四章 【終わりへ向かわせる戦火の種】

4-1 サベリアス襲撃作戦《暗闇の港》

 ――二二〇〇。暗闇のトルル南部港。

 灯りは、帝国軍の収容艦の周りだけだった。収容艦は全長四十メートル程で、甲板の両端にはコンテナが二つ存在していた。そして白く簡素な服を着た囚人達が、荷台の様な所に列になって運び込まれている。

 その両端に、銃を構えた状態で帝国軍赤色部隊がいた。船の両隣には、大口径のアサルトライフルを装備した二騎のタイタンがそびえ立っている。

 そんな中、港に数多詰み上がっているコンテナの中にアラヤ達は隠れていた。コンテナの一部が外れ、全身を暗くさせたメンバーの男が一人入ってくる。


「――偵察は完了しました。ここから見えるホプリテスはタイタン二騎。表に出ている兵士は十五人前後です。まもなく囚人の収容が終わりそうです。甲板の両端に大型のコンテナが二つ。形状から、恐らくホプリテスだと思われます」

「分かりました」


 車椅子から降り、銀色に輝く義足で立ちながらルーナが返事を返す。そして口調を厳格なモノにしながら指示を出す。


「予定時刻より作業が早いみたいですが、収容が完了し警戒が緩んだ瞬間を狙います。

 ――作戦の再確認。まずは、地上部隊が収容艦の周りの灯りを破壊。その隙に、ホプリテス部隊が出動。敵のホプリテスが動いたら、後退し引き離して。見えなくなったら、地上部隊が船の奪取。もし収容されているホプリテスが出てきた場合はアラヤとソラリスが対応を」


 その場にいる全員が頷き、作戦の開始を待つ。

 そしてサイオンがコンテナの上にあがると匍匐状態でライフルを構え、傍で観測手が収容されていく囚人たちを暗視スコープで覗いていく。

 最後の囚人が運び込まれた。

 静寂が訪れ兵士が銃を少し下げた瞬間、ルーナから全体へ通信が入る。


『――作戦開始!』


 サイオンが引き金を引き、プシュっと近くにいても届かない程小さな破裂音を出して一発の弾丸が飛んで行った。

 弾丸は見事、電灯を撃ち抜き辺りは完全な暗闇と化す。


「なんだ! 何が起こった!! 状況を確認しろ!!」


 暗闇の中、地上にいる指揮官の横にいた兵士が銃を構える。タイタンも駆動音を鳴らしながら待機する。タイタンのパイロットは、画面を暗視モードに切り替えて状況を見ていた。


『周りには誰もいません! ですが、電灯が撃ち抜かれています! 恐らく狙撃! 十分注意を払ってください!』


 そう言った瞬間、兵士達の目の前にある複数のコンテナから火花が炸裂し音を立てて巨大な穴があく。土煙の中から出てきたのは、二騎。レジサイド側の第二世代ホプリテス・クリュサオル。

 帝国軍とは違い、黒と赤を基調としたデザインとなっている。大きな大剣と帝国と同じアサルトライフルを持っているのが、ミューランが操る騎体。もう一つの騎体が、盾持ちとしてミューランをカバーしているリアという女性パイロットだ。

 二騎の黒いクリュサオルが暗闇の港を疾走する。


「――ぐあっ!!」


 レジサイド側のクリュサオルからのマズルフラッシュが暗闇の中に映え、兵士の一人が崩れ落ちる。それを見た瞬間、敵のタイタンが動き始めた。


『ウルル様! お下がりください!!』


 男性パイロットが指揮官に向けて進言する。

 兵士達は下がり、タイタンが前に出た。そして、前を疾走する騎体達に狙いを定めて弾丸をフルオートで放った。

 ミューランは、騎体を横に走らせて回避する。横に回避する毎に、弾丸が横一列になってコンテナに打ち込まれた。ミューランがそのまま前進していくと、前から二騎目の騎体が現れた。銃口は、ミューランが操るクリュサオルの操縦席である胸の部分を狙っていた。

 撃たれそうになった瞬間、敵の騎体がぶれる。その横にはリアが操る黒き騎体がおり、敵の騎体に体当たりした様だった。


『助かったわ、リア』

『来るの分かってたでしょうに。さっさとこいつら引き離しますよ』


 通信を開き、状況を改めると二人は横に並び、前にいる二つの騎体を見据えた。

 するとミューラン達の騎体から、小さく弾けた金属音が聞こえる。二人がカメラを後ろに切り替えると、兵士達が真美達に向かって銃撃を放っていた。

 兵士達の顔には、簡易的な暗視ゴーグルが付けられている。


『兵士も出てきたことだし、早いとこ任務を終了させましょうか。――リア、ついてきなさい!』

『分かりました!』


 二人は、港から離れる様に騎体を走らせると敵の騎体も銃を連射しながら着いていく。

 弾丸がリアの持つ盾に弾かれ、コンテナの破片が辺りへと散らばっていった。

 そうして攻防を重ねながら、程よい距離を保ちつつ二人は少しずつ港から離れていく。


『よしよし。ちゃんと来てるわね』

『大分、海岸から離れました。そろそろ交戦を始めましょうか――っ!?』


 そう言ったとき、敵はアサルトライフルでの攻撃を砲撃へと切り替える。

 今迄とは威力が桁違いとなり、盾が破壊される。

 その衝撃でリアの騎体の足は止まり、二人は完全に追いつかれた。


『――追い詰めたぞ! どこの誰かは知らぬが、狼藉者はここで排除してやる!』

『あちゃー、もう少し離しときたかったんだけどなー。まあ、いいでしょう。ここいらで、やっちゃいましょ。――行くわよリア』

『分かりました!』


 ――数発の銃撃音が静かな夜空に響き渡り、四つの騎体がぶつかり合った。

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