第14話 召喚士
「……駄目です」
「アッシュはいけず」
ホリーの申し出を却下した俺は、上空と周囲を見渡した。
ワイバーン達は既に都市の各所を襲撃し、怒号と悲鳴が飛び交い、各所かた黒煙を噴き上がっている。……ふむ。
物騒な魔法を展開しては消し、展開しては消し、を繰り返している天才魔法使い様の帽子をぽん。
「取り合えず、逆探知出来るか? フィオナ達よりも先に見つけねぇと……情報が得られなくなる」
「……殲滅許可」
「駄目です」
「なら――探知しない。偶然、全部撃ち落としていく」
「ぐぬぬ」
拗ねてしまったホリーが、子供みたいに駄々をこねる。どうしたもんか。
なお、俺に逆探知なんて高等技術は使えない。
そして……俺の幼馴染であるフィオナの行動原理は単純で、
『アッシュが危なそうな敵は全部斬っておくからっ!』
で、ある。
幼き頃から度々矯正を試みたものの、親父さんとお袋さんもほぼ同じ思想なので、及ぼず。一緒にいるララが止めてくれれれば……いやまぁ、無理だな。あの人も、戦闘自体は決して嫌いじゃないし。
考え込んでいる間も、顔面を蒼白にした住民が逃げ惑い、兵士達がワイバーンに立ち向かっていく。
ホリーが悪い子の顔になり、俺を見上げてきた。
「さ――アッシュ、どうする? フィオナとララは、あそこ」
「! ……いや、早過ぎるだろうが」
杖の先、建物の屋根の上にフィオナ達が陣取り、ワイバーンの首を次々と飛ばしている。本来、あんな簡単に倒せる魔獣じゃないんだがなぁ……。う、胃が。
腹を擦りながら、眼鏡少女にもう一度お願いする。
「ホリー……頼む。情報が欲しいんだ」
「――条件は?」
「……次の都市での籤引き不正の黙認」
「了解した」
しれっとした表情でホリーは頷き、杖の石突きで地面を打った。無数の文字が地面を走り、都市全体に広がっていく。何度見てもとんでもねぇ。
あと……やっぱり籤に不正してたのかよっ!
――文字が一瞬で収束し、一つの赤線となった。
ホリーがドヤ顔。
「――見つけた」
「流石っ! うし、じゃあフィオナ達よりも早く術者を叩くぞっ!」
「アッシュ」
「うおっ」
走りだそうとした俺の裾を眼鏡少女が掴んだ。
反動で、前のめりになり転びかける。
――ホリーの整った顔が間近に。
その瞳には嗜虐と興奮。
「走っても間に合わない。フィオナとララも私の魔法は確認しているから」
「ぐっ……お、俺にどうしろと?」
「そんなの……決まっている。ん」
ホリーが両手を伸ばしてきた。
要求していることは理解出来る。幾度か必要に迫られてしたことも。
……その後、フィオナに散々責められ、ララにからかわれ、胃薬が増えた。今ここで、自分の胃を犠牲にするのか?
逡巡していると、淡々とした指摘。
「迷っている時間はそんなにない。見て」
「っ! あいつらっ!!」
さっきまでいた場所にフィオナ達の姿がない。
次々と襲い掛かるワイバーンを蹴散らしながら、突き進み――建物の陰へと隠れた。間違いない。召喚士本体を叩く気だっ!
ホリーが俺の頬っぺたを突き、耳元で囁いてきた。
「――フィオナとララは容赦しない。相手がたとえ」
人間でも。
……はぁ、仕方ねぇなぁ。
俺は小柄な天才魔法使い様の身体を抱きかかえた。
「軽い! もっと食べろっ!!」
「アッシュ、女の子にそんな台詞を言うのは減点。ノートに書いておく」
「……今の俺の点は?」
「跳ぶ」
ホリーは返答せず、俺の腕の中で杖を掲げた。
魔法陣で構成された『球』に包み込まれ――閃光。
次の瞬間、
「うおおおおおお!!!!!! お、ち、るぅぅぅぅ!!!!!!」
俺達は、教会上空に転移していた。
内臓で落下感覚を感じながら、目を凝らすと――いやがったっ。
教会の屋根の上。
杖を持った召喚士が召喚魔法を発動し、その周囲を数名の剣士らしき連中が守っている。
ホリーが期待の籠った表情で聞いてきた。
「殲滅」「駄目ですっ! 適度な魔法でっ!!」
「……ケチ。試したい魔法があったのに。なら、こっち」
落下感覚が弱まり、身体が浮く。
次いで、俺達に気付いた剣士達が剣を向け魔法を放とうとしたが……
『っ!?!!!』
いきなり屋根が沈み込み、教会そのものが崩壊していく。
腕の中のホリーを見ると「大丈夫。感知したけど、中には誰もいない」。……後で奉行に謝らねぇと。う、胃が痛ぇ。
少し離れた場所に降り立ち、瓦礫の中で呻いている召喚士と剣士達を見やる。
どうにかして立とうとしているが、立てないようだ。
「……で? 何の魔法なんだ?」
「当ててほしい」
「………………重力系?」
「当たり。御褒美に、今日は一緒にお風呂へ入ってあげる」
「や、止めようぜ。俺はまだ命が惜しい。冗談抜きでっ!」
「アッシュはケチ」
ホリーが腕の中で文句を言ってきやがる。
……数百年前に生きていた何処ぞの【賢者】様が使っていた、伝説の魔法をあっさりと再現しちまう天才魔法使い様はこれだからっ!
「ぐっ! はぁぁぁ!!!!!」
「おっと?」「……む」
ホリーの魔法を無理矢理打ち消し、壮年の召喚士と剣士達が立ち上がった。治癒魔法が次々と発動。……あれって、イェルハルドの暗部専門魔法じゃね?
この状況であっても、俺の腕から降りようとしないホリーが目を細めた。
「騎士国の魔法」
「……やっぱ、そうだよなぁ」
暗澹たる思いを抱きつつ、俺は慨嘆した。
魔獣や魔族よりも人間の方が厄介。それは、王都に出て来て散々経験してきたことで、どうやら、魔王という脅威が現れても変更されないらしい。神には今すぐどうにかしてほしい。
取り合えず……顔を紅潮させて、俺達を睨んでいる召喚士へ提案する。
「あ~……洗いざらい情報をくれれば、悪いようにはしないんだが? それで、手を打たないか?」
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