18、入学試験 4

 八番会場、多くの生徒が集まっている。

 会場の真ん中に大剣を持って立っている一人の男。

 あれが俺達八番会場の試験官をする者だろう。

 

「見てあれ」

「え! えーーーーー! あの方って!」

「そうよね、そうよね。あのお方よね」


 周りにいる女子達がキャー、キャー言っている。

 確かに大剣を持っている男はかなりのイケメンだ。

 体格も良く身長も高い。

 長い黒髪を後ろで束ねている。

 だが、そんなに騒ぐほどか?


「レーナ知ってるか?」


 俺は小声でレーナに尋ねる。


「知ってるよって言うよりも結構有な冒険者だよ」

「冒険者なのか」

「うん。Aランク冒険者のレリックさん。もうすぐSランクになれると噂されている人だよ。剣の腕前は一級品で、対人戦では負けなしだって聞いてるよ」

「凄いんだな」


 冒険者、その中でもSランクと言えば憧れの的である。

 そのランクに昇れる冒険者は一万分の一、殆どの者はそこまでたどり着くことが出来ない。

 才能だけではダメだ。

 本のみでもダメ。

 その両方をしっかり備えている者のみがたどり着くことの出来る頂点。

 それが、Sランク冒険者という地位なのである。

 そこにもう後少しでたどり着く者が試験官をする。

 この試験の厳しさがよくわかる。

 並大抵の者では受かることはないだろう。


「厳しい試験になりそうだね」

「そうだね」


 他の受験生達も俺達と同じようのことを話していた。

 そして、


「ただいまより、勇者学院入学試験を開始する。俺が受験番号を読み上げたら元気な返事と共に前に出てこい。ここで元気な返事も出来ない者は今後どんな道に進んだとしてもいい結果は残せないだろうと俺は考えている。そのため中途半端な返事をした者はその場で失格とする。覚悟しておけ!」

『はい!』


 その場にいた全員が大声で返事した。


「よっし! いい返事だ! それではまず、八百五十番」

「はい!」


 槍を持った男子が元気な返事と共に前に出た。


「一番最初は君だな! 使うのその槍か」

「はい!」

「そうか、俺はここから一歩も動かないから好きにかかってこい」

「分かりました」


 返事と同時に間髪入れずに正面から攻めていく。

 レリックはその攻撃に対して、ゆっくりと大剣を抜く。

 確かに反撃するとは言ってなかったがどうする気だ?

 少年の槍が光り出す。

 それと同時に少年が加速する。


「ソニックアタックのスキルか」

「初級スキルの?」

「そうだ」


 ソニックアタックとは弓と斧以外の武器の本に与えられる初級スキルで、発動と同時に自身を加速させるスキル。

 特徴としては持ち主の武器が光ることである。

 そこで発動ばれてしまい意味がないために対人戦では使われないスキル。

 但し槍の使いに関してはその中に当てはまらない。

 槍の初級スキルにライト突きと呼ばれるスキル存在している。

 槍を光らせて相手の視界を奪うスキルである。

 発動時の初動が同じなために判断がつかないために、槍使いが初手でよく使う手だ。

 昔、勇者に槍使いと最初に当たった時にどうしているのか聞いたことがあるが、あいつは感で分かると言っていた。

 なんの参考にならなかった。


「どうしてサージ様は分かられたのですか?」

「う~ん、なんていうのかな。上級の使い手だと僕も気づけなかったかな。でもあの受験生の子の動きはいかにもソニックアタックを使うと言っている感じがしたんだよ」

「流石ですね。サージ様は」

「何がだい?」

「冷静な分析、彼の動きを凄いとしか思えませんでした」

「どこが凄かったんだい」

「そうですね。試験官のレリックさんに臆せずに挑んでいったところとか、私すごいと思います」

「そうだね。相手は確実に格上だ。挑んでも確実に負けるだろう。だけど、この試験ではそういうところが見られているのかもしれないと思ったよ」

「どういうことですか?」

「どんな場面でもビビらずに立ち向かっていけるのか、そういうところも見られていると思うんだよ」

「なるほどね~」


 レーナは何か考えているようだ。

 すると、


 ッキーン!


 少年の槍と試験官の大剣がぶつかり合う音が響いてきた。

 流石にレリックも気づいていたか。

 お互いにひかない攻防。だが、レリックの様子からは余裕な感じが伝わってくる。

 どこか力を抜いているように見える動き。

 Sランク間近の冒険者がこんな所で本気を出すわけないか。

 俺の試験の時には本気を出させて見たいな。特に背中に隠しているあの武器とかを使わせて。


「サージ様!」


 レーナが俺に声を掛けてきたとき、勝負がついていた。

 少年の持っている槍は後方へとはじき返されていた。

 レリックは宣言通りその場から一度も動いていない。


「強いな」


 決して受験生の少年が弱いわけではない。

 レリックが強すぎただけだ、仕方がない。

 

「そうですね。ですが私にも勝機があると思います」

「俺もそう思う」


 とは言ったが、多分勝てないと思う。

 現状でレリックは手を抜いている。

 格下相手の試験で本気を出すことはないだろう。

 本を見れば分かるがレリックの使える武器の数は三種類。

 大剣に短剣、それと斧である。

 斧は隠す場所がないし、様子から普段から使っている様子もない。

 そこから読み取れるのは彼本来の武器は短剣であるところだろう。

 たまに大剣を使っているだろうが、それほど慣れていない様子だ。


「何にしろ、今持てる全てを出し切れば受かるよ」


 俺はレーナにそれだけ言ったのだった。

 それから、これと言ってレリックを苦戦させるような受験生はいなかった。

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