14、王都

 あれから一週間が経ち、俺とレーナは王都へと到着した。

 目の前にある大きな壁、五百年前に来た時に比べると、かなり変わっている。

 昔はこんな大きな壁はなかった。

 それに、門の方を見てみると、かなりの人が並んでいる。


「僕達も並ぼうか」

「はい」


 この一週間の間、俺はレーナからお願いされて剣を教えていた。

 俺もこの時代に来てからの知識と、転生前に勇者から聞いた知識しかないため、それ程多くのことを教えられなかったが、元々レーナには剣の才があった。

 それも勇者と同格の。

 そのおかげで一週間とは言え、かなり成長できたと思う。


 この世界の才能と呼ばれる物にはいくつか種類がある。

 まず最初に挙げられるのは、間違いなく本であろう。

 これは誰の目で見てもすぐに分かる。

 魔法の種類が多ければそれだけ将来に可能性があるし、本が分厚ければ魔力の伸びがかなり期待される。

 本以外にも才能と呼ばれる物は存在する。

 あまり認識されていないし、認める者も少ない。


 事実レーナは、本以外の才能に目を当ててもらえずに出来損ないの烙印を押されたのだ。

 そんなレーナには、努力出来る才があり、剣の才は俺の思った通り、勇者の生まれ変わりかと思うくらいの物があった。

 たった一週間で、低ランクのモンスターをあっさりと倒せるくらいにはなっただろう。


 並ぶこと一時間、やっと俺達の番がやって来た。

 門番に身分証を出す。


「よしいいぞ!」


 門番の確認が終わり、俺達は王都の中へ。

 そこに広がる光景に、俺は目を奪われた。

 街の中央にそびえたつ城。

 目の前を行き交う多くの人達。

 そして、街の東側には俺達が試験を受ける勇者学院の屋根が見える。

 それ以外にも大きな家が多く並んでいたり、お店があったりなど様々な建物がある。

 五百年前もかなり賑わっていたが、それとは雲泥の差であった。


「凄いね」


 横にいるレーナもその光景に驚いていた。


「そうだね」


 レーナの言葉に対して一言だけ返した。


 そんな時、


「おーい! おーい! サージ!」


 俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 辺りをキョロキョロと見渡すと、懐かしい人がこっちに向かってくる。


「サージ様のお知り合いですか?」

「ええ、三年ぶりです」


 こちらに向かって来ている人物は、家を出てもうすぐ三年になる。

 その間、家に帰ってくることがなかったために一度もあっていなかった。

 身長は三年前よりも伸びているし、もともと長かったブロンドの髪はより伸びていて、後ろで結んでいる。


「レイク兄さん、お久しぶりです」

「もう三年ぶりか、早いもんだな。そんなことよりも到着が遅いじゃないか!」

「ごめんごめん」

「父様からの手紙では、二日前に到着しているはずだろう。なのに二日も遅れるなんて」

「申し訳ありません」


 レーナが頭を下げて謝る。


「え~と君は?」

「私はレーナ=アルベノク、アルベノク伯爵家の三女です」

「アルベノク家と言えばあの、そこの三女と言うと」

「はい、そうです」

「でも、そんな君がなぜサージと一緒にいるんだい?」


 それからレーナはレイクにこの一週間のことを話した。

 その間、少し涙を目に浮かべていた。

 レーナの事だから俺に迷惑を掛けてしまったとか思っているのかもしれないが、俺にとっては正直とても楽しい一週間だった。

 一人で修行の旅も良かったが、話し相手がいるだけでこれほどまで違うものかと思っていたのだ。


「そうだったのか。分かった」

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


 また頭を下げるレーナ。


「頭を上げてくれ。一緒にいる経緯は分かった。それにレーナさんが一緒にいるのは、サージから言い出したことなんだろう。それじゃあ仕方がないさ。レーナさんが謝る必要はないんだよ」

「本当ですか?」

「ああ、それにサージを見ていれば分かる。レーナさんと出会ってからの一週間がとても楽しかったとね」

「な、何を言っているんだよ兄さん!」

「照れるな、照れるな」


 レイクは俺をからかってくるが、レーナは頬を赤くして少し下を向いていた。

 あれ? なんだこの反応は。


「それよりもどうして兄さんがここに?」

「そうだ、父様から王都を案内してくれと頼まれたんだよ」

「別にいいのに」

「そういうなって、父様も心配なんだろう。この広い王都で迷子にならないかってな」

「もうそんな年じゃないよ!」


 見た目年齢は十一歳だが、精神年齢は既に六十を超えている。

 そんな俺が、迷子になるはずがないだろうと突っ込みたかった。

 だが、五百年前から転生してきていることは秘密にしているため言えない。


 それから、俺とレーナはレイクの案内で勇者学園や街の中など様々な場所を案内してもらった。


 そして、日が暮れ始めるとレイクがおすすめの宿へと案内してくれた。


「ここなら宿代もそれほど高くないし必要な物は最低限揃っているから。僕も試験を受けに来た時に使った宿だからおすすめだよ」

「ありがとう兄さん!」

「ありがとうございます」

「レーナさんは伯爵家だし、もっといい宿でなくていいのかい?」

「私は、親からの反対を押し切って今回の試験を受けに来ました。だから、お金は殆どなくて……その~」

「分かったよレーナさん。なら試験まではここに泊まろうか」

「うん」


 俺の言葉に笑顔で答えてくれた。


 それから兄さんは、「また試験の時にね」とそれだけ言って学園へと帰っていった。

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