4-4 サベリアス襲撃作戦《強襲》
暗闇に紛れたボートが島に上陸し、アラヤ達は湿った地に足を付けた。そしてサイオンがハミールと通信を開始する。
「ハミール、無事に島に着いたぞ」
『よし、ではここでの作戦を再確認するぞ。――まずは、この監獄所に設置されている罠を解除。その役割は作戦通りアラヤとソラリスの二人に行ってもらう。管制室に行って占拠して罠を解除したら無線を入れろ。いいか? お前たちがしくじれば全てが終わりだ。ミスったら後で殺すぞ』
「物騒だなオイ。でもま、そこんとこはちゃんとアラヤもアタシも理解してるよ」
『なら構わん。サイオン達は二人が動いている間、別の場所にて待機。管制室を奪取次第、施設破壊に移れ」
「委細承知」
――では、作戦開始!とハミールが言う。
アラヤとソラリスはサイオン達と別れ、勢いよく飛び出して、施設の勝手口へと向かう。
特に障害もなくあっという間に到着。巨大でつなぎ目の一切ない白い壁の中、小さな扉を発見し扉の横に鍵の電子機器があるのを見つけた。
当然ながら鍵が掛けられている。それを見て、ソラリスは腰から手のひらサイズの白い物体を取り出した。
「本当にそんなちっぽけな奴でこの施設全体の電子系統を狂わせられるのか?」
「そこはまあ、うちの開発力の見せ所だな。というか、ハミールの力だけど。電子機器相手ならこれを使えば一発だ」
白い物体からコードを引っ張り出し、扉の電子機器に接続する。
強制的電子攪乱コンダクター――『チーター』と呼ばれるこの機械は、コードを指した所からウイルスを侵入させ、施設全体の電子機器を狂わせることが出来るハッキングツールである。
しかし、攪乱する電子機器が多い程効果時間は薄くなり、罠が多く仕掛けられている今回の監獄所の様な場所では十分程度しか持たない。
「よし。これでオッケーだ。進むぞ。時間がない」
「分かった」
二人が扉を開けて中へと入る。
チーターがきちんと作動しているようで、扉の鍵は外されていた。
中に入ると、真っ白な廊下が。天井には監視カメラや赤外線センサーなどあらゆる監視網が敷かれているが、チーターによってそれらは全て機能していない。
走りながら、アラヤが手首に付いてある腕輪を操作する。ホロウィンドウが展開され、サベリアスの現在地の地図が現れた。
現在地は楕円状になっていた。道は入り組んでおり、現在地から管制室に行くには幾つもの道を曲がらなければならなかった。
「この階層を見る限り、管制室はこの上にあるみたいだな。ここは廊下ばっかで部屋らしき部屋が一つもない。恐らく、この階層全体が廊下になっていてそっから上や下に繋がっている感じだ」
「どうやって上へ行く?」
「何本か曲がった先に管制室のマークが付いている。管制室に向かう専用の昇降機だろうけど、流石にそれを使ったら見つかるな……」
「だな。――じゃあ、強硬手段しかねぇな」
一本道を抜けると広い空間に出た。次の道は三本道に分かれており、マーカーの場所は一番左の道を示していた。
左の道を進み、いくつかの曲がり角を経由する。そして、二人は昇降機の少し手前の曲がり角で立ち止まった。角から顔を少し覗かせると目の前には、監視兵である二体の人型オートマタが立っていた。
二メートル程の大きさに、顔は丸っこく隆起が何もない。顔らしき真ん中に、赤く光る光点があり、そこが視界となっているようだ。それぞれ、手にはアサルトライフルを持っている。
それを見て、二人は口を開く。
「自立型監視兵だな……。どうする?」
「一瞬で潰す。チーターのおかげで電子機器は使えないんだ。見られたところで、連絡される心配はない」
「わかった。じゃあ俺が行く」
「は?」
「港ん時の借りだよ。ソラリスは本丸が待っているからな。怪我もしてるし、力を温存させて損はないだろ」
アラヤが、前に出ようとしたソラリスを手で制止させる。
ソラリスの体はまだ完全に回復しているとは言えず、まだ多少体は重かった。それが、自分でも分かっているのか、二体の監視兵をアラヤに任せる。
「あいよ。じゃあ、任せるわ」
笑みを浮かべてソラリスが言った後、一気に角から飛び出るアラヤ。
その姿に気づき、監視兵が弾丸を放つもそれを、ジグザグに躱し、時には両端にある壁に飛び移りながら、監視兵へと近づいていった。
アラヤの三次元的な動きに、監視兵は付いていく事が出来ていない。人間離れしたその動きに、規定されたプログラムが追いついていないのだ。所詮は、ただの監視兵である。性能自体はかなり低い様だった。
そして、アラヤは左の壁を蹴って天井に逆さまになる。天井に向けて弾丸を放つも、それよりも早く天井を蹴って近づいていく。すれ違いざまに弾丸が当たりそうになるも、アラヤは空気を眼前で固めていた為、弾は弾かれた。
