2、四年後

 俺が転生してから四年が経ち、いろいろと分かってきた。


 まず俺が生まれ変わった先は、ルート男爵家、小さな村を収める領主の三男として生まれた。

 貴族と言っても男爵家、貴族位では一番下である。

 それに三男と言うことは家を継ぐことも出来ないため、ある程度の年になったら家を出る事になる。

 俺にとっては好都合ではあるが。


 家族構成は両親が二人に、兄が二人の五人家族。

 両親はいい人だし、上の兄もいい人だ。

 俺には申し分ない程に、ただ一つ問題があるとしたら一番上の兄、ガルド=ルートだ。

 このガルドはいつも俺のことをバカにしてくる。

 特に俺の持つ本を見てだ。


「おい無能! お前がそんなところで何をしているんだよ!」


 ガルドはいつも俺のことを無能と呼んでくる。

 その理由は俺の持つ本の色が原因だった。

 無能、つまり白色の本を持っているからである。

 ただこれには理由があった。

 俺が作った転生魔法には、転生後合言葉を唱えない限り、本の色が白から変わらない効果を追加していた。

 そのためにガルドは、俺の本を見てバカにしてくる。

 それを俺はいつも無視しているのだ。


「お前が本を読んでも無駄だよ!」


 俺の日課は家の書庫にある本を読むこと。

 この世界の歴史や現在の魔法などさまざまな情報を収集している。

 それによりある程度のことが分かった。


 今は俺が転生魔法を使ってから五百年後の世界であること。

 現在では複数属性を使う者が優遇されているということ。

 そして五百年前よりも魔道具が発達している事である。


 魔道具と言うのは、魔力を流すことで誰でも簡単に魔法を使うことが出来る道具である。

 五百年前は戦闘用の物が少しあったくらいだったが、今では戦闘用以外に生活用の物などがあるらしい。

 実際に見たことがないので何とも言えないのだが、もし王都でも行くことがあれば見てみたいものだ。


「っち! ずっと本読んでばっかで、つまらね~奴だよ!」


 舌打ちをして、ガルドは何処かへと行ってしまう。

 俺はため息をつきながら本を閉じた。


「そろそろ出かけようかな?」


 手に持っている本を本棚に片付けようと立ち上がろうとした時、


「本当にサージは本が好きだね」


 真ん中の兄、レイク=ルートがやって来た。

 いつも俺のことを気にしてくれるレイク。


「うん。だっていろんなことが書いてあって面白いんだもん」

「そうかい」


 笑いながら答えてくれる。

 俺よりも年が三つ離れたレイクは、ガルドよりも大人びて見えた。


 本を片付けた後、


「少し出かけてくるね」


 俺はレイクにそれだけ言って部屋を出た。


「気を付けるんだよ」

「は~い」


 元気のいい返事をして出かけていく。


 家を出た俺が向かう先は、近くにある森である。

 午前中は本を読み、午後からこの森へと来ている。

 ここで何をしているのかと言うと、特訓だ。


 この世界では、七歳になるまではどんなに持っている能力が凄くても、実力の一割も出すことが出来ない。

 これは、神が子供を守るためにお決めになったルールだと言われているが、本当の所はどうか分からない。

 ならなぜ特訓なんかをしているのか。

 意味がないわけではない。

 小さい頃から魔法を使うことで魔力量を増やすことが出来る。

 最終的には決まった魔力量までしか増えないが、七歳のスタート地点で他の子どもよりも先に行くことが出来るのだ。


 たいして魔法が使えるわけではないが、毎日少しずつ使っている内に、使える魔力量も増えてきて、少し多くの魔法を使えるようになってきた。


 いつもやっていることは単純で森の木に向かって初級魔法を放つ。

 ただそれだけ。

 これを毎日繰り返す。

 そうすることで、魔力量を増やすと同時に、魔法になれる事が出来る。


 そして今日も、


「こんなところかな」


 日が暮れ始めるころには、いつもの日課が終わっていた。

 毎日二十発程魔法を使用する。

 子供の体と言うこともあり、連続では使えないため一回一回休憩を挟みながらとなるためかなり時間がかかる。

 これも七歳になれば解消されるだろう。

 ただ、魔力も増えてきて、いつもよりも早く終わることが出来、魔力にも余裕がある。


「今日は、強化魔法を使って帰るか」


 自分の肉体を強化して帰ることにした。

 初級の肉体強化の魔法くらいならそれほど魔力も消費しないし、帰りも楽になる上に、特訓も出来る。

 一石三鳥。

 とても効率がいい。


 などと考えながら家に戻ると、いつものごとく門の前にガルドがいる。


「どこに行ってたんだ!」


 腕を組み、仁王立ちでいるガルド。


 俺は無視して家へと入ろうとすると、


「おい!」


 思いっきり腕をつかんで来ようとする。

 俺はひらりとそれを躱し、何知らぬ顔で家の中に入って行く。


 そんな俺を、追いかけてくるガルド。

 毎日がこんな感じに過ぎていった。

 そんなある日の朝、


「サージ、今日から剣の稽古を始めるぞ」


 父、グルド=ルートより言われた。

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