19、入学試験 5

 いよいよ俺達の番がやって来た。


「次、千七十九番!」

「はい!」


 レーナが試験官に呼ばれて前に出る。


「頑張れよ!」

「はい、サージ様」


 ニコリと笑顔をこちらに向けてくれた。

 そしてレーナは正面にいる試験官レリックへと意識を向ける。

 真剣な顔。

 この一週間で見たことのない顔だ。


「いい顔だ。君はどのような戦いを見せてくれるのかな」

「楽しんでいただけると思います」

「楽しみにしている」


 その言葉の後、レーナはゆっくりと剣を抜き構える。

 場の空気が静まり返り、緊張が走る。

 レーナもだが、レリックも相手の隙を探っている。

 この試合、先に動いた方が負ける。

 これは経験値の差がでるな。


 そんなことを考えていると、先に動きを見せたのはレリックの方だ。

 大きな動きではない。

 ほんの少し、相手が攻めたくなるような隙を作り出した。


「これは、やられたな」


 俺が呟いたと同時に、レーナが攻めていった。

 あ~、うん、しょうがない。

 俺はそこまで教えれてなかったからな。

 一週間、剣の扱いや戦い方、スキルの発動については教えていたがそれ以外の事は全く。

 対人戦において気を付けることなど、入学試験のための鍛錬だったら教えておくべきことだったと少し後悔した。


「いい剣筋だ! 噂に聞きていたアルベノク家の三女とは少し違うようだな」

「はい! 大切な師に出会えましたから」

「そうか。それはいいことだ。君ならこの学院でもっと自分を高められるだろう」

「ありがとうございます」


 二人の会話が聞こえてくる。

 この感じだとレーナは心配ないだろう。

 あのレリックは完全実力主義のようだしな。

 ただ、一つあるとしたら、レリック以外の教師陣がどのように判断するかだろう。

 レーナは剣のみしか使えない。

 そのことをどう判断するのかが問題だろな。

 

 二人の戦いを見ながら俺が考え事をしている内に、試合は進んでいた。

 最初のレーナの一撃をはじき返したレリックが自分から攻めていく。

 一番最初に言っていたその場から動かないと言うのはどこに行ったのかと思ったが、


「俺の攻撃をどう受け止める!」


 レーナを試すためのようであった。

 スキルは発動していない。

 純粋に力とスピードだけの攻撃。

 レーナ相手にも本気は見せてくれないか。

 だが、純粋な攻撃だけだがその動きに無駄がない。

 流れるような体の動きに、軽々と大剣を振り回せる腕力。

 それに、動きの速さにも目を見張る物がある。

 流石はSランク間近の冒険者だ。


 自分の試合の時を楽しみしていると、


 ッカーン!


 レーナの持つ剣が後方と飛ばされた。

 そして、レリックの持つ大剣がレーナに向けられた。


「ここまでだな」

「はい。悔しいですがしょうがないですね」

「いや、君はここまで戦ってきた受験生の中では、一番の実力だった。楽しかった」

「私もです。絶対に力をつけてリベンジさせていただきます」

「そのときを楽しみにしているよ」


 二人は握手を交わして試験は終了した。

 レーナは俺の元へとやって来て、


「どうでしたか?」


 聞いてきた。


「良かったし、僕も少し反省したよ」

「反省ですか?」

「ああ、僕はこの一週間レーナさんに剣を教えてきた」

「はい、凄く感謝しています」

「うん、その気持ちは凄く嬉しいよ。でも、この学院の入学試験を受けることを考えると、対人戦についても教えておかないといけなかったのに、俺はそのことを忘れていた。もしそこをしっかりと教えられていたら、レリックさんともいい勝負が出来たはずなのに」

「そんなことはありません。この一週間、サージ様より剣を教えていただいたからこそ、私はレリック様とまともに戦うことが出来るようになりました。あの時、サージ様と出会ってなければ私は他の皆様と同じような結果だったでしょう」

 

 嬉しさなのかどうかは分からないが、目元に涙を浮かべている。

 感謝されて嫌な気持ちはしないが、それでも、完璧に教えきれなかったことに引っかかりを感じるているが、まあ今は忘れておこう。

 そんなことよりも次はいよいよ俺の番だな。


「次の受験番号、千八十番!」

「はい!」

「頑張ってくださいね」

「ああ」


 俺はレーナの応援に答えて前に出る。


「お前で最後のようだな」

「そのようですね」

「ふ~ん、白い本か、記念受験と言うやつか?」

「それは戦ってみれば分かるよ」

「そうか。それなら早速」


 レリックが大剣を構えようとしたので、


「その剣じゃなくて、後ろに隠している本来の武器を使ってください」

「面白いことを言うな。いつから気付いていたんだ」

「最初からですよ。確かに使い慣れているようには見えましたが、それでも動きに少し違和感を覚えました」

「ほ~、その年でそこまでの目を持ってるのか」

「ええ、色々な人を見てきましたから」

「それは面白いな。お前があのお方と同じなのかどうか試させてもらおうか」

「あのお方とは、誰ですか?」

「分かっているだろう」


 レリックは大剣を後方へと放り投げて手放すと、後ろに隠し持っていた短剣を二本取り出す。

 構えから歴戦の戦士の雰囲気を感じる。

 レリック本来の武器。


「俺に短剣を持たせたことを後悔するぜ」

「そうなればいいと僕も思います」


 俺の試験が開始されたのだった。

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