そしてアラヤは、体を捻らせ監視兵の後ろに降り立つ。
後ろに立つと、監視兵が振り向くよりも早く二つの頭に手をかざし、一気に捻って監視兵を沈黙させた。
それを見てソラリスが角から出てくる。
「おつかれさん」
「こんなん疲れた内に入んないよ。意外と弱かったしな」
「ただの監視兵程度ならあんなもんだろ門番程度だからじゃないか? 囚人達を監視している奴らはもっと強いはずだ。じゃねぇともし囚人内にちょっと身体能力が高い奴がいたら抵抗されてもおかしくない」
「だろうな」
「それよりも、早く進むぞ」
そう言って、ソラリスは腰に付けてあるポーチから粘土の様な物を取り出した。
それを、昇降機の扉に身の丈程の円形状に張り付けていく。
「爆弾か?」
「ああ。ちょっと特別性だけどな」
ソラリスが爆弾を起爆させる。
ボンっ、と扉を少し強めに叩いたくらいの音が鳴ると扉が円形状に穴が開いた。
「えらく小さい音だな」
「こいつも、ハミールが開発したやつでな。壁抜け専用の爆弾なんだ。壁を壊すだけだからな。音をかなり小さくする事が出来る」
「ハミール便利すぎるだろ」
アラヤ達が、穴の中へと入り込み壁を蹴って跳び上がっていく。ホープレスならではの機動。
上の階の扉の前へと出た時、アラヤは能力を使おうとする。。
「この扉の先が、管制室のようだな。――俺が扉を開けるから、一気に炎を撃ちだせ」
「オーライっ!」
念動によって扉がねじ曲がりながら開いていく。
その瞬間、中にいる人達がそれを認知する間もなく、炎の波に飲み込まれた。
人が一瞬で燃え尽き、脂が空気に飛散してベタついた空気になった。
そしてアラヤが空気を操作し、酸素を消して炎を鎮火させた。
「これで人間は全ていなくなったぜ」
「後は施設の罠をコントロールするだけだが……。――これか」
アラヤの目の前には大きなモニターがあった。目線を下げるとコンソールとキーボードが大量にある。
「ソラリス、チーターを」
ソラリスが身の丈程ある自立型の端末にチーターを接続する。それにより、完全に施設内の罠が全て解除された。
今頃それを確認した、サイオン達が乗り込み始めているだろう。
「監視兵はどうだ?」
「あーアイツ等は無理っぽいな。スタンドアロンで動いているせいか、こっちの制御を受け付けねぇ。――とりあえず、連絡だな」
「わかった。俺がやっとく。ソラリスはここにあるコンピューターから、サベリアスの全体図を入手しといてくれ」
りょーかい、とソラリスが言い、コンソールを弄り始める。
その間にアラヤが無線機を起動させ、サイオンに連絡を取った。
「――サイオン。管制室を奪取した。施設内の罠は解除出来たが、監視兵はコントロール出来なかった。乗り込む時は注意してくれ」
『――こちらサイオン。了解した。監視兵如き問題ない。今から施設に入り、俺達が遊撃になってるからお前さんはシリウスを頼んだぞ』
「ああ。分かってる。じゃ、気を付けろよ」
『お前さん達もな』
通信が切れる。
それを見計らって、ソラリスがアラヤに近づいていった。
「終わったか?」
「ああ。そっちはどうだ? あったか?」
「これだろ? 簡単に見つかったぜ」
ソラリスが全体図のデータをアラヤに渡す。
全体図には、収容されている囚人の数、罠や監視の種類など各階層の状態が事細かく描かれていた。これもまた事前のブリーフィング通り。
各階層のど真ん中にある監視塔の真下にある最終目標のコントロールルームも、シリウスがいるであろう最上階のワンフロアも完全一致している。
しばらく全体図を眺めて、内情を頭にインプットしていくとどこからか小さく銃弾の音が聞こえてくる。
「サイオン達はもう乗り込んだみたいだな。遊撃作戦が始まってる」
よく耳を澄ませてみると、銃弾の音が激しい音を鳴らしていた。
最終作戦の始まり。
二人も顔を真剣な面持ちへと変え、それぞれの任へとついていく。
「じゃあ、アタシも作戦通りコントロールルームに向かうわ。こっから地下に行けるみたいだし」
「気を付けろよ。敵にとっても最重要ポイントだからな。何が出てきてもおかしくない」
「誰に言ってんだ。どんな敵だろうが、軽くひねってこの戦争を終わらせてやるよ」
ソラリスが笑いながらそう言って、拳をアラヤの目の前に差し出した。それを見て、アラヤも拳を差し出しソラリスの拳にぶつける。
「俺たちの想い、弔い合戦――頼んだぞ」
「任せろ! お前もちゃんとシリウス捕まえて来いよ!」
小さな音が鳴り、熱が拳に宿ったまま二人は登って来た昇降機の中へと入り、上下別々の方向へと動き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます