12、出会い

 旅立って二日が経った。

 その間、モンスターとは何回か遭遇したが、それほど強くない相手だったため難なく倒せた。

 戦闘では剣のスキルも試せたし、全力の魔法を放つことも出来た。

 ガルド相手では試せなかった上級魔法を使えた。

 上級魔法を超える魔法は使えなかったが、現状で上級魔法を何回使えるか目処はたった。

 正直転生前に比べると、比較にならないくらい少ないが、それはこれからの鍛錬次第でどうにでもなる。


 そんな感じに過ぎていった二日間。

 そして今は、三日目の朝を迎えた。

 いつものように森の中で目を覚ます。


「今日もいい気分だ」


 背伸びをしながら立ち上がり、近くの水辺で顔を洗う。

 旅はとても順調で予定通り王都へ着きそうだ。


 腰に下げる本。

 本来の色を取り戻した本は、光を浴びて虹色に光輝いている。


 俺は、焚火を始末して出発の準備を整える。


「さて、今日は何か楽しいことはあるかな?」


 なんて、ここ二日間全く同じセリフを言いながら出発している。


 歩いている道には何もない。

 しいて言うなら草が生えているくらいか。

 時たま馬車と出会うことがあるが、何かを話すでもなくすれ違うだけ。

 いたって平和である。

 こんな平和、昔では考えられなかった。

 賢者として活躍していたときは、旅と言えばモンスターと出会ったり、盗賊が襲いかかってきたりなど休む暇なく戦っていた。

 でも今は、時たまモンスターと出会う程度。

 一日に一回出会えばいい方だ。

 それだけ平和になったということなのだろう。


 そんなことを思いながら歩いていると、


「誰かー! 誰か助けてー!」


 聞きなれない少女の声が聞こえる。

 こんなところに誰かいるのかと思い、声のする方へと急ぐと、そこには大きなブラッティーベアーが、赤髪の少女を襲っている。


 全身真っ黒で体長は三メートル以上、大きな爪を武器として使う超凶暴な熊型のモンスター。

 森にいる普通の熊が魔力を大量に吸い込んだことで突然変異した姿。

 狂暴さは動物である熊の三倍以上、人や他の生き物を見ると襲い掛かってくる。

 昔はそれほど珍しくもないモンスターだったが、今はどうなのだろうか?


「誰か、お願いします! 助けてください!」


 おっと、こんなことを考えている場合じゃない。

 早く助けに行かないと、だけどその前に。


 俺は本に幻影魔法を掛ける。

 流石に虹色の本は目立つ。

 良い方にも悪い方にもだ。

 そのことで転生前は、酷い目を見た。

 それならばまだ白い本の方がましだと俺は考えている。


 本の色を幻影魔法で白に変える。


「これでいいか」


 俺の魔力が切れない限り、幻影魔法が解けることはない。

 よほど大量の魔力を使う魔法を使わない限り大丈夫だと思う。


 腰に下げている剣を抜き、体に強化魔法を掛けておく。

 まだ、剣士として戦うには不十分なため、強化魔法でそこを補って向かって行く。


 ブラッティーベアーの爪が、少女に当たる瞬間に割り込めた。


「もう大丈夫だよ」


 俺は剣でブラッティーベアーの攻撃を受け止めながら、後ろにいる少女に声を掛ける。


「は、はい。あり、ありがとうごじゃいます」


 噛んでいたが今はそんなこと後回しだ。

 まずは目の前にいるこの熊を倒さないとな。


 俺は正面にいるブラッティーベアーに向き直る。


「ガァァァ~~~~~~!」


  俺を見て吠える。

 俺をビビらせようとしているのかもしれないが、そんなこけおどしが効くはずもない。


 ブラッティーベアーから一度距離を取り、地面を思いっきり蹴って向かって行く。

 相手は頭脳を持たないモンスター。

 魔力を大量に吸い込んだことで理性も完全に失っている。


  襲いかかって来るブラッティーベアー。

 右手の爪が俺目掛けて向かってくる。

 剣で受け止めると、逆の左手の爪が向かって来た。

 俺はブラッティーベアーに蹴りを加えながら後方へと下がる。

 流石の巨体。

 強化した俺の蹴りでも体勢を崩すことが出来ない。


 ブラッティーベアーの攻撃は、先ほど俺のいた所に突き刺さっている。


「あ、危なかった~」


 今の俺があの攻撃を受けたらひとたまりもない。

 まあくらうことはないが。

 それよりもこの相手なら、楽しめそうだ。


「耐えてくれよ。俺の実験台になるためにな」


 俺は後ろにいる少女のことを忘れて、目の前にモンスターに集中していた。


 正面から攻める。

 転生前から使っていた魔法なら完璧に使えるが、まだ剣のスキルは本を開かないと使うことが出来ない。

 そのため今回は、スキルに頼らない技術と、魔法での戦いになる。

 本当は剣のスキルを試したいが、流石にその余裕はない。

 いちいち対象のページを開いていたらその間にやられてしまう。


「だから、フレイムランス!」


 俺は火の中級魔法を放つ。

 火で出来た槍がブラッティーベアー目がけて飛んでいく。

 俺の魔法に対してブラッティーベアーは、正面から迎え撃つつもりのようだ。


 大きな口を開けて、


「ガァァァ~~~~~~!」


 大声で叫ぶ。

 俺の放ったフレイムランスが消滅した。


「ま、まじかよ。いくら中級魔法だって言っても大声位で消えるか普通」


 確かに魔力も抑えていたし、放ったのも一本だけ。

 お試しのつもりではあったが、まさかダメージも与えられないなんて思わなかった。

 まあそうでないと面白くないがな。


 魔法を消した後すぐに、俺目掛けて突進してくるブラッティーベアー。

 すぐ後ろには赤髪の少女がいる。

 これ以上下がることは出来ない。


 俺は、向かってくるブラッティーベアーを迎え撃つことにした。


 俺を捉えようとしてきたところに、


「サンダーボルト」


 雷の中級魔法を放つ。

 ブラッティーベアーの頭上に展開された魔法陣より落ちた雷は、直撃。

 倒すことは出来なかったが、麻痺させることが出来た。


「狙い通り」


 魔力量を減らして威力を下げた代わりに、発動速度を最大限に引き上げたために威力はかなり落ちたが、ブラッティーベアーの攻撃よりも先に、当てることが出来た。

 その上で、狙い通りの効果を得られた。


 それでも無理やりに体を動かして攻撃をしてくるが、かなり遅い。

 理性を失っているため、逃げる判断が出来ずにこの状況でも襲い掛かってくる。


「もうお休み」


 俺は、ブラッティーベアーの首を落として決着をつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る