第2話

アキラはそのままシドの作業場に住み着いた。


しかし二ヶ月が経過しても、自分の身の上を語ったあの時以来、最初と同様ほとんど言葉を発せず、少し離れた椅子の上で膝を抱えて座りシドの作業をじっと眺めているだけだった。


その間を埋めるためか、シドは作業をしながら独り言のように一方的に語り続けた。


「爆弾ってのは職人的なアートなんだよ。

くそ地味な作業の積み重ねが最後に壮大な大爆発を起こす。

その大爆発も全てこっちがコントロールしてんだ。

どこにどう仕掛ければどのぐらいの規模で何を破壊して何を残せるかってな」


「首都環状線の電車は知ってるな?

あの輪の半径は五キロもねぇんだが、そんな狭い中にこの国の中枢がほとんど全部詰まってんだ。

要するに、その輪の内側を一瞬で吹っ飛ばせる爆弾を使われたらこの国は終わりだ」


「お前も経験してきた通り、世の中なんてのはくそみてぇなもんだろ。

だから俺は、お前らはくそなんだからいつぶっ壊されてもおかしくねぇんだって警告をしてやんだよ。

裏じゃ常にろくでもねぇ目に遭ってるやつがいるってのに、それにフタして平和で仲良く楽しい国みてぇに取り繕って見せてるやつらに、本当は何も平和なんかじゃねぇってことを示すんだ」


「ただ好き勝手に吹っ飛ばしてもアートじゃねぇ、美しくねぇな。

それこそただのテロリストだ。

アートってのは何らかの様式を持ってなきゃなんねぇ。

人の創造的な魂が定める美学だ」


「環状線の駅は全部で三十あって一周約三十五キロ。

最後はやっぱり乗降数世界一っつーこの駅でド派手にシメてぇんでな、その隣の駅から始めて、時計回りに一駅ずつ順に吹っ飛ばして、一周回ってここで仕上げだ。

ただ俺の導火線は普通の百倍以上の高速で火が走るようにしてあるんだが、それでも三十五キロを走り抜けるには九時間かかる。

技術的な問題もでけぇが、ま、猶予ってことにしてやる。

その九時間の間に俺のアートに対して何ができるか、それでこの国の器が知れるってもんだぜ。

どうせ何もできやしねぇだろうけどな」


「もう生きてるか死んでるかもわかんねぇが、人間クズの親父から得た唯一の収穫はこの火薬の扱いだけだったな。

アル中の花火職人くずれが、火薬のことしか頭にねぇとんだ暴力ジジイで……って、触んじゃねぇ!!

ぶっ殺すぞ!!

理科の実験じゃねぇっつってんだろうが!!」


アキラがなんとなく手を伸ばした工具を奪い取りシドが声を荒げた。


「……理科は得意だった」


ぼそりとつぶやくアキラに、


「じゃねぇっつってんだよ!!

追い出すぞボケが!!」


殴りたいのをこらえるように工具を机に叩き付け作業場を去って行くシドの背中を、アキラが無言で見送っていた。





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