4-6 サベリアス襲撃作戦《第二目標確保》
どうやら鍵は三階層の扉のみの様で、四階層では扉に鍵がかけられていなかった。中に入ると、三階層と同じ空間となっており再び同じ方法で監視塔を潰していた。
そうして瞬く間に到着した――五階層、扉前。
ここに来るまでに、かなりの時間を費やしている。早くしなければ隊員たちに大きな被害が出るかもしれない。
そういった焦りを孕んだ思いを持ち、アラヤは扉に手をかけた。
中に入ると、今までと同じ円形状の空間が現れる。唯一違うと見て取れるのは、何故か檻がないということ。収容されている囚人もおらず、人の影は見当たらない。
「ここにシリウスがいるんだよな……?」
そう疑問を抱きながら中へと入っていき、まず監視塔を潰してからシリウスを探すことに。
とはいえ檻がない以上、ここに武器の代わりになるモノはない。
とりあえず、これまでと同じく監視塔の死角に移ってから考えるか――と跳んだその時だった。
監視塔からではなく、四方八方の壁から弾丸が放たれた。
「――なっ!!」
弾丸を避けようとするも、周りから撃たれているので逃げ場がない。
咄嗟に能力を発動させ、空気を自分の周りに固めて弾丸を弾いていく。自分の目と鼻の先に弾丸を受けながら、アラヤは入って来た扉へと跳び戻った。
「……おいおい、嘘だろ」
冷や汗が一筋、アラヤの頬を撫でる。
これまでとは違い、監視塔ではなく壁に埋め込まれた無数の銃口。数えることもおっくうになるその銃口の数は、囚人に対する殺意の高さの表れだろう。
それが作動しているということはつまり、それだけの重犯罪者がいるということ。現状、帝国がここまでの殺意を抱くとしたらそれはもう一人しかいない。
この場所にシリウスがいる。そう確信すると、部屋の上部からこの場に似つかわしくない明るく楽観的な声が聞こえてきた。
「――どこぞの誰かー生きてるー?」
「シリウスか!?」
「おー生きてた。アレを躱せるなんて凄いね。キミ、何者だい?」
アラヤが声の発生源を確認すると、天井を貫く監視塔の中心に一つだけ透明なガラスの壁で覆われているのが見えた。
どうやら監視塔の一部をそのまま獄中にしているのだろう。シリウスと思われるたった一人の囚人がそこに囚われており、彼はベッドで仰向けのままアラヤに話しかけていた。
銃口を突きつけられ、いつ死んでもおかしくない状況の中でも自然体。並の精神ではないことがすぐに分かった。
「俺はアラヤ。帝国と戦う組織の一員だ。一つ聞きたい! お前が、シリウス=フラメルで合っているか?」
「合ってるよー」
「そこから出してやれると言ったらどうする?」
銃口が二人を狙う中、静かに放たれたアラヤの言葉に沈黙するシリウス。そして答えた。
「そりゃ当然、出せるモノなら出してほしいよ。何もないここは、退屈で死にそうなほどにつまらないからね。それが帝国の処刑法なら僕の殺し方をよく分かってるよ」
「なら出してやる。ただし、出した後は俺と一緒に付いてきてもらうがいいか?」
「ふぅん……。いいね、面白そうだ。いいよ、じゃあ、早く僕をここから出してくれ」
「交渉成立だ」
シリウスは少しアラヤの言葉を疑いながらも、口の端を歪め回答する。声色は勿論、喜色。享楽的な性格をしていることがすぐに理解出来た。
そうしてアラヤは全体を見渡し、扉から一気にシリウスのいる所まで跳び移った。
銃口はアラヤの姿を捉えられず、弾丸がアラヤの跡を削っていく。
「ハァッ!!」
能力を使いながら、右ストレートによる渾身の一撃でガラス壁を粉砕。
パラパラと破片がシリウスの身体に落ち、その隣をアラヤが着地する。
次いで、全ての壁を吹き飛ばした。
二人を守るモノは何もない。
「何を――――!?」
シリウスが驚くのも一瞬。二人に向かって一斉に処刑の雨が降り注ぐ。
それをアラヤは右腕を体ごと振りながら一回転させる。
すると、迫っていた弾丸が全て二人の前で停止した。
「うっそっ! 何、それ!?」
思わず状態を起こしてシリウスが目を輝かせながらアラヤを見た。
今はそれに構わず、アラヤは手を捻り弾丸を反転させる。そのまま手を払い、止まっていた弾丸を撃ちだした。反転した弾丸は、撃ち出された速度よりも早く壁の銃口向かって走り、全ての銃を撃ち抜いた。
同時に爆発音が轟き、壁が一気に炎に包まれる。
「はぁ……! これで全部だな……!」
「キミ、その力凄いね! どういう原理!?」
