22、入学

 合格発表から一週間が経ち、俺達は入学式の日を迎えた。

 一週間前の合格発表の日から寮へと移っていたために入学式と言われても少し実感がわかないが、一つ普段と違う所がある。

 それは、この学院の制服に身を包んでいること。

 黒を基調とした制服に赤のラインが入っている。

 昔勇者が着ていた服を元に作られているそうだ。


 今日は朝から講堂での入学式が行われるため、レーナと寮の前で待ち合わせして行くことになっている。

 制服に着替えた俺は、男子寮の前でレーナ来るのを待っていた。


「サージ様、お待たせいたしました!」


 走ってこちらに向かってくるレーナ。


「大丈夫だよ。僕も今出た所だったから」

「そ、それは良かったです」」

「それに、入学式まではまだ時間はあるからゆっくり行こう」

「はい」


 レーナは俺の隣を歩いて行く。

 その間、これからの事が楽しみだねと話しながら講堂へと向かって行く。

 講堂には既に多くの生徒が集まっている。

 殆どの生徒の目的は入学式ではなく、講堂の入り口に張り出されているクラス分け発表であった。

 自分がどのクラスに入るの皆気になっているようで、かなりの人だかりになっている。

 俺達も例がいなくその集団の元へと混じっていた。


「レーナさんありましたか?」

「サージ様はどうですか?」

「俺はあったよ、Dクラスだった」

「わ、私の名前もありました。サージ様と同じDクラスです」


 他の生徒達も友達と同じクラスだとか、別々のクラスになってしまったなどの声が飛び交っている。

 皆、もうすぐ入学式と言うこともあり少しテンションが上がっているようであった。

 それは俺やレーナ同じで少し浮かれていた。

 そこへ、


「お前達も受かったんだな」


 俺達の背後から声を掛けてきたのはドレイク=アルフレッド。


「まさか、アルベノク家の出来損ないのお嬢様と、無能の白本が受かるとか、この学院ももう終わりか」


 俺達をバカにしてくるドレイク。

 試験の時、ドレイクと俺達は別々の会場で俺やレーナの戦いを見ていない。


「私をバカにするだけならいいですが、サージ様をバカにするのはおやめください」

「なんでだ? こんな無能の白本をバカにしてもいいだろう。そういう存在なのだからね。社会の何の役に立たないんだ」

「そんなことはありません。サージ様はあのレリック様に試験の際に勝たれました。もうすぐSランクの冒険者に勝つ実力を持っておられるのです」

「ど~せ、手を抜いていたんだろう。じゃなきゃ、こんな無能があのレリックに勝てるはずがないからな。それか、レリックが噂程の奴ではなかったんじゃないか」


 ドレイクはあの試験を見ていないからしょうがないとしか言えないが、まさかこんなことを言ってくるとは思わなかった。

 まあこれからこいつと一緒に三年間の学園生活を送るだ、その間に認めさせる機会もあるだろう。


 ドレイクも俺達とはこれ以上会話を続けずに離れていった。


「何だったんでしょうか?」

「さあな、俺達のことを見つけて少しからかってやろうとでも思ったんじゃないか。まあ事故みたいなものだよ。ドレイクとはクラスも違うし毎日会うこともないだろう」

「そうですね。こんなことを気にしていたら楽しい学院生活も遅れませんものね」

「そうだよ。それよりも」


 講堂内から俺達新入生を呼ぶ声が聞こえてきた。

 俺達新入生は、Aクラスの生徒から順番に講堂内に入って行く。

 Cクラスの生徒が中に入り終わるといよいよ俺達の番だ。

 中からは拍手と音楽が聞こえてくる。

 俺達新入生を歓迎してくれている。

 中に入ると、今までに見たことないくらい華やかな装飾がされていて俺は目を奪われてしまった。

 五百年前で考えられない程だった。

 

 教師の案内で自分の席に着く。

 後ろにいる在校生の二年生と三年生。

 新入生が全員講堂内に入り席に着くと、音楽が終わり式が開始された。

 

 まずは副学院長の話から始まった。

 正直退屈な話だ。

 隣にいた生徒は話が終わるころには完全に寝ている。

 俺ももう少しでやばかった。

 そして、次に学院長が壇上へと上がる。


「まじかよ」


 そこに現れたのは俺が転生前に最後に見た少女その物だった。

 背も伸びて大人びた少女の姿、だがその雰囲気も魔力の感じも何も変わっていない。

 エルフと言う長寿から考えると、五百年なんてそれほど長くない。


「ハクア、大きくなったな」


 彼女の姿を見て小さな声で呟いた。

 そこからハクアの話が続くと殆どの生徒が眠りに落ちた。

 ただ俺は、ハクアの成長を心の中で喜んでいた。

 本で読んで、レーナから話を聞いて確信は持っていた。

 だが、実際にこの目で見るまでは心の中で信じ切れなかった。

 俺は目から何かが流れるのを感じた。

 一体何がと思い手で拭く。

 自分でも信じられないが目から涙がこぼれている。


「あ~あ、こんなことで目から涙がこぼれるとは思わなかった。でも本当に元気でいてくれて良かった」


 そんなことえおぼそりと呟きながらハクアの話に耳を傾けていた。

 そしてハクアの話が終わると、それぞれのクラスの教師の紹介があり、在校生の先輩たちからの歓迎の言葉と、歌が送られて入学式が終了したのだった。

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