第4話 再会

 森に入って数分した頃、またあの日のように森の中が豪雨に見舞われた。

 注意して、国の方へと視線を向ければ、やはりカンカン照りに


 つまり、この森の中でのみ、雨が降っているのだ。


(やはりこの森には何かがあるのだろうか)


 雪彦が森に入った頃、必ずと言っていいほどこの森は雨が降る。

 思えば小さい頃からそうであった。

 国で降っていようが降っていまいが関係ない。

 森に入れば雨が降るのだ。


 この森は、少し、可笑しい。


 雪彦はこの間、の女子、おようと出会った場所へ向かった。

 そこに行けば再び彼女と会えると思ったからだ。

 降りしきる雨の中、跳ねる泥のことなど気にも留めず、雪彦は、お葉を目指して走った。

 ふと足元に白く小さな花たちが、まるでこっちよ、と道標となって現れた。雪彦は迷うことなくその道標を進んでいく。

 少しして視界が開けた。雨も一瞬にして止んだ。

 目の前に、屋敷が建っていた。


 不意に雪彦は、お葉と出会った時のことを思い出した。

 その屋敷の地面一面に、彼女の足元にあった白く小さな花が、絨毯のように咲き乱れていた。

 白い花、と言うべきか? よく見れば花弁は透明だった。


「若君様……?」


 屋敷の廊下から声がした。

 侍女の姿をした、お葉であった。


「ああ、お葉どの。突然すまない」

「いえ。如何いかがされたのです? こんな奥地まで」

「お葉どのと出会った場所に行きたかったのだが、道に迷ってしまって。白い花を道標に進んでいたらここに」

「……そう、でございましたか」


 お葉は何やら変な表情をして、思考を巡らせていた。


「お葉どの?」

「……いえ、こちらの思い違いでしょう。それよりも、ずっとその恰好かっこうをしていては風邪をひいてしまいます。屋敷にお上がりください」

「……では、お言葉に甘えるとしよう。かたじけない」


 雪彦は、お葉の言い方に少しだけ違和感を感じたが、今は彼女の言葉に甘え、屋敷へと招かれた。

 屋敷は、酷く閑散としていた。人のが無いのである。

 立派な屋敷であることと自らを侍女と名乗ってはいたが、お葉という人物が何者なのか、見定める必要があると雪彦は思った。

 彼女がもし、国を脅かす、の類であれば、雪彦は国のためにお葉を討たなければならない。

 それは、嫌だな。雪彦は素直に思った。


「……お葉どの、ひとつ聞いてもよろしいか?」

「ええ。なんでございましょう」


「そなたは、か?」


 お葉の動きが止まった。瞬間、雨が降り始めた。

 お葉は少し考えたのち、雪彦の目を見た。

 目は潤んでいた。それはきっと、かなしい、という意味なのだろう。


「……


 それが答えであった。

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