4-5 サベリアス襲撃作戦《収監所》

 ソラリスと別れ、アラヤは耳に付けている無線機を二回叩いた。

 無線機が起動し、ハミールの甲高い声が耳朶を打った。


『報告は受けてる。よくやった、アラヤ! ココからのシリウスの案内は任せろ!』

「頼む」


 アラヤが走りながら腕のデバイスを操作し、サベリアスの詳細データをハミールに送る。

 ハミールは受け取った全体図を解析し、シリウスの居場所を探り始めた。その時間は僅かに三秒。

 瞬く間に居場所を見つけたハミールがアラヤに話しかけた。


『アラヤ! シリウスは予想通り一番上の五階にいる!』

「……五階か。一番早く行けるルートはあるか?」

『ちょっと待て。―――あった! だが、五階まで行くには各階層の監獄を通らないと行けない様になってるな。確実に監視の目は多いだろう』

「問題ない。監獄までの最短ルートを案内してくれ」

『あいよ! ――っとと、アラヤ! 早速お出ましだ。前方に敵兵あり!』


 アラヤが足を止める。目の前には、先程倒した監視兵と同じタイプが横一列になって三体立っていた。

 アラヤは、能力を開放しながら、監視兵に一気に近づいていく。それを見た監視兵が、一斉に銃弾を放つもアラヤの念動力の壁に弾かれていった。

 アラヤから見て、一番右にいる敵に近づいた。間合いまで入ると、右脚で監視兵の胴体を思いっきり蹴った。直撃した監視兵は、奥へと転がりながら吹き飛んでいく。

 続いて、真ん中の監視兵が蹴ったままのアラヤに左腕で薙ぎ払う。それをアラヤは、右脚を着地させたと同時に体勢を一気に下げて、薙ぎ払いを回避した。そして、そのまま回転し左脚の踵で監視兵を吹き飛ばした。

 体を起こしたアラヤに残った監視兵が銃口を構えるも、それより早く右手を突き出し、念動力を思いっきりぶつけた。壁に罅が入る程の威力で、監視兵は押し潰された。

 三体の動きが完全に停止した事を確認すると、アラヤは蒼く輝く瞳を元の色に戻した。


『お見事! だいぶ使いこなしてきたな!』

「あれだけ使ってたら、下手でも慣れてくるさ。――それよりも、道はこの先でいいのか?」

『ああ。その先を行ったら、曲がり角が出てくるからそこを左に曲がれ!』

「了解!」


 瞳を蒼くさせて走りだす。

 左の曲がり角を曲がると、再び監視兵が一体現れ、弾丸を放った。

 迫りくる弾丸に、体勢を低くし一気に加速する事で躱していく。そして、その勢いのまま一気に跳び上がり、逆さまのまま能力を使って押し潰した。

 反転し、一瞥もなく再び走りだす。


『そこを左!』 


 ハミールの案内通りに足を進めていく。

 幾度か戦闘をこなし、最後の直線に出ると大きな扉が見えてきた。


『そこだ。とりあえず、三階の監獄所。中に入ったら階段があるからそれを使って上がれ!』

「分かった。ただ、それよりもまずコイツ等を何とかしないとな」


 扉の前には、今までとは違うタイプの監視兵が二体そびえ立っていた。

 姿は、ほぼ変わらないが全体的に鋭さを感じさせるモノだった。顔にも、二つの鋭い光点が灯っている。一体の腕は、手首までは腕だが手の代わりに刀の様な物で出来ていた。もう一体は、腕が銃口で出来ており右腕が大口径、左腕がアサルトライフルの様だった。


「どう見ても、今までのとは違うよな……。戦場でも見たことないぞ」

『ってことはまた新兵器だな。それが規格品か試作品かは分からねぇが、とりあえず戦闘に特化されているタイプってのは間違いなさそうだ。脱走した囚人の処刑用か?』

「次から次へと……。退屈しないな全く……!!」


 アラヤが飛び出す。

 しかし、それよりも早く剣の腕をした監視兵――仮称『ソード』――が襲い掛かった。ソードが、右腕を頭から振り下ろしてくる。それを強化されている動体視力で捉えながら、両手で白刃取りをして受け止めた。その瞬間、左腕の刃で袈裟斬りを放ってくる。それを見て、手を離し、バク転をしながら右の手首を左脚で蹴り上げた。そのまま、何度か後方回転を繰り返しながらソードの後ろからくる銃弾を躱していた。

