4-2 サベリアス襲撃作戦《シュトゥルムハーケン》
「ミューラン、リア、ありがとう」
海岸から大きく離れたところから金属音が聞こえたことで、ルーナがミューランたちに向けて感謝の通信を開いて即座に切る。
無線機をオンにして、残ったメンバーへと指示を出す。
『出番だ、強襲部隊! ルーナ達が敵のホプリテス部隊を引き離した! 作戦開始!』
その声に、コンテナからサイオン達が飛び出した。その後ろを、アラヤとソラリスがついて行く。瞳はそれぞれ、蒼と赤に変わっており、その輝きが線となって尾を引いていた。
強襲部隊が兵士達の目の間に出る。
兵士達が迫りくる彼らのその姿を、付けた暗視ゴーグルの光学スクリーンにて確認した瞬間、サイオンが閃光弾を放った。
「ぐぁぁぁああ!!!」
月の光で薄暗くなっていた空間に、眩い光の塊が兵士達の目に飛び込んできた。
強烈な光がスクリーンを通り越して兵士達の目を焼き、視界が完全な闇へと囚われる。
身動きは取れず、大きすぎる隙が生まれた。
「今だ!!」
行動が停止した兵士達を見て、サイオン達は一斉射撃を開始した。断続的な銃声が、この空間を支配する。
血飛沫が舞う。
兵士達の数名は、身動きを取れないままその銃撃を受け、地面へと崩れ落ちた。
「別動隊だと!?」
豪雨の様な銃撃に対して、指揮官がそう言った。指揮官は、残っている兵士を使って、サイオン達を殺すよう指示を出す。
その指示を聞いて、アラヤとソラリスが勢いよく飛び出した。
「な、なんだ!?」
輝く蒼と赤のコントラストが、回復した兵士の視界に飛び込んでくる。兵士はそれに対して銃撃を放った。
飛んでくる弾丸を二人は、稲妻の様にジグザグと躱しながら兵士たちに向かっていく。
そして、二手に分かれて前にいる兵士達と相対した。
「シッ!!」
アラヤは、目の前にいる兵士達の目の前で跳び上がり回転しながら一人の男に踵落としを叩きつけた。倒れそうになる兵士の頭を踏みつけ、再び大きく跳び上がる。その瞬間、兵士と枢の足の間を銃弾が横切った。
撃った兵士を確認した枢は、着地と同時に低く飛び込み、右脚で前蹴りを食らわせた。骨が折れる鈍い音が鳴り響き、兵士はコンテナへと勢いよく叩きつけられた。
隣を見ると、ソラリスも既に相手を昏倒させており、周りにいる兵士はいなくなった。
五分にも満たない経過時間。残るは指揮官だけだった。
「そっちも終わったようだな」
「ああ、大したことねぇよ。ただの一般兵だしな。後は指揮官だけなんだが、……どこ行った?」
二人は辺りを見渡す。周りには一般兵の死体しかなく、指揮官の姿はどこにも無かった。
すると甲板の方から大きな音が響き渡り、後ろから音が聞こえてきた。
「なんだあれは……? ホプリテスなのか……?」
アラヤが呟く。
そこにいたのは、五メートル程のホプリテス。しかし、そのフォルムは通常の武骨としたタイプではなく、赤いカラーリングでシャープな流曲線のフォルムをしている。左手には速射用の銃が、右手には何も持っていないが鋭い爪がコンテナをも一振りで切り裂いた。
いつもとは違う形状に、戸惑う二人。そして、その二人の耳元からハミールの声が聞こえてくる。
『おい聞こえるか二人とも! 今そこにいるソイツ、多分第三世代と思われる新型ホプリテスだ! 恐らく未完成品だろうが、それでも性能はクリュサオルと比べても桁違いなはず! 気を付けろ!』
「ここで、新型か……!」
「ま、やるっきゃねえよな。――サイオン! ここはアタシ達に任せろ! お前たちは先に行け!」
「了解した! お前さんたちも気をつけるんだぞ!」
