4、魔力

 父とガルドの模擬戦は当然と言うか、父が勝った。

 まあ大人と子供でもあるし、父の戦果を考えると負ける方がおかしい。

 それに、かなり手を抜いていたように見えた。

 終始余裕の表情を崩さず、止めを刺せるところでは刺さずに声を掛ける。

 これは模擬戦、ガルドを成長させるための物だったんだろう。


 ガルドが初級スキルを使った時も、剣技だけで受け流して見せた。

 それに最後の父の攻撃、スキルの発動はなかった。

 あれは身体能力だけで、ガルドに幻覚を見せて背後を取ったのだ。

 その動きには無駄はなく、凄いの一言に尽きる。


 ただ、俺の中で一つ気になることがある。

 父はともかく、ガルドは何故身体強化の魔法を使わなかったのだろうか? 

 強化の魔法を使える武器スキルの使い手は、まず身体強化をして戦闘に挑む。

 そのために、剣などの武器の使い方と、強化魔法を両方覚える物なのだ。

 ガルドは今十歳で、能力の枷が外れて既に三年が経っている。

 身体強化をある程度使えるのが普通のはずだ。


 なのになぜと俺が考えていると、


「サージ、剣での戦闘のやり方は覚えたか!」

「は、はい!」


 え! 何を言っているんだ。

 流石に四歳の子供に対して、たった一回見ただけで覚えたは何だろう。

 だが、父の纏っている何とも言えない雰囲気から思わず返事をしてしまった。


「ならガルドの持っている木剣を持ってそこに立て!」


 俺は言われるがままに、意識を取り戻したガルドより木剣を取り、父と向かい合う。


「後悔するぜ!」


 俺が木剣を取るときにガルドよりそんなことを言われた。

 まあ。何となく予想はつくが。


「よし! では好きにかかってこい」


 やっぱりか。

 何となくそうではないかと思っていたが。


「父様! 私は剣を初めて握ります。確かに先ほど、ガルド兄さんと父様の模擬戦を見せていただきました。ですが、どうしたらいいのか分かりません。ですので、構えから教えていただけないでしょうか?」

「まずかかってこい。全ては実践で学べ」


 あ~、はいはい。

 そういうタイプね。

 めんどくさい。


 父からの提案で、いろいろ学べるしラッキーと思っていたが、これは無理だな。

 まだ勇者グレイスの方がましだったな。


 転生前の俺が、護身用にと剣の教えを乞いたのは、勇者グレイスであった。

 あいつも脳筋の戦闘バカであったが、それでも父よりはましだった。

 最低限の基礎は教えてくれた。

 そういう意味では、あいつは本当に勇者であったなと思う。


 それに、もう一つの疑問について父んい聞いてみる。


「一つ質問良いでしょうか?」

「なんだ!」

「何故ガルド兄さんは強化魔法を使わなかったのでしょうか? 僕に見せる模擬戦だったからなのですか?」

「何を言っているんだ。剣士が魔法を使えるわけないだろう」

「え? ですが、剣のスキルは使っていましたよね」

「当然だろう。剣のスキルの本を持っているのだから」


 俺は何か質問を間違えたのか? いやそんなはずはない。

 それにごく当たり前のことを聞いたはずなのだが、返ってきた答えは的はずれの物。

 父は様々な戦に出ている。

 その父が知らないはずがない。


「ですが、ガルド兄さんの本は剣だけでなく、強化魔法と付与魔法も入っています。兄さんはもう十歳です。強化の初期魔法くらいは使える物かと思うのですが」

「サージ、何を言っているんだ。毎日のように本を読んでいるお前なら知っているだろう。俺達武器のスキルを持つ者が魔法をつかえないことを。いや違うな、魔力を持っていないことをだ」


 何を言っているんだこの人は。

 魔力はこの世界に生きる者全てに平等に与えられる物。

 確かに人それぞれで魔力量は違う。

 だがそれだけだ。


「ですが兄さんは、剣の初期スキル早斬りを使っていました」

「そうだな。剣のスキルを持つ者が最初に覚えるスキルだ。使えて当然だろう」

「はい。そのスキルの発動に魔力を使っているはずです」

「それはない」

「え? どうしてですか」

「我々武器スキルを持つ者が使うスキルは確かに本から発動する。ただ、そこで消費される者は、魔導士とは違うのだ。何を消費しているかは分かってはいないがな」


 う~ん。

 俺のいた五百年前とは、考え方がかなり違っている。

 確かに勇者は魔法を使えなかった。

 それは魔力がないからではない。

 単純に魔法を持っていなかったからだ。

 だがその代わりに、全ての武器のスキルを持っていた。

 それが故に勇者と呼ばれていたのだ。


 だから、父の知識は間違っている。

 この五百年で何があったのか分からないが、間違った知識を広めている者がいるということだ。


「わかりました。では父様、模擬戦をお願いしてもいいですか」

「さっきまでと違ってやる気ではないか」

「はい。僕でもいい勝負が出来そうだなと思いまして」

「言うではないか。まだ四歳で能力に枷がかかっている状態で」

「勝てるとは思っていませんが、面白い試合は出来ると思っています」


 今の俺では長くは持たない。

 まだ魔力量も十分ではない。

 どこまでやれるかは分からないが、今出来ることを全力でやる。

 今の自分の力を確かめるいい機会だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る