3-2 戦闘訓練決着
ハミールの掛け声とともに、ソラリスがアラヤの目の前から一瞬で姿を消した。
「はっ――!?」
二回鈍い音が響き、アラヤが驚きの声を上げた時には、ソラリスは瞳を赤く輝かせながら既にアラヤの後ろで足を振りかぶっていた。
「――オラァ!!!!」
ソラリスがしならせた足をアラヤの右腹に思いっきり蹴り付けた。アラヤは、ギリギリの所で右腕を足と腹の間に差し込み防御する。
「くっ――!!」
苦悶の声を挙げながら、一瞬の均衡を保つものの衝撃は吸収できずにアラヤは思いっ切り弾き飛ばされ、左の壁に激しい音を立ててぶつかった。
「くっそ……!」
「よく止めたなー。今ので終わらせるつもりだったんだが」
「……ふざけんな」
笑いながらソラリスがアラヤに告げると、アラヤは壁にもたれかかるように立ち苛立ち交じりに答えた。右腕は、今でも痺れていた。
「なんだよあの速さ……。どうやって俺の後ろに……?」
「なんだ、気付いてなかったのか。自分の後ろを見てみな」
アラヤが壁を見ると、そこには小さな窪みがあった。よく見ると、最初にアラヤがいた壁の後ろにも同じような窪みがあった。
「三角跳び……?」
「そゆこと。そうやって一瞬でお前の後ろに回り込んで蹴りを食らわせたってわけ」
「流石だな。その身体能力を使いこなしているだけはある……」
「年季が違うんだ、当たり前だろ。けど、お前も一緒の事は出来るんだぜ?」
「同じこと……」
「一度戦ったとはいえ、お前はまずその身体能力を完全に体に落とし込まねぇとな。その後で、一瞬で能力を使えるようになれ。その為の【開闢の儀】なんだから。いつでも突発的に使えるようになんねぇとな。――一応今度は待ってやるから集中して開放しろよ」
その言葉に、アラヤは目を閉じて集中した。任務で行った力などを完全にイメージし、能力を発動させる。
【掌握!】
瞼を開くと、その瞳は蒼色に輝いていた。
それを見たソラリスは、ニヤッと鋭く笑みを浮かべた。
「いいね。じゃ、第二ラウン――っ!!」
先程と似たように、今度はアラヤが一瞬でソラリスの目の前に現れ、そのままの勢いで左腕で腹を思いっきり殴りつけた。
左腕が直撃しそうになった瞬間、ソラリスは一気に後ろに下がりその攻撃を回避した。
だが、ソラリスの腹には殴った摩擦で生じた焦げ目がついている。
「虚を突いたと思ったんだけどな。そう簡単にはうまくいかないか」
「いやぁ、今のは危なかったぜ。ちょっと掠ったしな。――吸収が早いようでなによりだ」
身体能力のズレが激しいとはいえ、過去に行ってきた戦闘経験で体の動かし方を熟知しているアラヤ。ここまでのトライ&エラーから理想のイメージを浮かび上がらせたら、動きの最適化は容易にできる。
「じゃあ、今度はちゃんと当ててやるよ」
「やってみなっ!!」
ソラリスはそう言って右腕を振りかぶりながらアラヤに飛びかかった。アラヤもそれに合わせて右腕に力をいれる。
「――っち!!」
「くっ!!」
両者の右腕同士がぶつかり、小さな衝撃波が生まれ二人は数メートルほど後ずさった。両者の腕に痺れが残る中、先に動いたのはソラリスだった。
ソラリスは低く飛びかかるように移動し、アラヤの足元に手をついて右脚を思いっきり突き出した。アラヤはそれを両腕で防御するも、その瞬間に、ソラリスは体を捻り左足の踵で後ろ回し蹴りを放った。
それは、アラヤの左頬に直撃し、唇の端から血を流しながら吹き飛ばされる。
アラヤは地面を転がりながらも両手で地面を突いて跳ね上がると、頭を下に向けながら、右手で空気を固めて射出。時間差で左手でも同じように撃ちだした。
「――うおっ!!」
見えないその攻撃に、ソラリスは若干狼狽えるもバク転でその攻撃を躱した。完全には躱せなかったようで、着地の時には少しふらついていた。
少しばかりの沈黙が訪れる。
「見えない弾丸たぁやってくれるじゃねぇか。念動力で空気を固めて撃ち出したって感じか」
「咄嗟にやった割には良いもん撃ち出せたつもりだったんだけどな。まさか、躱されるとは思わなかった。……どんな勘してんだよ」
呆れながらアラヤがそう言った。
「言ったろ、実験のせいであらゆる部分が強化されてるって。反射神経も強化されてるし、視力だって強化されてる。お前の腕の動きと空気の揺らぎで大体のことがわかる。アタシじゃなくても、サイオンクラスなら余裕で躱せる筈だぞ」
そうは言っても、簡単に躱せるものではない。
初見で躱せたという事実が、これまでソラリス達が積み重ねてきた実戦経験の密度の濃さを思わせた。
「……凄いな」
「別に凄かねぇよ。――それよりも、オレばっか攻撃しかけてんじゃねぇか。お前の訓練なんだからお前が攻撃して来いよ」
「じゃあお言葉に甘えて……!」
そう言って、アラヤは走りながら朔夜に向かっていった。ソラリスの逃げ場を失わせるように、両端に先程の空気弾を今度は【面】にして撃ち出した。
「前が空いてんぞ――っ」
ソラリスが前に出ようとした瞬間、それよりも早くアラヤは前方に空気弾を撃ち出した。その攻撃にソラリスの踏み出そうとした足が止まる。
それを見て、アラヤはソラリスの頭上に飛び上がり回転しながら踵落としを食らわせた。アラヤの踵がソラリスの後頭部に直撃し、顔から地面に叩きつけられる。
「お返しは気に入って貰えたか?」
地に伏せたソラリスに向けて皮肉を言うアラヤ。
しかし、反応がない。ソラリスはうつ伏せになったまま起き上がろうとはしなかった。
「お、おい……。大丈夫か……?」
心配になったアラヤがソラリスに恐る恐る近づく。そして右腕をソラリスに差し伸べた瞬間、ソラリスが勢いよく動き出しアラヤの右腕を抱きしめながら引っ張った。
「なっ――!」
「油断大敵だよバカッ!」
豪快に口の端を歪め、子供が見れば泣き出しそうなほどの凄惨な笑みを浮かべながら、右足をアラヤの顔に引っ掛けて倒す。
すぐさまアラヤが立ち上がろうとするものの、それよりも早くソラリスが倒れたままのアラヤの首を左手で掴み、右手にはソラリスの能力である炎を宿らせた。
煌々と燃え盛る炎。それを見て、アラヤは両手を挙げて一言言葉を発する。
「――降参」
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