「詳しくは俺も知らん。とりあえず、これで約束は守った。一緒に来てもらうぞ」
力を使いすぎたのか脳が焼き切れそうな熱さを感じながら、アラヤはシリウスに手を差し出して立ち上がらせる。
何をされたか一つしかないやせ細ったガサガサの手からは熱を感じさせた。
シリウスを引き上げ、肩を組んで檻から脱出。
煤けた地に降り立つと、背筋を伸ばしたシリウスが翡翠色の瞳をアラヤに向けながら口を開く。
「ついて行くのはいいんだけどさぁ、僕を連れていってどうするの?」
「お前を俺たちの仲間にする為にだ。俺の仲間がお前を確保するために今戦っている」
「僕を? そういえばさっき、組織だなんだ言ってたね」
「そう。今、俺たちは戦力を求めていてな。俺はお前を確保するためにここにやってきたってわけだ」
「それはまたご苦労さん。でも、なんでまた僕? 自分でいうのも何だけど、僕は元貴族だよ? ちょっと変わったところがあるみたいだけど、君は【傷持ち】だろ? 話から察するに、君の仲間も君と同じ存在みたいだけど。君達にとって敵である僕を仲間にして何の得があるの?」
「お前が帝国軍に対して反旗を翻した事は知っている。その時起こした事件で、俺達のリーダーがお前に目を付けた。それを俺達も聞いて、お前の能力はこれからの俺達に必要だと思ったんだ」
「君達のこれから? たかがレジスタンス如きが何をするって言うの? ごめんだけど、テロとかは僕――」
「帝国を破壊する」
間髪入れずに、アラヤは即答する。
その言葉は予想外だったのだろう。小さなレジスタンスが世界のトップに戦争を仕掛けると言っているのだからそれも無理はない。
けれど、揶揄っていないことはアラヤの鋭い瞳から伝わっている。それをシリウスは理解すると、花のように満面の笑みを浮かべた。
「へぇ! なんでまた!?」
「俺たちは戦争のない世界を望んでいるんだ。今の世界、戦争終結は帝国が世界征服するしかない状態。けど、その先に待っているのも帝国による差別と汚辱の連鎖だ。それでも、帝国そのものが無くなれば盤上そのものがひっくり返る。いい加減、こんな腐った世界は完全に壊れるべきなんだよ」
「――あははははははははははははは!!」
シリウスの笑い声が響き渡る。
アラヤの目は、真剣そのものでシリウスの笑い声にも不快感を抱かなかった。
笑いが止み、シリウスも真剣な顔をしてアラヤの顔を見る。
「いいねいいね君。いや、君達か……! すっごく面白い! こんなガラクタの身体でもいいっていうなら、いいよ仲間になってあげる。正直、戦争のないって願望には興味ないけど、帝国と戦うっていう君達と一緒にいた方が楽しめそうだ」
シリウスが口元を愉悦に歪ませそう言った。
「……これがルーナの言っていた根拠か。かなり享楽的な性格をしているみたいだが、仲間になってくれるならありがたい」
アラヤはシリウスに聞こえない音量で、納得の言葉を漏らす。
そして、二人が進もうとした瞬間にハミールの声が届いた。
『アラヤ、無事か!?』
「ハミールか!! 良かった、通信出来たのか!」
『お前が派手に監視塔を痛めつけてくれたから、その綻びから侵入できたんだよ。――それで、そっちの進捗は』
「シリウスの確保に成功したところだ。今からそっちに撤退行動に入るつもりだったけど、ソラリスは?」
『そいつは重畳。だが、ソラリスからの連絡がずっと途絶えている。完了報告も無いし、途絶えたポイントを送付するからアラヤは合流してくれ。嫌な予感がする』
「分かった」
そう言って通信が切れる。
それを見計らってシリウスがアラヤに近づいて話しかけた。
「通信は終わったかい?」
「ああ、今から俺たちの最終目標地点に向かった仲間と合流する。ずっと檻の中で体は弱ってるだろうけど、急いでもらうぞ」
「別に構わないよ。それじゃあ行こうか――」
と、二人が歩みを始めたその時。
この収監所全体を揺らすほどの衝撃と地響きが二人を襲った。
「なんだこの揺れは!?」
「あわわっ!」
尻餅をつく揺れるシリウスを横目に、アラヤは地に手を添えて体勢を維持。手のひらから伝わってくる振動は次第に増していく。
そして次の瞬間だった。
「——ッ!? 離れるぞ!!」
「へ?」
能力を発動させたアラヤがシリウスを抱えて大きく跳び去ると同時。
巨大な白銀の槌が底を貫き、床を粉砕した。
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