25、学院長との模擬戦 1

 闘技場へと到着すると、


「レーナ君だったかな?」

「はい!」

「君は観客席で見ていてくれ」

「分かりました」


 レーナは俺達と別れて観客席に移動した。

 これで二人きりになった。

 

「私達も行きましょうか。ここは貸し切りにしていますのでご心配なく」


 それだけ言って先に行くがハクア。

 俺はそれに続いて中に入って行く。

 入学試験の時の会場とは違うがここもかなり広い。

 舞台の上へと俺とハクアが上がっていく。


「サージ様! 頑張ってください!」


 俺達が入ってきたのを見て、声を掛けてくれる。

 レーナの声援に答えるように手を振ると、よりレーナのテンションが上がる。

 そんな俺の姿を見てクスっと笑うハクア。


「賢者様は変わりませんね」

「僕は賢者じゃないですよ」

「そうでしたね」


 ハクアは笑いながら答える。

 これは、信じていない。


 舞台の上で一定の距離を取って向かい合うと、


「それでは始めましょうか」


 その一言と同時にハクアが魔法を放ってくる。

 水の弾が飛んでくる。

 アクアボールだ。

 魔法名を唱えないところから本気だと言うことは分かる。

 しかも魔法に込められている魔力量はかなり少ないが、アクアボールの最大限を引き出している。

 水属性の初級魔法であり、青色の本を持つ者なら誰でも使える魔法ではあるが、ハクアが使うと中級魔法程の威力になっている。


 それに対して俺は腰に下げている剣を抜くと同時に、


「ファイアーボール」


 火の初級魔法で応戦する。

 ボール系の魔法は全てが初級魔法である。

 それぞれの属性の色を持つ本を持っている者は、それに合わせた属性のボール系魔法を使える。

 そのため、ボール系魔法をお互いに使った場合、その魔法を熟練度が勝負を決める。

 俺とハクアでは五百年の差があるが、それくらいはハンデに過ぎない。

 それに、


「え!」


 目の前で起きた現象に驚いたハクア。

 アクアボールが、ファイアーボールと相打ちで消滅したのだ。

 本来であれば相性のいいアクアボールが勝つはずだが、それは熟練度で補った。


「流石賢者様ですね。私程度のアクアボールで相手になりませんか。それに、魔法名を名乗るとはなめられたものです」


 まあ確かに、熟練者であり、戦場を知るものは魔法を名を戦闘中に名乗るようなことはしない。

 そんなことをすれば相手に先を読まれてしまうからだ。

 逆にブラフで名乗る奴もいるが、その代わりに威力が落ちることがあるために俺はあまり好きではない。


「別に、これが僕ですから」

「そうですか。ですが、今の小手調べです」


 次の魔法が飛んでくる。

 俺の頭上に黒い雷雲が浮かぶ。

 この雲から想定できる魔法は雷の中級魔法であるサンダーボルトか、雷線、もしくは上級魔法の雷帝かのどれかだが、まだ予想が出来ない。

 そのため俺は、土魔法で頭上に壁を作り上げる。

 属性相性はいいが、この壁、アースシールドは土の初級魔法。

 中級クラスまでは防ぐ自信はあるが、上級になるとさすがに厳しい。

 相手がハクアでなければ余裕だが。


「賢者様、それで防げますか?」

「何とかしてやるよ」

「そうですか、ですが」


 ハクアが俺に向かって指を挿してくる。

 そこから放たれる、雷の中級魔法サンダーショット。

 一直線に向かってくる。

 それと同時に頭上より落ちてくるサンダーボルト、俺を挟み撃ちにする気のようだ。


「その程度なのか」

「何を」


 俺は、目の前から迫るサンダーショットを小さなアースシールド防ぐ。

 ハクアからの雷魔法が消滅すると同時に、アースシールドを解除、剣を構えて正面から迫っていく。

 それと同時に、火と風魔法を発動。

 火の魔法はファイアーランス、攻撃魔法を放ち牽制をしつつ、風魔法を使い移動速度を加速させる。

 俺の魔法に対して水魔法で対抗してくるハクアは、中級魔法であるアクアウォールと土魔法のアースシールドを発動して完全に防ぐ体制をとる。


「それでいいのか?」


 俺は、アースシールド視界を奪われているハクアの背後に移動する。

 ハクアのウォールウォールとアースシールドがギリギリの所で防いだが、そのタイミングで剣をハクアに向かって横一線に一振りしようとした所で、先程と同じアースシールドが、剣とハクアの間に展開。

 剣は寸前で止められてしまった。

 

「賢者様が剣を持つとこれ程とは少し驚きました」


 ハクアは間髪入れずに風の中級魔法、ウイングショットを放ってくる。

 発動に気づいてすぐに、離れて距離を取る。

 ギリギリの所で躱せたが、少しでも遅れていれば、かなりやばかった。


「惜しかったですね」

「そうか、こっちはまだまだ余裕だぜ」


 と言ってみたが、正直少し余裕がない。

 五百年経って、ハクアはかなり実力をつけている。

 流石に世界最強と呼ばれるだけある。

 だが、ここまで来たら負ける気もなくなってきたし、レーナにばれてもいいかと吹っ切れていた。

 今は、それよりも魔人王と戦った時ぶりに戦いを楽しいと感じていたために、もう少し続けていたいと考える俺。


 少し俺がハクアから意識を俺外している隙をつき、姿を消しすハクア。

 完全に見失ったのは一瞬だけで、


「後ろか!」


 その言葉に対して、


「何故お気づきに」

「ハクア、昔押したことを忘れたか」

「え!?」


 たぶんこの世界でこの魔法を使えるのは俺とハクアだけだと思う。

 探知魔法――周囲にある魔力を探る魔法で、この質や量で様々な情報を得ることのできる魔法であり、俺が前世で作った魔法であった。

 オリジナル魔法に階級は存在しないが、付けるとするならば初級だと思っている。

 元々誰でも使えるようにと思い作った魔法で属性自体存在しない珍しい魔法でもある。


「もう忘れたのか。確かに教えたはずだぞ。一番大事だと言ってな」


 その言葉でハッとした顔をするハクア。


「探索魔法ですか」

「そうだ。常に戦闘中は使っておくように教えたはずだがな」

「そ、それは」


 少し縮こまる。


「今は戦闘中だぞ! 集中しろ!」

「はい!」


 ハクアの目が真剣な物へと変わる。

 今のハクア相手なら俺の全力を試せると考えていた。

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