4‐8 サベリアス襲撃作戦《エアトベーベン》
「はぁ! はぁ!!」
アラヤが、激しく息を切らしている。鼻からの流血に加え、左眼からも血涙を流しており、髪色も若干だが白い部分が増えていた。
そして、顔中に流れる血を腕で荒くぬぐいながらシリウスへと話しかける。
「……さっさと格納庫へと向かうぞ」
「君、大丈夫かい?」
「ギリギリかな……。正直、もう能力を使える気はしない。体もボロボロだ。格納庫にある兵器に頼るのみだな……」
「餓者髑髏は……、まぁ破壊できてないよね」
「だろうな……、ただ下に落としただけで、問題を先延ばしにしただけ。俺達が脱出するには今のアイツのいる場所を通らないと無理だ」
もしくは破壊するしかない、とアラヤは言った。
穴から見える餓者髑髏は、怒り狂ったように鎌を振り回している。
「ならさっさと格納庫に行くしかないね。多分、現状を打破するものがきっとある筈さ。――道案内は任せたよ」
「ああ」
アラヤがソラリスを抱え、三人は踵を返して歩いて行く。穴からは、餓者髑髏が暴れる破壊音が響いてきた。
格納庫の中に入ると、アラヤは沈み込むように床に座り込む。シリウスは、座り込んだアラヤとソラリスを横目に格納庫を歩いていた。
「きつそうだね」
「少しな……。悪いけど、このまま少し休ませてもらう」
床に座り込み、瞳を閉じるアラヤ。深い深呼吸をして呼吸を整えていく。
それからほどなくして、ソラリスも目を覚ました。
「起きたか」
「ここ、は……?」
「サベリアスの格納庫。今は休息兼、餓者髑髏を破壊する武器を探している」
「餓者髑髏?」
「キミがボロボロにやられたあの兵器さ。とんでもなく硬くて、とんでもなく強い」
格納庫内を散策しながら、シリウスが言った。
「コイツは……、そうかシリウス・フラメルか」
「そうだよ。――あ、そういえばキミも女の子も名前聞いてなかったね! 何て言うの!?」
「アラヤ」
「ソラリスだ」
サッと告げられた名前。それに対して繰り返し呟くシリウス。
「アラヤ、ソラリス……。じゃあアラやんとソラりんだ! よろしく!」
「おいちょっと待て。何だその変な呼び方は」
「俺も止めて欲しいな。気が抜ける」
少し休み回復したところでソラリスがツッコミを入れた。アラヤも顔を引き攣らせている。
「いいじゃん。仲間になるんだし。堅苦しいのは無しにしようよ。それに、ソラリスとシリウスって似てるでしょ」
「なんなんだコイツは!?
流石享楽主義者。死ぬかもしれない状況で、軽い雰囲気を出すシリウスにアラヤは呆れていた。アラヤ達の目には、目の前の人物が本当に虐殺事件を起こしたのか疑問に思えた。
そんな時だ。シリウスの視界にとある物体が映った。
「アラやん、ソラりん」
「呼ぶのか」
「……何だ」
「見つけたよ。現状を打破する、会心の一撃を」
シリウスの目の前には、布を被せられ、跪いているホプリテスがあった。布を取ると、そこにはあのオルトロス型が一騎。
厳かに佇まい、銀色の輝きはどこか神々しさを感じさせた。
そんな圧倒されるような威圧感に若干慄きながら、アラヤがシリウスに尋ねる。
「おい……。これは、動くのか?」
「見る限りでいったらギリ動くね。未完成なのか幾つか足りない部分はあるみたいだけど」
シリウスの言う通り、目の前のホプリテスには足りないものが多かった。
銃火器は言うに及ばず、左腕・右眼が無かった。背中からはコードが伸び、プログラムを打ち込んでいる途中の様だった。
「本当に、コレでアイツを何とか出来るのか?」
「僕を誰だと思ってるの。これでも一応、元帝国軍のエースだよ」
そう言ったシリウスの目は、冷酷さを帯びた目つきとなり先程の軽い雰囲気は完全に消え去っていた。
氷を思わせるシリウスの雰囲気に、アラヤとソラリスは言葉を放てない。
「けど、この武装じゃ良くて五分。だから確実に殺る為に、アラやんとソラりんにも手伝ってもらうよ。どうせソラりんもアラやんと似た能力持っているだろうしね。トドメは任せるよ」
「了解」
シリウスの言葉に、力強い返事を返すアラヤとソラリス。頭は重く、身体も内部からズキズキ言っている。しかし、それらを全て無視した。
シリウスがオルトロス型に乗り込み、二人は隙間に収まった。そしてシリウスはホプリテスを起動させ降りてきたキーボードを高速で弄り始めた。
「ホプリテス・オルトロス型。騎体名称――エアトベーベン。欠損部位――左腕鋼殻振動爪【クチラ】、ライトアイ、流体化変兵器。使用可能武器――右腕鋼殻振動爪――【バラモン】。ホバリングシステム、スラスター、クリア。活動可能時間、四半刻と三瞬」
シリウスが、キーボードを走らせ騎体情報を読み取っていく。そして、最後のプログラムを組み上げてキーボードを収納し騎体を起動させた。
「どうだ?」
「流体化変システムが使えないのは痛いけど、変わりに【超振動システム】を構築した。硬度自体は餓者髑髏と変わりないんだ。振動を以て切り裂く。――エアトベーベン、起動」
エアトベーベンが立ち上がる。右手は五爪から出来ており、全ての指が鋭く尖り細かく振動して甲高い音を鳴らしていた。
搭乗席内は、全方位三百六十度全てが視えるようになっている。操縦桿は横向きになっており、五指全てにスイッチの様なものがある。それを断続的に押す事で、細かい駆動が可能となっていた。
「じゃあ行くよ」
「頼む」
シリウスが足元のアクセルを踏んで走りだす。
地上を滑空するかのように、移動しスラスターで素早く移動する。左腕が欠損している状態を感じさせない動きで、見事にバランスを取っていた。
三者三様に準備と覚悟が完了。餓者髑髏が落ちた穴へと降りていく。
最終決戦の始まりだ。
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