4‐7 サベリアス襲撃作戦《餓者髑髏》
思いがけない音に二人が振り向くと、二人の間を何かが横切った。慌ててそれを見ると、そこには血塗られたソラリスの姿があった。
「ソラリス!!」
慌ててアラヤが駆け寄る。ソラリスは血を吐きながらフラフラと立ち上がり、アラヤの後方を睨みつけていた。
「お前、なんでここに……!? ここ、監視塔の最上階だぞ!? ソラリスは地下に行ったんじゃ……!」
「そこに行く前にアイツに邪魔されたんだよ……! クソっ、何もかもお構いなしにぶち抜きやがって……! あんなのあるなんて聞いてないぞ……!」
「アイツ……?」
アラヤがソラリスの視線の先を見据える。破壊による煙が立ち込めているが、その奥にいるナニカがそれを吹き飛ばした。
そこには、巨大な物体が壁を壊して佇んでいた。全長四メドル程の巨大な物体。甲殻類を模したような凹凸のある体躯を上半身が成し、下半身は節足動物の様に足が六本生えている。胴体から頭までは昆虫の様で、両腕が人間の手の様になっていた。鈍色に輝く胸の部分には中身を守るようにぶ厚い装甲で出来ている。多種多様な生物を無理矢理掛け合わせたかの様な風貌だった。
シリウスが、その姿を見て苦々しく呟いた。
「――最悪……
「なんだそれは!?」
「……正式名称は【独立型殲滅鋼殻兵器】――個体名称、『餓者髑髏』だ。全身に高濃度アストラダイトを搭載し、アストラダイトの思念を人間の殺意に定めることで敵を認識したら対象を殺すまであらゆる手段を取ってくる。起動したが最後、目標を殲滅するまで動き続ける虐殺兵器さ」
「アストラダイトの思念だと!?」
「そう。かねてより、アストラダイトには意志があることが仮説としてあるんだ。なにせこの世界の『外』から来たものだからね。何があってもおかしくない。それこそその未知のエネルギーを使えば、人類を進化させることだって可能だろうね」
シリウスのその言葉を聞いて思い起こされたのは、能力を得たきっかけとなったあの光。確かにあの光はアラヤに呼びかけていた。だとすると、アストラダイトに意志があることは明白。
なによりアラヤ自身が、アストラダイトによる人類の進化先の一人だ。
「まぁ、まだ開発初期の段階で融通が利かないし、広いところじゃ物量でやられるから、意味はないって計画が頓挫したんだけどね。まさか開発してるとは思わなかった」
「……やけに詳しいな」
「まあ、そりゃそうさ。だってアレ、昔に僕が開発したモノだからね」
「なにっ――!?」
「厳密には設計図だけなんだけどね。僕が捕まる前に、最後に残した設計図を誰かが作ったみたいだ」
「性能は……?」
「クリュサオルなら軽く壊滅出来る。オルトロス型で互角かな。装甲は同じだし。ただ、アレにはそれぞれある特殊武装が備え付けられてあるんだよね——」
と、アラヤが疑問を唱える前に答えがやって来た。
三人の下に巨大な『鎌』が風を切り裂き、振り下ろされるアラヤ達に迫りくる。その死の切っ先をギリギリの所で、アラヤがシリウスと動けないソラリスも抱えて扉の向こうへと飛びずさった。
「……おい、鎌なんてなかったはずだが」
「あれが特殊武装『流体化変合金』。アストラダイトの意志を汲み取り、あらかじめ設定された形状に自由に変化が可能なんだ」
「厄介すぎるだろ——って、シリウス、ソラリスを頼んだぞ!」
「えっ僕!?」
「ちょっと待てアラヤ! お前ひとりじゃ……!」
アラヤが怪我をしたソラリスをシリウスに任せると同時に、餓者髑髏が向かってくる。
それに抵抗すべくアラヤは崩れた鉄格子や檻、瓦礫を生み出し放つが、ヤツにとっては礫も同然。全てを切り裂きながら迫ってきた。
まるで暴風の如き絶え間ない暴威。当たりそうになる度に、アラヤは能力を使って弾いていく。しかし、弾くことで精一杯で攻撃に移ることが出来ないでいた。
その時、ハミールから通信が開かれる。
『アラヤ――! 大丈夫か!』
「悪い、ハミール……! 今ちょっと話してる余裕ない……!」
『状況はこっちでも確認してる! 援軍を送りたいところだが、他の部隊も凶暴化した監視兵に足を取られてるからちょっと厳しい!』
「いい……! こっちは何とかす――――グッ!!」
『アラヤ!!!』
そう言った瞬間、餓者髑髏の攻撃が変化。大回りしていた鎌が人間の手となり、直線軌道で拳を突き出したのだ。突如リズムが変わった攻撃にアラヤは対応できず直撃。廊下まで吹き飛ばされた。
「カハッ……! くそ……!」
血を地面に吐き出し、呼吸を整えようとするもその隙を与えない。対象を完全にアラヤへと定めた餓者髑髏が再び両手を鎌へと変え、襲ってきた。
アラヤは、両手を左右に伸ばし能力を行使してギリギリの所で受け止める。念動力と鎌の威力に苦悶の表情を浮かべるアラヤの鼻からは血が出ていた。
能力を使いすぎたのだ。
餓者髑髏が力を籠めると、アラヤの肘が曲がり鎌は顔のすぐ傍まで来ていた。
「――――!! シリウス! こいつはどうしたら破壊できる!!」
アラヤが叫びながら、シリウスに声をかける。
「現状、そいつをどうにか出来る武器はここにはないよ。君も限界みたいだし、ジリ貧だろう」
「ここにはってことは、他の場所ならあるんだな!」
「恐らく、格納庫には何かしらあるはずだ。ここには本土じゃ扱いきれないモノが一旦格納庫に置かれるみたいだからね」
「じゃあ、そこに向かうぞ――!」
「けど、場所が分からない。闇雲に行っても、体力の無駄だし一瞬で追い付かれてあの世逝きだ」
「――そいつは、安心しろ。俺達には、優秀なオペレーターが付いてるからな! エミール!」
『今いる階層を出て、真っすぐ行って左! 五階層から四階層に降りる手前の左に隠された大きな空間がある! そこが格納庫だ!』
「了ー解ッ!!」
アラヤが腕を思いっきり振り上げ、鎌を上へと弾き飛ばす。
「オラァッッ!!!!」
そして、振り上げた両腕を交叉させて左手の甲を右手で包み、そのまま振り下ろして能力を全力行使。
膨大な念動波と空気の塊が餓者髑髏を圧し潰す。当然、硬い装甲はそれでもビクともしないが、既に壊れかけている地面は別。
餓者髑髏自身が開けた穴の亀裂は強大な圧力に耐えきれず、餓者髑髏の足元を崩壊。
餓者髑髏は、突如現れた浮遊感に抗う事も出来ずにもがきながら、穴を伝って元居た場所へと落ちていった。
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