こんばんは。逸話家の黒守光です。

学生の夏休み前になると様々な怪談話が出現するので実は忙しい夏。私たちは夏が最もピークと言えるでしょう。


学校の怪談なんていうのは大人になった皆さんも昔は何か一つくらいは聞いたことがあるでしょう。現代の学校の怪談も殆どは昔に実体化され、弱体そして鎮静化という解決済みの怪談ではあるので安心出来る要素はあるのですが、やはり時代の変化ですかね。どうにも新しい怪談が生まれてしまいます。



これは私が担当した話ではないのですが、それこそ理科室の人体模型や骨格標本が夜動き出す、なんて怪談は比較的有名な怪談だと思います。

まあただこの話って直接人間に危害を加えているわけではないんですよ。だって動き出すだけですから。


これに追加で襲ってくる、なんて噂や血を抜かれる、なんて噂があったら私達逸話家も直ぐに対処したんですがどうも攻撃性がないから後回しにして別の危害を加える怪談、トイレの赤い紙と青い紙の怪談の方を先に対処したらしいです。


先にトイレの怪談を対処している訳ですからその間は理科室の模型達は夜な夜な動き出す訳ですよ。今は有名な映画でありますよね、夜になると動き出す展示物のやつ。あれくらい大人しければ私達の仕事も楽なんですけど。


怪談はその間残ってるから子供たちは夜学校に侵入したりするんです。

皆さんは夜学校に忍び込んだりしませんでしたか?私は夏休みに学校のプールに忍び込んだことがありますが、如何せん夜だったので気温も水温も下がってプールに入ったものの凍えてすぐに退散しました。二度とやりたくないですね。



またまた話が逸れましたね。どうも逸話家なんてやってると話を違う方向に持っていこうとしてしまうのでしょうか、いや、私のこれは多分元々無駄話が好きなんでしょう。


因みに今サラッと紹介しましたが逸話家っていうのは怪談「話」を「逸」らす職業ですので逸話家なんて呼ぶんですね。中々ロマンチストな感じがして私は気に入っていますが、同業者の中でもこの由来を知らない人なんてものは結構います。

知れた皆さんラッキーでしたね。



さて、逸話家らしく話が逸れたところで続きです。子供が忍び込んでもまだ動く標本や模型の怪談話は対処できてないから動いているわけですよ。


怪談を突き止めてやろうぜ!なんて意気込んで侵入した子供揃って逃げ出すんですよ。

ただ、攻撃性はありませんから子供たちは安全に逃げ帰れるんですね。


しかし、まあ面倒な事にここで子供らしさが発揮されます。

普通我々程の年齢になればもう行きません。そらそうです、誰がガシャガシャ動く骸骨に好き好んで会いに行くんですか。そんなのは犬くらいですよ。

でも子供は違います。

無事に逃げきれた後に子供たちは思います。


しまった、クラスメイトに自慢してここに来たのにこのままじゃカッコ悪く逃げ帰った話しかできない。攻撃してこないし気をつけて見てくれば話のネタに出来るだろう。


そんなことを考えてもう一回忍び込んだりします。


そもそも忍び込んで来る子供なんてクラスの中心だったりガキ大将的な子供が多いですからプライドがちょっと高いんでしょうね。


ちょっぴり予習済みの子供たちは再び動く模型や骨を見てもちょっぴり驚くだけで済みます。

さっき見ましたから、それで動くだけで何もしないことが分かればまあやることはありませんししっかり見てきたという戦果を持って帰るわけですね。



翌日学校で得意気にクラスメイトに話すわけです。見に行ったら確かに動いていた。でも何も危害は加えてこないぞ、って。


それを聞いたクラスメイトは確かめた英雄を讃えながら思うわけです。それくらい自分も行けるかもしれないと。


そうなりゃまあこぞって子供は忍び込んで怪談を見てきた話をする訳ですが、以前の様に褒められたりはしません。


新しい発見は何もありませんからね。忍び込んだ子供としては忍び込んだ意味が無かったと不服なので話を面白おかしく誇張します。


まあそんな子供がどんどん続いて色々誇張された結果、逸話家が対処に向かった学校では夜な夜な人体模型と骨格標本がブレイクダンスと盆踊りでダンスバトルを行ってる。なんて変なものになってたらしく。可笑しいですね、こんな怪談ならもっとあってもいいと思います。



ただ弊害として子供の殆どが見に行ってしまっていたので話を逸らすのが難しく実は鎮静化が結構難航したそうです。当時の担当した方、お疲れ様でした。



子供の力であっても言葉の持つ力は凄まじいですね。こんな噂が沢山浸透していくのは子供と奥様の井戸端会議ぐらいです。

言葉の持つ力、昔から言霊なんて言いますが本当にあるのでは、なんて近年詳しく調査されてるらしいですが詳しい話入ってきてません。


メカニズムが解明されれば逸話家の仕事が無くなっちゃいそうなので私個人としてはその調査を辞めて欲しいのが本音ですがね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る