11、四年後と旅立ち

 ガルドとの模擬戦から四年の月日が流れた。


 ガルドは何も変わっていないが、最近は父の秘書として、領主の仕事を学んでいる。

 そのために俺に突っかかってくることはない。

 そのおかげでに毎日気楽な一日を過ごしていた。


 俺の日課は、父との剣の特訓と魔力訓練。

 この魔力訓練は、父に俺が教えている。

 それから昼までは書庫で本を読んでおり、昼から森での自主練である。

 この四年の間に一つだけ変わったことがある。

 それは、ルート家が男爵位から子爵家へと上がったことだ。


 父は俺から教わった魔法を使い、戦で次々と戦果を挙げてきた。

 それが国から認められて爵位が上がったのだ。

 一番の活躍は二年前の戦。

 あの時は、国が後一手で負けという状況で、父は魔法を駆使して戦って自軍を勝利に導いたと聴いている。

 その功績が認められて爵位が上がることになった。


 それ以外なにも変わらずかな。


 そして今日、俺は十一歳となった。

 これでやっと俺は勇者学院への入学資格を得られる。


 俺が暮らすジール村は、マルクス王国の中にある小さな村である。

 ジール村から馬車で三日の所にあるこの国が王都、サーリスには勇者学院がある。

 この学院は、俺が死んだ後に建てられた物で、学院には俺達の銅像があるらしい。

 それにこの学園の創設者で、学園長は俺の知っている者と同じ名前であった。

 もしかすると彼女なのかもしれない。

 そんな期待が俺の中であふれてきていた。


 四年前のガルドとの模擬戦の時、父に望みはないかと聞かれた。

 俺は家を継ぎたいとか思ってはなかったが一つだけ、父に言った。

 勇者学院に入りたいと。

 あの時は考えておくと言う答えだったが、去年、父から勇者学園の入学試験を受ける許可をもらった。

 父は魔法を学べなくなると少し残念がっていたが、俺のためだと言ってくれた。


 そして今日は、俺が勇者学園の入学試験を受けるために王都へと向かう日である。

 父は馬車を用意してくれると言ってくれていた。

 だが俺は、試験までは時間もあるし、自分をもっと高めるためにも歩いて行くと言い、馬車を断っていた。

 その代わりにと父は、少しのお金としっかりとした剣を用意してくれた。


「じゃぁ父様行ってきます!」


 家を出るときに見送ってくれる父に挨拶する。


「ああ、言って来い。王都に付けばレイクがいるだろうから頼るといい」

「はい、分かりました」


 レイクは、二年前に勇者学園の入学試験を受けて受かっている。

 そのために今は全寮制の勇者学園に通っている。

 俺が入学する頃には卒業となるために、一緒に学園に通うことはない。


 そして今日だけは長男であるガイルも俺の見送りに来てくれていた。


「やっとお前がいなくなると思うと精々するぜ。もう帰ってこなくていいからな!」


 いや三年後には帰ってくるけどな。

 まあ、そんなことどうでもいいか。


 あれ以来ガイルは、父から剣は学んでいたが、俺からは意固地になって魔法を学ぼうとしなかった。


「そうだね。俺は少し寂しいけど」


 それだけ言って家を出た。

 最後に少し悲しそうな顔をしているガイルの姿が目に映ったのだ。

 その姿を見て少し悲しくなったが、別に永遠の別れということではない。

 三年後には帰ってくるのだから。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 家を出てから半日が過ぎ日が暮れ始めた。


「今日はここで野宿かな」


 俺は森の中で野宿することに、それを懐かしく思う。

 勇者パーティーを離れて以来だからかなり前のことになる。

 あの頃は仲間達といろんな話をして楽しかったし、あいつらと出会う前はずっと一人だった。


 こうして一人の夜はいろいろなことを思い出す。

 楽しかったこともそうだが、嫌なことも思い出す。

 こうしていいると、色々と考えさせられる。

 その時、


「あ! そうだ、本の色をもとに戻さないと」


 俺は自分でかけていた本の色を変える魔法のことを思い出した。

 七歳になったら変えるつもりだったが、あの家を出る事も出来なさそうで変えれてなかった。

 やっと一人になれたし変えるときなのかもしれない。


 俺は近くの切り株に本を乗せる。


「ハクア!」


 呪文を唱えると、それと同時に俺の持つ本は色を取り戻していく。

 少しずつ懐かしい色を。


「久しぶりだな」


 本の色を見て思わずつぶやいてしまった。

 ただし全てが同じわけではない。

 本の色が全て戻ると、その中心に転生前にはなかったものがある。


「そうか。そう言うことだったのか」


 それを見て俺は、自分がなぜ剣をあんなに簡単に使えたのかについて理解出来た。


「まさか、この本が混じっているとは思わなかったよ」


 俺が新しい人生で手にしたのは、勇者の本であった。

 全ての武器を扱うことが出来る本。

 その証拠に、本の中心に全ての武器の紋章が入っている。

 虹色の賢者の本と、全ての武器の紋章の入った勇者の本。

 最強の本を手にしてしまったと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る