4‐9 サベリアス襲撃作戦《最終決戦》

 四階層の監獄所内は、無残な姿となり餓者髑髏はアラヤ達が来るのを待ち構えていた。それを見てソラリスが声を上げる


「――来たぞ!」

「分かってる!」


 餓者髑髏が左鎌を振り上げながら、エアトベーベンへと向かってきた。

 シリウスが、足元にある二つのアクセルを細かく連続で踏む。それに合わせて右に動き、鎌を紙一重ながらも余裕を持って回避した。

 回避した真横には、空振りした餓者髑髏がいる。その隙を狙い、右腕の婆羅門の五爪の人差し指部分が細かく振動し、左鎌を切り飛ばした。


「効いてる!」


 左腕を切り飛ばされた餓者髑髏は、体勢を崩して右へと傾く。追い打ちをかけるように、シリウスは騎体を前進させた。その瞬間、餓者髑髏の腕が可変。鋭く尖った槍が撃ちだされた。

 寸の所でそれを回避するも搭乗部の前外殻が削り取られ、アラヤ達は外界の空気に晒される。


「――!?」

「無事か!?」

「問題ないよ!」


 餓者髑髏が挑発するように六本の脚を細かく動かす。六本全てが武器となると、残った鎌も合わせて七本。化変を合わせると、倍の本数になる。逆にエアトベーベンの武装はバラモンのみだった。

 躊躇っているエアトベーベンを待たずに、餓者髑髏が脚を高速駆動させ一気に近づいてくる。

 右の鎌。前脚。断続的に来る嵐の様な攻撃を、シリウスは操縦桿とアクセルを細かく動かして回避していく。

 攻撃に転じる暇もなく、じりじりと追い詰められていた。


「どうする――!?」

「どうするも何も……。こうするしかないでしょ」


 先程と同じように迫りくる脚槍をかがんで躱す。エアトベーベンの頭上を槍が通り、体を反転させて爪を切り上げた。脚槍が切り落とされると同時に、シリウスはその場から一瞬で移動する。

 左鎌と左前脚一本。餓者髑髏の欠損部位だった。

 同じようなやり方で、次々と餓者髑髏の脚を切り飛ばしていく。シリウスは騎体の補助もないまま、その身の動体視力のみで全ての攻撃を回避していった。


「(凄いな……)」


 【輝く者ホープネス】でないはずなのに、それと類する力を見せるシリウス。アラヤとソラリスが内心驚きながらシリウスを見ると、シリウスの眦は鋭くなっていた。

 アラヤの眼前には、ボロボロになり右鎌も無くした餓者髑髏が立っている。

 すると、突然シリウスがアラヤ達に向かって話しかけた。


「アラやん、ソラりん、行けるかい? やっぱこの騎体だけじゃ無理がある」


 アラヤが騎体を見るとエアトベーベンは、シリウスの無茶な駆動に耐え切れず所々スパークを起こしていた。いつ壊れてもおかしくない状態である。

 それを見て、覚悟を決めた笑みを浮かべて二人はシリウスに返事した。


「何ら問題ねぇよ」

「トドメっていう大役を貰ったんだ。成し遂げてやるさ」

「良いね最高ッ! それじゃあ始めようか、ラストアタック!」


 そう言った瞬間、アラヤとソラリスが飛び出す。それを見て餓者髑髏は残った脚で、地面を砕くほど踏み込み一気に間合いを詰める。

 ――が、それよりも速くエアトベーベンが踏み込んだ。

 鎌が化変し、槍となってエアトベーベンの左胸を貫通した。しかし、それでもエアトベーベンが停止するまでには至らない。


「さぁ僕らの勝ちだ!」


 槍は根元まで埋まり、シリウスの目と鼻の先に餓者髑髏はいる。シリウスは操縦桿を操作し餓者髑髏の腕を掴んで腕を切り取る。そしてシリウスが右のグリップ部分のスイッチを連続で押し、操縦桿を縦に立てると、そのままレバーのように操縦桿を手前に引き、親指部分のボタンを押し込んだ。

 シリウスの操作と同時に、エアトベーベンの五爪が全て振動駆動して放たれ餓者髑髏の脚を根こそぎ奪っていった。

 地に臥せる餓者髑髏。それに向かって顔面から血を流すソラリスが、身体より遥かに大きい炎球を放った。


「【炎天フランメ!】」


 餓者髑髏が燃え盛る炎の中で悶え苦しむように力なく動く。そして能力制御を失い、炎が霧散した瞬間、アラヤが飛び乗り両手を餓者髑髏に付けた。


「(アストラダイトと親和性が高い装甲に、動力源は高濃度アストラダイト。なら物質に直接作用を促せる俺の力はより相性が良いはず! ――全てを掌握しろ!)」

 ――ぶっ潰れろ


「【崩壊アンファ!!】」


 その瞬間、波動が餓者髑髏を包み込みカスケードを起こして亀裂が入っていく。アラヤの念動が餓者髑髏の物体どころか物質そのものを動かし、結合している分子達すら動かしていく。

 そしてアラヤが餓者髑髏の体躯を握りしめた瞬間、餓者髑髏は塵となって消滅した。



 静かになった監獄空間。ソラリスはフラフラとして顔面を拭い、気絶したアラヤを抱きとめている。

 すると、騎体の右側から何かが弾ける音が断続的に響き渡った。


「――――!?」

 音に気づいたシリウスが、慌ててエアトベーベンの右腕をパージする。その瞬間、バラモンが音を立てて爆発した。超至近距離の爆風により、騎体が激しく揺れる。

 思わず、ソラリスが近寄ってくる。


「何が起こった!?」

「右腕が爆発したんだ。急ごしらえで組んだプログラムだったから熱処理が追い付かなかったみたいだ。ま、この騎体も限界みたいだしね」


 搭乗部は半壊し、胴体や脚などもボロボロに削り取られている。スパークも先程より大きくなり、いつ爆発してもおかしくない状態だった。

 実際、シリウスが降りた瞬間、役目を終えたようにエアトベーベンが爆散した。


「お疲れ様。ありがとね」


 その時、ソラリスの通信が開いた。


『ソラリス! 無事か!?』

「あぁハミール。無事だよ。気絶してるけどアラヤもな。シリウスも五体満足だ。今から脱出する」

『了解。サベリアスの爆破条件もクリアしている。すぐに爆破させるから急いで裏へ回れよ。ルートは送信する』

「分かった」


 そこで通信は切れ、逃走ルートが送られてきてホログラムを展開する。


「そういう事だ。急ぐぞ」

「全く、こちとら運動不足の元囚人だってのに。働かせる仲間だこと」


 溜息を吐くシリウスに、思わず笑ってしまったソラリス。気絶したアラヤもどこか穏やかな笑みを浮かべていた。


「入隊即任務ご苦労様。そしてようこそ、レジサイドへ」

「エキサイティングな任務をどうもありがとう——」


 そうしてサベリアスから三人は離脱。船に収容されると、その背からは大きな爆発音が断続的に聞こえていた。

 暗闇の中に光る大きな炎。

 島の全てが炎に包まれ、自然と人工が合わさった監獄所は完全に沈黙することとなった。

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