24、学院長からの告白

 学院長室に入ってすぐ、


「本当に、大きくなったな」


 小さな声でぼそりと呟いた。

 入学式の今日、講堂でハクアの姿を見てから我慢していた一言がつい漏れてしまった。

 ただ、そんな俺の言葉を聞き逃してもらえるほどハクアも、そしてレーナも甘くなかった。


「サージ君、今なんと言ったかね?」

「っえ?」

「サージ様、誰に対して言ったのですか?」


 二人とも耳良すぎじゃないか。

 確かに部屋の中にいるのは俺達三人だけだが、それでもかなり小声で呟いたはずなんだが、なんで聞こえてるんだ?

 

「僕は何も言っていないですよ」

「そうかな? 私には大きくなったねと聞こえたけどね~」

「なんのことですか?」

「誰に対して言ったのですか?」


 誤魔化せないか?


「もういいんじゃないかな? サージ君、君は賢者様じゃないかな?」

「ええ! サージ様があの賢者様なのですか?」

「ああ、そうだよ」


 この感じは、ハクアは何か確信を持っている様子。

 別に正体を知られたくないわけではないが、まだ入学初日だ。

 本当なら、この学院を卒業するときにでも打ち明かして感動的な再会を演出するつもりだったのに、こんなに早くバレるなんて思ってなかった。


「白本の持ち主が何と呼ばれているかは、君もよく知っているね」

「はい! 無能と」

「ではなぜ、そう呼ばれているか知っているかい」

「はい! 白本の持ち主は魔法や武器スキルを使うことが出来ないからです」

「そうだ! その持ち主も自分は魔法を使えないのだと思い込んでいる。だから使えない。だが私の師である賢者の様の考え方は違うかった。白の本の持ち主で魔法を使える。それどころか、白の本の持ち主の可能性は無限大だと言っていたよ」

「流石賢者様です!」


 俺、そんなこと言ったか?

 確かに白の本の持ち主でも魔法は使えるとは言った。

 それは、ハクアが初めて家を訪れたときに、自分は魔法を覚える事が出来ますかと聞いてきたから答えただけだ。

 これは、ハクアの中でかなり飛躍させられているな。


「この世界で白い本で魔法を使える。しかも、十一歳という年齢でだ。そんな子供私は見たことがないよ」

「私も聞いたことがありませんが、でも、そんなことが……」


 上目遣いで見てくるレーナ。


「私が十一歳の頃などやっと一つの魔法を使えるようになったくらいだった。師いわく、白い本を持つ者は成長は遅い。その代わりに様々な魔法やスキルを覚える事が出来ると言っていたの」


 確かに言った。

 言ったけどまさかこんな所で自分の言った言葉に追い込まれるとは思わなかった。


「それが確かならば、サージ様が魔法や武器のスキルを使えるのはおかしいですね」

「っえ!」


 完全にレーナも学院長側に付いたな。

 これは、もう俺が何をいってもダメかもしれないな。


「だろう~、それにサージ君、君のその名前もそうだよね」

「どういうことですか?」

「賢者様の名前もサージだったのさ! 同じ名前で白本の持ち主で魔法を使える。そんな存在がいるとは思えない」

「賢者様の名前ってサージと言うのですか!」

「そうだよ」


 この時代に転生してきて一番最初に俺が知ったのは、賢者であった転生前の俺の名前が歴史に残っていなかった。

 この世界で唯一、転生前の俺の名前を知っているのはハクアのみなのである。

 これは、先ほどのレーナの反応からも勇者達の子孫達にも受け継がれてないことが分かった。

 

「では……本当に」

「ええ、そのはずです」

「何を言っているのですか? 賢者様の名前は僕も今初めて知りました。同じ名前と言うことには驚きましたが、僕とは何の関係ないですよ」


 何とか誤魔化そうとしてはいるが、


「そうですか、そう来ますか。あなたは昔もそうでしたね」

「え!?」

「その顔、幼くはなっていますが、私と初めて会った時の賢者様とそっとね。あの時もその顔で私のお願いを断りましたね」


 あの時か、だが同じ顔と言っても俺にはよくわからん。


「あなたがそのつもりならこうしてはどうですか? これから私と模擬戦をしてくれませんか?」

「どうして僕が学院長と模擬戦を?」

「あなたが本当に賢者様でないのなら私に簡単に負けるはずです。そしてもし賢者様なら、私に勝てるはずですよね」

「ではその模擬戦は僕の負けになりますね」

「どうしてですか?」

「僕は賢者様ではありません。それに、学院長はこの世界最強の魔術師です。そんな方に勝てるはずがないですからね」

「そうですか。それならそうでいいですが、手を抜かないでくださいね」

「それは勿論」

「分かりますからね」

「え!?」

「手を抜いたりしたら分かりますからね」


 目が真剣だ。


「もし手を抜いたらバツとして、一生私の秘書ね」

「え?」

「一生私の隣で秘書をしてもらうわ。そうなるとこの学園をやめてもらわないといけないわね」


 これはマジで手を抜けない。

 もうしょうがないか。

 

「場所をかえようか。ここでは戦えないだろう」


 俺達は闘技場へと移動することになった。

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