8、ガルドとの模擬戦 前編

 俺にとって模擬戦は三年ぶりだ。

 前回は父相手の戦い。

 結果として負けはしたが、自分の力を認識することが出来た。

 そのおかげで課題も見えたし、この三年間でしっかりとその課題をクリアできたと思う。

 それに、今回の人生で剣の可能性も見えた。


 そして今回は、枷が外れた俺の力を試すと同時に、この七年間バカにしてきたことの仕返しをさせてもらう。

 少し子供っぽいかもしれないが、まあいい。

 今は七歳の子供なんだから。


 俺とガルドは、ある程度距離を取って向き合う。

 そこへ父が木剣を渡してくる。

 いつもの事ながら模擬戦で使うための剣。

 実剣を使えばもしものことがあるために木剣を使っている。


「無能、最後の忠告だ! やめるなら今だぜ! この天才ガルド様に、無能のお前が勝てるはずがないんだからな。何の力も持たないお前が、ただボロボロにされるところなど父様も見たくないだろうしな」

「ご忠告痛み入ります。ですが、兄さん。調子に乗っておられますと、この無能な僕に足元をすくわれますよ」

「お前に足元をすくわれる。そんなわけあるか!」

「そうですか。では全力で来てくださいね。じゃないと面白くないので」

「生意気言いやがる。後悔しても知らないからな」


 俺の挑発は成功。

 乗って来た。

 これでこの模擬戦が面白くなる。


 そこへ、


「サージ、お前は何か望みはあるのか?」


 父が聞いてきた。


「いえ、何もありません。今回の模擬戦は自分の力を試すために提案させていただきました」

「相手がガルドである理由もないのか。ガルドはこの村の次期領主だ。もしお前が勝てば、この家を継ぐことも可能だぞ」

「いえ、家を継ぐことに興味はありません。ですが一つわがままを言っていいのであれば、俺が十一歳になったら勇者学院の入学試験を受ける許可をもらえませんか」

「そんなことでよいのか」

「はい」

「分かった。考えておこう」

「ありがとうございます」


 俺はガルドへと向き直る。

 そして、父から開始の合図が告げられて、模擬戦が始まった。


 まず初めに攻めてきたのはガルドである。

 木剣を構えると同時に、低い姿勢で向かってくる。

 狙いとしては、一撃で終わらせようとしているのだろうが、甘い。


「能力向上、俊敏性アップ、耐久性アップ木剣に付与」


 三つの魔法を発動する。

 能力向上と俊敏性アップは強化魔法。

 移動速度と全体的な能力を上げる。

 それと同時に武器破壊対策として木剣の耐久性を上げる付与魔法を使う。

 まずはこれで様子見。


 俺はガルドの攻撃を躱すことはせずに受け止める。


「よく受け止めたな無能のくせに」

「ハエが止まりそうな速度の攻撃を、受け止められないわけがないでしょ」

「っち! その減らず口叩けないようにしてやる」


 ガルドは俺を蹴り飛ばし、一度距離を取る。


 そして、間髪入れずにまた正面から攻めてくる。

 また同じ攻撃かと思ったが、違うようだ。


「これは」

「ほ~お」


 俺だけでなく、父も気づいたようだ。

 ガルドのやろうとしている事は、三年前の模擬戦で、父がガルドのに止めを刺した技だ。

 この三年間で身につけていたか。

 だがこの攻撃は、相手に気づかれなければ通用するが、気づかれれば無意味。


 だがそのことに気づいていないガルドは、俺に物凄い殺気をぶつけて幻影を見せて、背後へと移動する。

 だがその動きが分かっていた俺に、幻影は通用しない。


 振り向くと背後から剣を振り下ろしてくるガルドの姿がある。


「!!」


 隙だらけ、そこに剣を軽く振ってやると、攻撃の手を止めて後退する。

 なんで気づかれたのか分からないと言った顔。


「スキルを使わないと、僕には勝てないですよ兄さん」


 ここまでガルドは一切剣のスキルを使っていない。

 俺のことをなめているのだろうが、今のでスキルを使わないと勝てないと分かっただろう。


「っち! お前なんかに使うのはもったいないが、仕方がないか。ハヤブサ!」


 先ほどの攻撃の二倍以上の速度で、向かってくる。

 それに今回は、正面から一直線にではなく左右に移動しながら、動きをつかませないようにしている。


 ハヤブサは剣の中級に当たるスキルで、早斬りの上位互換。

 剣の速度を上げる早斬りと違って、使い手の移動速度を同時に上げることも出来るスキルで、ガルドが一番得意としている。


 昨日までの俺だったら受け止められなかっただろうが、今の俺なら何でもない。


「視覚強化」


 目を強化することで動体視力を向上。

 そうすることでどんなに速い動きでも目で追えるようにする。

 それに、


「聴覚強化、触覚強化」


 五感の他の二つも強化。

 これにより、ガルドの居場所を目だけでなく音でも判断できるようにする。

 それと、自分の近くで空気の変化が有った時に、その変化を感じ取れるように触覚も強化しておく。


「終わりだ無能」


 その言葉と同時にガルドが右から突きを放ってくる。

 俺はそれを軽く躱すと同時に、軽い一撃を与える。


「!!」


 その攻撃をまともに受けるガルド。

 ただ、殆ど威力のない攻撃であったため、ダメージはない。

 ただ、精神的な物は別だろう。

 無能のと呼びさげすんできた俺に対して、一撃も与えられずに自分は攻撃を受けている。

 これはなかなか効くだろうな。


 先ほどまで、間髪入れずに攻めてきていたガルドの動きが止まる。

 そこへ今度は俺から攻撃を仕掛けていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る