そう言って、サイオン達は収容艦の中へと進んでいった。
二人は、新型を見据える。いつでも動き出せるように、力を全開に開放していた。
すると、新型からオープンチャンネルにて指揮官が怒りの口調で二人に話しかけてきた。
『小うるさいハエ共が……! 貴様ら如きには勿体無い代物だが、私のこの騎体、第三世代ホプリテス・オルトロス型――騎体名称『シュトゥルムハーケン』の初陣にはちょうどいいだろう!』。
第二世代までとは次元の違う素早い動きで、アラヤ達に向かっていく。その足元を見ると、少し浮いており、脹脛部分と背中の推進剤を使って滑空する事で高速移動を可能としているようだった。
二人は、向かってくるシュトゥルムハーケンを二手に分かれて回避する。
「――どうするソラリス!?」
「能力をフルパワーにして、最大火力で叩き込む! 新型だろうが何だろうがやることは変わらねぇ! さっさと潰して、中に入ってくぞ!」
「了解!」
二人は肉弾戦を止めて、能力を前面に押し出した戦闘に切り替えた。
弾丸に当たらないように横に移動しながら、念動力でコンテナを数発撃ち出す。シュトゥルムハーケンがそれを、余裕を持って躱すも、その先にはソラリスが炎を撃ち出していた。
炎がシュトゥルムハーケンに直撃する。
「やったか?」
「いいや、まだだ。ていうか、全然効いてない」
その言葉の通り、シュトゥルムハーケンは腕を払いながら炎の中から出てきた。少し焦げ目があるものの無傷と言いても過言ではなかった。
「……あれが最大威力か?」
「それより、ちょっと弱めくらいだ。ただ、それでも普通のホプリテスなら大破するレベルなんだけどな。……どんな装甲してんだよ」
『――このシュトゥルムハーケンを普通の騎体と比べてもらっては困るな。オルトロス型の装甲は、全身がアストラダイトを混ぜた金属で出来ている! アストラダイトが保有しているエネルギーが金属と密接に結合することで何物をも阻む肉体と化した! 貴様の炎がどういう原理で発生しているかは分からんが、その程度の炎など毛ほども効かんわ!』
「……わざわざ解説ありがとよ」
その言葉に苦い顔を浮かべるソラリス。
向かってくるシュトゥルムハーケンに対して、コンテナを弾き飛ばす。しかし先程とは違って躱さず鋭い爪で切り裂き、速さを落とさずに向かってきた。
「――ちッ!!」
それを見て、二人は後方へと大きく跳び下がる。
『ほらほらどうしたのだ? 足掻くのは得意だろ劣等種っ!』
嘲りながら、指揮官がそう言った。
「じゃあ、足掻いてやるよ! 後悔すんじゃねぇぞ!!!」
「待てソラリス――!」
アラヤの静止も聞かず、ソラリスは飛び出した。
ソラリスは、炎を宿らせてその形を変形させる。変形した炎は、槍の様な形をしていた。その槍を勢いよく振りかぶりながら、シュトゥルムハーケンに放つ。
迫りくる炎の槍に慌てる事なくシュトゥルムハーケンは手を薙ぎ払い、それを打ち払った。
『だから言っているだろうに。聞かないとわかっているだろう。愚かなものだ』
「はっ。お前の目は飾りかよ。よぉく見てみろよ、ご自慢の騎体をよ」
指揮官がメインカメラを自身の騎体に向けると、打ち払った右腕が抉れる様に焦げていた。
『な、なんだと!?」
「さっきの炎は、最初に放った炎よりも圧縮して貫通力を撃ってんだ。同じ攻撃を何度も繰り返すわけねぇだろ」
『お、己ぇ……!』
「これじゃあ、自慢の装甲も形無しだな」
指揮官が怒りの声を上げると同時に、苛立ちと共に吐き出される弾丸がアラヤ達を襲う。
