第15話 脅迫
俺の言葉を受けて、召喚士の顔が真っ赤になった。
すぐさま杖を振り、ワイバーンを呼び寄せようとする。
……いや、それは悪手だと思うぜ?
ホリーが杖の石突きで地面を突いた。
『っ!?!!』
召喚主の危機に十数頭のワイバーンが集結し、次々と襲撃してくるも、地面から顕現した数千の鎖に貫かき拘束され、圧殺。
血の雨が降り注ぐも、地面に届く前に炎で焼却されてて一滴も届かない。容赦なし。剣士達の顔が引き攣り、後ずさる。
召喚士が振り返り、怒号を発した。
「貴様等、逃げるなっ! それでも、栄えある騎士国の騎士かっ!!」
「……いや、そんなにはっきりと『騎士国』って言っちゃおしまいなんじゃ? ホリー、録音出来たか?」
「当然。はい、アッシュ」
「流石。今度、甘い物を奢るぜ」
「デート一回がいい」
「それは、俺の命が危ういし、何より、胃が持たないから却下だ!」
「アッシュのケチ」
「き、貴様等ぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺達のやり取りを聞いていた、召喚士が激高し、地団太を踏んだ。血管を切れちまいそうだ。大丈夫か、おい。
荒く息をしながら、杖を俺に突き付けてくる。
「はぁはぁはぁ……貴様、この私を、此処まで侮蔑し生きて帰れると思うなっ!」
「あ~…………その台詞はまずい。本気でまずい。悪い事は言わないから、今すぐに逃げた方がいい。これは、冗談抜きだぞ?」
「何を言っているっ! 貴様等っ! 私は大召喚を行うっ!! 時間を稼げっ!!!」
『は、はっ!』
心からの助言を無視し、召喚士は両手で杖を握り締めて魔力を集束し始めた。
狼狽えていた剣士達は、瞳に使命感を浮かべ俺達を囲むように布陣する。
傍目から見れば、窮地なんだろう。
……だが、しかし!
俺は身体を震わせ、眼鏡少女に告げた。
「ホリー、退避だ、退避っ! このままじゃ巻き添えを食うっ!!」
「んっ! 同意するっ!!」
「逃さぬっ!」
剣士の一人がいち早く、突撃してくる。馬鹿っ! 本気で死ぬ気かよっ!?
一瞬の逡巡。
…………だーっ! もう、しょうがねぇなっ!!
俺はわざと天才魔法使いから離れ、剣士に立ち向かう。
「アッシュ!?」
「血迷ったかっ! 死――」
「ふ・せ・ろっ!!!!!!!!!!!!!!」
「!?」
直後――凄まじい閃光が空と地面を走った。
騎士の腹に飛び込み、全力で跳んだ俺も叩きつけられ、激痛。
何が起こったのか理解していない騎士を睨みつけ、怒鳴る。
「馬鹿野郎っ!!!!! 相手のことを、調べもしないで、剣を抜いてくるなっ! 命が幾つあっても足りねぇぞっ! フィオナは俺への悪口を許容しねぇんだよっ!!!!!」
「………………」
顔面を蒼白にし、こくこく、と若い騎士は頷いた。
――俺達の目の前に、信じられない程に深く、底が見えない谷が走っている。
大召喚、とやらをしようとしていた召喚士の顔は蒼を通り越し、真っ白に。他の剣士達も同様だ。ったく! あいつは、やり過ぎるんだよなぁっ!!
内心で悪態を吐きつつ、俺は立ち上がり再度勧告する。
「ほれ、もう分かっただろ? 勝ち目云々の話じゃねぇんだって。騎士国の王様にはこう伝えてとけ。『魔王の脅威が迫りつつあるのに、せめて人同士の利権争いは後にしろ。じゃないと……各個撃破されるぞ?』ってな」
「……何だ?」
「あん?」
召喚士が目を血走らせながら、俺へ視線を叩きつけてきた。
俺はホリーをちらり。非常に物騒な魔法を準備しているのは分かる。落ち着け。頼むから。いや、本当に。
「いったい、何なのだ!? 今の攻撃はっ! こ、このような技、如何な戦場でも見たことが――」
「はい、間違いだ」
「何?」
これが『技』だったらどれだけ良かったか。
俺は額を押さえて、絶望的な事実を告げる。
「……今の、聖剣の単なる斬撃だぞ? 技でもなんでもない、な」
『………………』
「アッシュ、危ない。早く避難して。私の胸に。さぁ、早く」
「……ホリー、状況を愉しむな。俺の胃はそろそろ限界だ」
ここぞとばかりに、天才魔法使い様が茶化してくる。……冗談だよな?
剣士達が召喚士の顔を見て、一斉に意見を具申。
「ワートン様! これまでですっ!」「威力偵察の任は果たしたと思います」「王も理解してくださる筈です」「こ、こんな斬撃を飛ばしてくる相手を攫うのは無茶苦茶ですっ!」。……ん? 攫う?? ほぉ。
ホリーが小さく呟いた「バカは何処まで行ってもバカ……」。
俺は微笑み、決断出来ない召喚士に問うた。
「なぁ、そこのおっさん。要は――イェルハルド騎士国は『人類の敵』認定されたい、ってことでいいのか?」
「なっ!?」『!』
「…………でも、悪いアッシュは貴重。よくやった、馬鹿な騎士」
天才魔法使い様の言葉を聞きつつも、俺は肩を竦める。
動揺し、目を瞬かせている誇り高き騎士達へ宣告。
「あんたらは【聖剣】に選ばれ、魔王討伐の旅をしている【勇者】様を、あろうことか、攫おうとしていた。それってさぁ……魔族側につくのと同義だろ?」
「馬鹿なっ! それは、ち、違」
「違わねぇなぁ。試しにあんたらの音声記録を各国へ送りつけてみるか? 小国はともかく、大陸の列強はイェルハルドの失態を許してくれる程、甘くない。亡国、経験しとくか?」
『………………』
召喚士と騎士達が黙り込む。
――なお、全部ハッタリである。
魔族との戦争が開始されそうだってのに、人側の大国を滅ぼしてどうするのか。むしろ、最前線で酷使した方が建設的だろう。
俺は大袈裟に演技しながら、両手を軽く挙げ、決断を迫った。
「ほら? どうするんだ? 今、退けば不問にしとく。だが……続けるなら、容赦は期待すんな。……うちの勇者様の逆鱗にお前達は触れちまってる。視界に捉えられたら死ぬぞ?」
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