13、少女
この世界に存在するモンスターは、倒されると体を魔力となり消える。
魔力は空気に溶け込んでいく。
そして、モンスターは魔力結晶と体の一部だけを残す。
どの部位を落とすかは分からないため、欲しい素材がある者は、同じモンスターを何回も倒すことになる。
今回ブラッティーベアーが落としたのは、紫色の魔力結晶と外皮であった。
俺はドロップ品を回収して、少女の元へ行く。
「もう大丈夫だよ」
俺は少女に声を掛ける。
足をたたみそこに顔を埋めて泣いている少女。
俺の声を聞いて顔を上げる。
燃えるような長い赤い髪、整った顔立ちに白い肌、将来は絶世の美女になるかと思うほど美しい。
目に涙を浮かべながら俺の顔を見る。
「か、勝ったのですか?」
「勝ったよ。もうブラッティーベアーはいないから安心して」
「はい。ありがとうございます」
少女は下を向いて泣いていて、俺とブラッティーベアーとの戦闘は見ていなかったようだ。
安心したのか少し笑顔になる少女。
まだ涙が止まらないようで必死に拭いている。
「ここで話もなんだし、少し場所を移そうか」
俺達は、ゆっくりと話せる場所へと移動した。
流石に先ほど襲われていた場所にいるよりも、安心して話せると思ったからだ。
近くにちょうどいい切り株が二つあったので、そこで話そうと少女を座らせる。
「まずは君の名前を教えてもらっていいかな? 僕は、サージ=ルートて言いうんだ!」
「サージ様ですか。わ、私は、アルベノク伯爵家の三女、レーナ=アルベノク十一歳です。」
アルベノクって確か勇者と同じ姓じゃないか。
確か魔人王封印の後、伯爵の位を貰ったとか言っていたな。
「レーナさんってもしかして、勇者のグレイス=アルベノクと何か関係があったりする?」
「はい! グレイス=アルベノクは私のご先祖様です。ですが私は、そんな立派なご先祖様がいるのに、あんなモンスターも倒せないなんて、本当にダメです」
あれ? 急に自分を責め始めたぞ。
「仕方がないさ。まだ十一歳だろう。まだモンスターとの戦いの経験も無いだろうから普通だよ」
「そうでしょうか? サージ様も同い年くらいに見えるのですが?」
「僕はモンスターとの戦闘経験がたまたまあっただけさ。レーナさんも経験を積めば、あれくらいのモンスターくらい、余裕で倒せるようになるよ。だって勇者の子孫なんだから」
「いえ、私はダメなのです」
この話になると自分を責め始める。
勇者の子孫ということは武器に関する本を持っているはずだし、それなりの家だろうから教えだって受けているはずだ。
これほど自分に自信がないことは、ないはずなんだがな。
「どうしてそんなに自分を責めるんだ?」
「私は、家では落ちこぼれの出来損ないなのです」
う~ん、話が読めないな。
レーナの本はしっかり武器の紋章が出ている。
しかもあの勇者が得意としていた剣の紋章。
魔法はないようだが、今の時代なら出ていても使えない。
「この本を見てもらうと分かると思いますが、私は剣しか使えません」
「そうみたいだね」
「それ以外の武器が使えないのです。私の親も上二人の姉も複数の武器スキルが使えます。状況に応じて武器を使い分けたり、武器を変えながら戦うのが私の家、アルベノク家が先祖代々受け継いできた戦い方なのです。アルベノク家の先祖である、勇者グレイス=アルベノクは、全武器種のスキルを使えたと聞いております。そしてその戦法は多彩で状況に応じて、様々な武器を使い戦った聞いています」
誰だそれは、俺の知っている勇者は剣一本。
それ以外の武器も使えたが、あいつは「他の武器はしょうにあわね~」とか言って剣しか使っていなかった。
その代わりに俺や他のメンバーの力を借りて戦ってはいたが、自分オリジナルの剣技などを編み出して強かった。
レーナはグレイスの血を濃く受け継いでいる。
だからこそ剣のみなんだと思う。
レーナの努力次第では、グレイスと同じところまで行ける可能性も秘めているかもしれない。
「俺の知っている勇者とは少し違うな」
「え!?」
「俺の知っている勇者は器用じゃなかった。いろいろな武器が使えたのに剣だけを極めていた。もしかしたらレーナさんは、そんな勇者の生まれ変わりなのかもしれないね」
「そんなこと言われたのは初めてです」
少し顔が明るくなった。
一番肝心な話を聞いていない。
「そういえばレーナさんは、どうしてこんなところに?」
「私は勇者学院の入学試験を受けるために、王都へと向かっている最中だったのですが、その道中で先ほどのモンスターと遭遇したのです」
「でも、レーナさんは伯爵家でしょ。馬車とかがないみたいだけど」
「先ほども話した通り、私は家で落ちこぼれ、出来損ないと言われています。勇者学院の入学試験を受けることも、家族から反対されていました。そんな私のために馬車など用意してくれるはずもなく、徒歩で向かっている次第です。サージ様はどうしてここに?」
「僕もレーナさんと同じです。勇者学院の入学試験を受けるために、王都へと向かっている最中なんですよ。ただ、自分は修行もかねて徒歩で向かっているんですけどね。そのおかげでレーラさんを助けることが出来たんで良かったです」
「この度は本当にありがとうございます」
改めてレーナさんからお礼を言われた。
レーナさんとの話はそれからかなり盛り上がり、時間を忘れて話していた。
そして既に空は暗くなっている。
一日潰してしまったが、時間的に余裕はあるから問題ないだろう。
「今日はここで夜営ですが、レーナさんはどうしますか? あんなことがあった後ですし、もしよければご一緒にどうですか?」
流石に女の子を誘うのはどうかと思ったけど、このまま一人で行かせるのも心配だし、向かう先は同じ。
なら一緒に行くのもいいかもしれないと、思い声を掛けた。
「いいのですか?」
「ああ、どうせ向かう先は同じだし。俺で力になれることがあったら相談にも乗るよ」
彼女はとても嬉しそうな顔になっていた。
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