しかし二人は、撃ちだされる弾丸を躱し続けていた。
するとソラリスから、アラヤに通信が入る。
『――おい、アラヤ。聞こえるか?』
『何だ?』
『さっきの攻撃で分かったことがある。あの装甲、恐らくアストラダイト由来の攻撃なら通る筈だ。アタシたちの力もアストラダイトから得たモノだからな。親和性が高いんだろう。そこに綻びを生み出すことが出来る』
『なら、最大火力で倒せば!』
『そういうこったな。作戦はアラヤが陽動。その間、アタシが力を溜めておく。完了したら合図するから動きを止めてくれ』
『了解!』
そうして、ソラリスが後方へと下がり、アラヤが前へと出る。
『なんだ? わざわざ戦力を減らすのか?』
「ああ、新型とはいえ底が知れたからな。喜んでいいぞ、お前如き俺一人で十分だそうだ」
『――ッ!』
その言葉に激高した指揮官。シュトゥルムハーケンの動きが苛烈になり、アラヤは躱すので精一杯になる。
しかし、その手で殺したいのか攻撃は爪の一辺倒。徐々に余裕を持って躱せるようになり、攻撃の隙が生まれていく。
「お返し食らってろ!!」
アラヤが能力を使うと、切り裂かれ鋭くなったコンテナの破片が無数に浮かび上がる。それを無数の軌道で操り、シュトゥルムハーケンを襲っていった。
破片は鳥かごの様にドーム状を描き、三百六十度の死角から次々とシュトゥルムハーケンの動きを阻害していく。
『小癪な真似を……! その程度の攻撃、効きもせぬわ!』
「――そうかい、ならこれならどうよ。アラヤ!!」
ソラリスの言葉で囲んでいた破片を、装甲の薄い両手両足の関節部に集中。それを一気に放ち、数を持ってシュトゥルムハーケンの関節を突き刺し動きを完全に停止させた。
「やっぱり、関節までもがアストラダイトを使っている訳じゃあなかったみたいだな」
『この……!』
指揮官が喚くが、身動きを取ることが出来ない。もはや恰好の的。
それ故に、ソラリスが散歩するかのように近づいていく。だらりと下げられた右手は紅蓮の炎に包まれていた。
その炎の手を騎体に添える。
『何を!?』
「お待ちかねのプレゼントだよ。最大火力だ! 持ってけクソ野郎!!」
その瞬間、収縮された蒼炎がシュトゥルムハーケンの胸を溶解させながら貫いた。
余った熱波が近くのコンテナの破片すらも溶かしドロドロになる。
蒼炎が収まると、そこにあったのは胸に空洞が開いたシュトゥルムハーケンが。コックピットは指揮官ごと焼却され、姿形はどこにも見えない。
「火葬完了ってな――うっ……!」
ふんっとソラリスが鼻で笑うと、右手に走った突き刺すような痛みが走り思わず膝を付いてしまう。
端正なその顔には脂汗がにじみ出ていた。
「ソラリス!?」
「っつつ……! 大丈夫だ、ちょっと身に余ることしただけだから。まだまだだなアタシも」
右手が赤く染まり、所々は黒く染まっている。己の手を焦がすほどの超火力だったのだ。
「とりあえず第一作戦は終了したんだ、後は船で休むぞ。ほら、捕まれ。連れてってやる」
「サンキュー。助かるぜ」
動けなくなったソラリスに左手を差し出しながら引き揚げ、アラヤはサイオン達が拿捕した船へと歩いていく。
そのついでにアラヤは最後に力を使って、周囲で粘体となっていたコンテナの破片をウォーターカッターの様に加速。無数の槍となった破片は力を失ったシュトゥルムハーケンの体を串刺しにした。
完膚なきまでに全てを破壊する意思の表れ。二人の背後は爆炎に包まれた。
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