3、父とガルドの模擬戦
父から急に告げられた剣の修行。
俺からすれば願ってもない話しだが、なぜ急にそんなことを言い始めたのだろうかと、俺は考える。
俺の本の色は白。
この世界では無能の証とされている。
まあこれは、俺が自分の意志でやったことなので特に気にはしていない。そのことを知らない父が俺に剣を教えるメリットは一切ない。
はたから見たら無駄なことをしているようにしか見えないだろう。
俺が考えていることと同じことを考えている奴が一人いた。
言うまでもない、ガルドだ。
「父上! なぜこのような無能に時間を使うのですか! 私はもっと父上より剣を教わりたいのに!」
机より身を乗り出して叫ぶガルド。
剣の才能が有り、持っている本も付与魔法と強化魔法、それに剣のスキルを持つガルドは、家の中でも神童と呼ばれている。
物心ついたころから父に剣を習っている。
その実力は父からの折り紙付きで、今では村の大人たちとも互角に戦えるとか。
それほどの実力を持つ兄が教えを乞いたいほどに、父の剣の腕は凄いらしかった。
「そう言うなガルドよ。確かにサージの本は白だ。だがな、いくら白の本とはいえ別に成長しないわけではないのだ。サージは三男、いつかはこの家を出る事になる。そうなったとき、自分の身を守れるようにしとくだけでも全然違うだろう」
父の考えは理解で来た。
この家を継ぐのは長男であるガルドで、三男の俺は、いつか家を出る事になる。
その時に、護身用の剣でも覚えていれば、将来何かの役に立つかもしれない。
これは父からの最低限の施しなのかもしれない。
「ですが父上!」
「もうよい! お前ももう十歳だ! それくらい分かるだろう」
父の言葉に何も言えなくなったガルドは、大人しく朝食を食べ始めた。
よく見ると目元に薄っすらと涙が浮かんでいる。
長男であるガルドは、わがままし放題。
その上、怒られることもなく生きてきた。
そのために今日みたいに父から怒られることは、今までになかった。
そのため少し怖かったのだろう。
「良かったね。父さんは、優しいから僕達兄弟の事も平等に見てくれているんだよ」
耳元で小さな声で囁くレイク。
「うん。ありがとうレイク兄さん。僕、頑張るよ」
その言葉に対して、弟らしく答えてみる。
それから、朝食は滞りなく進み、全員が食べ終わると、
「外へ行くぞ! ガルドもこい!」
「はい!」
覇気のない返事をするガルド。
「なんだその返事は!」
父からの一言に対して、
「は、はい!」
元気のいい返事をした。
それから俺も父についていき外へ出る。
何となくであるが、これから何をするのか予想が付いた。
勇者パーティーにいた頃、勇者であるグレイスは弟子を取っていた。
その時、まず初めに剣の使い方を見せるためにと、自分の剣技を見せる模擬戦をしていた。
大抵それに付き合っていたのは、盾使い、守護神のグリーンであったが。
父は、俺に自分とガルドの模擬戦を見せて、剣での戦い方がどのような物なのかを見せようということなのだ。
俺はそれが楽しみでもあった。
ガルドの力が見えるからではない。
平民から貴族へと成り上がった父。
数々の戦で戦果を挙げて、剣神と呼ばれた父は、国王より男爵の地位を授かった。
戦場では数千の敵を一人で倒してきた父。
その実力をまじかで見れるのだから、楽しみで仕方がない。
ただ、相手がガルド、本気は見れないであろうが。
それでも、いつもの午前中の日課である読書を差し置いてでも見たいと思ってしまった。
庭へと出てきた俺達。
俺は父の指示で二人から少し離れた所に座っている。
今回使うは木剣。二人ともに剣を構えて向き合う。
「ガルドよ自由にかかってこい。いくらサージに見せるためとは言え、お前がどこまで戦えるかをみる模擬戦でもあるんだからな。手を抜くなよ。もし、そんなことをすれば」
「分かっております」
ガルドは返事と同時に父に向かって行く。
最初の攻撃にはスキルを使っていない。
正面から父に向かって突きを放つ。
それを簡単に躱し、反撃。
ガルドも父の攻撃を見切り、躱す。
お互いに相手の状況を把握している。
次に動いたのは父からだった。
一瞬でガルドとの間合いを詰めて右から横なぎに一閃。
ある程度力は抑えているだろうが、なかなか早い。
それを受けるでなく、躱すガルド。
一瞬で父の攻撃を受けきれないと判断したのだろう。
流石に神童と呼ばれるだけはある。
お互いにウォーミングアップは完了っと言った顔。
一時の静寂の後、ガルドが動いた。
剣のスキル――早斬り。
その名の通り、高速できりかかるスキル。
剣のスキルで最初から皆が覚えている物。
それに、肉体強化も使って間合いを詰める速度を上げている。
父もガルドの攻撃を躱さずに今度は受け止めた。
しかも、少し剣を斜めにずらすことで、完全に力を受け流している。
それにより体勢を崩すガルド。
「甘い! その程度がお前の実力か!」
父は止めを刺さず叫ぶ。
その声を聞き、無理やり体勢を立て直して距離を取る。
「受け止めてみろ!」
父はそれだけ言うと、物凄い殺気を込めて間合いを詰める。
まさに本物としか思えない攻撃。
俺から見ても本物と見間違えるほど。
ガルドも同じであった。
父の攻撃を受け止めようとしていた。
「まだまだだな」
正面にいたはずの父は声と共に消えて、ガルドの背後より現れた。
「!!」
そして、父からの一撃を受けて、ガルドは気を失ってしまった。
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