 胴体の服は、少し切り裂かれていた。


「……厄介だな」


 接近戦のソードと遠距離の――仮称『ガンナー』。

 どちらかを相手すると、片方が襲い掛かってくる。今迄戦ってきた中で、連携してくる相手はいなかったため苦戦を強いられる。


「だがまあ、対処できない訳ではないな」


 再び、アラヤが飛び出した。

 ソードも飛び出してくるも、目の前に来る前に能力で吹き飛ばす。その直線上にいたガンナーもまとめて吹き飛ばされた。倒れた二体を、念力の出力を全開にして一気に地面に押し潰す。

 衝撃で地面は陥没し、押しつぶされた二体の監視兵はぐしゃぐしゃになって機能を停止させた。


「ふう……。終わってみれば余裕だったな」

『まぁホプリテス相手でも圧倒出来る力があるからなお前らには。大抵のモノには勝てるだろうよ』

「それもそうか。ハミール、扉の解除を任せた」


 扉の前まで行き、コードを腕輪に繋ぐ。データをハミールとリンクさせ、扉の鍵のハッキングを行った。

 扉が自動で開き、中に入る。


「――うっ……!」

 中に入ると、むせ返りそうになるほどの血の匂いが充満していた。

 だだっ広い円形状の空間を見渡すと、どの檻の中からも夥しい血液が流れだしていた。

 流れた血は拭き取られることなく、水たまりの様に白い床を赤く照らしていた。


「お、おい! そこのお前、俺を助け――」


 アラヤの頭上から声が聞こえてきたと同時に弾丸が一発放たれ、男の頭蓋を貫いた。

 ドチャリと崩れ落ち、男の顔に自分の血と誰かの血が混ざりあう。

 撃たれた男の血が下にいるアラヤの顔に降り注ぎ、髪と頬を赤く染めていく。生暖かいその感触に、不快感を表すアラヤ。

 弾丸は、目の前にある柱――監視塔から放たれていたようだ。円柱の管制塔には無数の穴が開いており、そこから鈍色の銃口が覗いていた。

 管制塔から再び弾丸がアラヤに向かって放たれる。ギリギリの所で弾丸を躱し、柱の根元に飛び移った。足元には弾丸を撃てないのか、銃撃が止んでいる。


「全展望監視システムとはよく言ったものだな……」


 不審な動き、言動をすると、先程の男の様に即射殺されるというここの仕組み。釈放されるなんてことは一切無く、人権すらも存在していない。囚人が出来ることは衰弱死を待つことだけ。

 それゆえに、他の檻の中には先程の騒動にも微動だにしない人がほとんどだった。


「ハミール、階段はどこだ?」

『――。――――、―――――――!』

「ハミール……!?」


 アラヤの耳には、ノイズ交じりの音しか聞こえなかった。この空間では、無線が通用しないようだった。

 監視塔の自動小銃が切れていないことからも、管制室のシステムとは完全に別で動いているらしい。

 チッ、と舌打ちをしてアラヤは通信を切る。


「さて、どうするか……」


 扉は、アラヤが入って来た所に一つ。

 柱から円形状の空間を見渡すも、扉の様な物は無い。恐らく、目で見ても分からない様になっている様だ。

 近づくにしても、柱から動くと銃弾が飛んでくるため動くことが出来ない。檻にいる囚人に聞くにしても、同じ事が言える。

 アラヤが何かないかと周りを見渡した。


「あれを使うか」


 アラヤの目には、檻の鉄格子が映っていた。中にいる囚人達は既に息絶えている。

 目の前の鉄格子に手をかざし、能力を発動。

 鉄格子が、細かく振動し音を立てて外れると、手を後ろに振り、宙に浮かせている鉄格子を素早く移動させ頭上の監視塔に向けて撃ち出した。同じことを五回。

 超高速回転して監視塔に迫る五つの鉄格子は銃撃に晒されながらも監視塔に着弾。突き刺さり、轟音を響かせながら丸鋸の様に監視塔を削っていく。

 まもなく、監視塔は炎に包まれた。

 巨大な柱ゆえに崩壊までにまでは至らないが、この爆炎と衝撃で銃口は全滅。少なくとも監視システムは破壊できたはずだ。


「ふぅ……何とかなったな」


 ほっと一息。すると、アラヤが入って来た扉の反対側から新たな扉が現れる。奥には、階段の様な物が覗いていた。

 非常事態用の階段だろう。監視塔の一部を破壊したことで自動で開いた様だ。


「探す手間が省けた。遠慮なく通らせてもらうぞ」


 アラヤが監視塔の根元から出て、階段の方へと向かっていく。

 道中、檻に入れられている囚人が見えた。監視塔壊された事に呆然としながらも、動く気配がない。というより、動いていいか分からないみたいである。彼らにとって

物理的な檻がなかろうがこの空間そのものが、心理的な檻となっているようだ。

 前に進まない者に興味はない。

 そう言わんばかりに、アラヤはすぐさま視線を切り階段を昇って行った。

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