。

 俺の選択は間違っていなかったのかもしれないがそれは完全に結果論でしかないのも事実だし、犠牲にしたものがデカすぎる。

 仲間の幸せを祝ってやることが出来なかったこと、あのまま自分の本当の幸せを見つけていたらもしかすると俺にレーナのような子孫が生まれていたのかな。

 もっとあのメンバーで楽しい生活を送れていたのかな。


 心の中にあの時には考えられなかった感情が溢れてきた。

 それは今の俺に守りたいと思う大切な物が二つも出来たからだろう。

 一つは今さっき気づいたけど。


「どうしたのですか師匠!」

「大丈夫ですか賢者様!」


 涙を流す俺を見て声を掛けてくれる二人。

 過去のことを後悔しても仕方がない。

 今を精一杯生きよう。

 彼らに恥ずかしくない人生を生きようと心に誓うのだった。


「ありがとう。二人のおかげで救われたよ」

「なんのことですか?」

「急にどうしたのですか?」

「何でもないよ。良い弟子を二人も持てたことを喜んでいただけさ」

「いい弟子ですか?」

「そうだよハクア! ここまで俺のことを思ってくれている弟子が良い弟子じゃないわけないだろう。それにレーナもだ」

「はい!」

「レーナに教えられることは少ない。短い期間しか剣のことを教えてあげることは出来なかった。それでも、俺はレーナを大切な弟子だと思っているんだ」

「う、嬉しいです。賢者様の弟子になれて」

「そういってもらえると助かる。これでハクアとレーナは姉妹弟子ってことになるな」

『あ!』


 二人は今気づいたと言う顔をしている。

 そういう意味ではこの二人は少し似ているのかもしれないな。


「レーナも何か分からなかったり、困ったことがあったら姉弟子のハクアを頼れ。ハクアも妹弟子であるレーナの面倒もたまに見てやってくれ」

「分かりました」

「はい、サージ様」


 レーナの呼び方がいつも通りに戻ってくれて少し安心した。


 これで俺についての話は終了として、今一番気になっていることを聞いてみることにした。


「ハクアに一つ聞きたいことがあるんだ」

「何ですか?」

「どうしてこの世界は今みたいになってしまったんだ!」

「……どういうことでしょうか」


 俺は、自分のいた時代と今との違いについて話た。

 すると、


「私がこの学院を立てたときには既に今の状態でした」

「それって俺が転生してからすぐの事だろ」

「いいえ違います。師匠と別れてから私はあの小屋で百年ほど暮らしていました」

「ひゃ、百年! だが、勇者達と一緒にこの学園を造ったんじゃなかったのか!?」

「それには少し語弊があります。私がこの学園を造る際に力を借りたのは勇者様方の子孫の方たちです。既に勇者様方はこの世界にはおられなかったものですから」


 つまりこの学院のパンフレットを作った者か、もしくは名前を売りたい者が勝手に事実を捻じ曲げたわけだ。


「それに、私は賢者様から魔法以外の事は教えられていなかったのでこれが普通のだと思っておりました」

「それもそうだったな」


 ハクアからの話から推測すると、俺とハクアが知らない百年の間に何かがありこの世界の考え方が今のようになったわけだ。

 俺が住んでいた小屋はかなりの森の奥にあったし、他に人が来ることもなかった。

 自給自食が出来る体制も整えていたために、ハクアもあの小屋から出て行かなかったんだろうな。


「ならこれからの目標は決まったな」

「目標ですか?」

「そうだ。まずはレーナを鍛える。それから、この世界が今のような考え方になったのか原因を調べる事だな」

「分かりました。私も全力で協力します!」

「学院の事もありますが、出来る限り師匠の手助けをさせていただきます」


 これからの事も決まり、気合が入るのだった。

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