三章 【明日を望むこの日を糧に】
3-1 戦闘訓練開始
「半分くらいか……。あんまり残らなかったみてぇだな」
「仕方ないんじゃないか? 迫害されているとはいえ、普通の日常送っていた人間がいきなり命かけて戦えってのも無理があるだろ」
残念そうに言うソラリスの言葉に、アラヤはそう返した。二人は、食堂でのデザートを食べ終わった後、大広間に向かっているところ。
入り口に差し掛かり中の様子を見ると、そこには元の半分くらいの人数しか残っていなかった。
「俺達みたいな【傷持ち】は元々少年兵として戦っているからな。そうでもない一般人が戦う決意をするなら、それはどうしようもないくらいの憎しみだろ」
アラヤがそう言い、若干閑散となった大広間を二人で眺めていると、サイオンが話しかけながらアラヤ達の方へとやって来た。サイオンの後ろにはミューランが付き添っている。
「ようお二人さん。ちょうど落ち着いたところだ」
「あんま残んなくて残念だったわ」
サイオンとミューランが苦笑交じりで言う。
「まあ、こればかりはしょうがねえな。むしろ半分残ってくれただけでもありがたいもんだ。俺達は常に人員不足だからな」
「そうね。だからアラヤにもすぐに働いてもらうわよ。新人だからって関係はないわ」
「俺も……? 何するんだ?」
「そうね。とりあえず、彼らの訓練の教導かしらね。主に銃器の扱い。彼ら私達と違って元から普通の一般人だし」
そういってミューランが指を指したのは、レジサイドに入る事を決めている本当の新参者たち。
彼らは、一塊になって今後の行く末や未来への不安など話し込んでいる。
「彼らを、俺が? 別に訓練するのはいいけど、なんで俺なんだ?」
「だって、あなたも同じ新参者じゃない。ここらで仲を取りなそうと思ってね」
「最初は体力訓練で走らせとけばいいさ。生き残るのにはなにより体力が一番。それはお前さんもよく分かってんだろ」
「まぁ、な。少年兵時代は走れなくなった者から死んでいったし」
「そういうこと。訓練に立ち向かえないようなら実戦じゃ到底使えない。訓練が厳しくてあいつらが泣き言を言うなら死ぬだけだ」
基本的に軽そうな口調の持ち主であるサイオンが厳しそうに固くそう言った。
と、その時。ルーナとハミールが現れるとそこに待ったを差し込んだ。
「——その件だけど、アラヤには今のところ教導に参加しなくていいわ。教導は、サイオン達にお願い出来ないかしら」
「どういうこと?」
ミューランが尋ねる。
「アラヤにはまず、能力のコントロール訓練をして欲しいの。先程の戦闘は訓練なしでもいけたけど、これから先大雑把な使い方じゃ限界が訪れるかもしれないから」
「あー確かにそりゃ最優先事項だな。アラヤはクリュサオル一騎を潰すだけでも頭が重くなってるみてぇだから、発動時間の増幅はしとかねえとやばいだろ。さっきも言ったけど、能力は脳の未使用の領域を使っているから、限界を超えた活動を続けたらすぐに死ぬぞアラヤ」
ソラリスの言葉に、アラヤは先程言われたことを思い出す。
そして続けてハミールがアラヤに声をかけた。
「アラヤの今の活動限界が今の状態じゃ分からないからね。ちゃんとしたデータを取らないと何もわかんないんだよ。さっきの戦闘を見る限り、短時間の使用は大丈夫だと分かったけどそれ以上の細かいは情報なしだからね。それも兼ねた訓練なんだよ」
「……なるほどな」
「近々大規模の任務を予定しているの。それに合わせる為にもここでアラヤの力を計っておくことが大事なのよ。だから今すぐ取り掛かってちょうだい。サイオン達は新人たちにオリエンテーションした後、訓練室に新人達を連れてきて」
「あいよ」
「分かったわ」
サイオンとミューランがその言葉に了承し、大広間から出ていった。
そうして残されたアラヤ、ソラリス、ルーナ、ハミールは下の階層にあるという仮想訓練室へと行くことに。その道中、オペレータールームで操作する為、ハミールだけは別れた。
そして学校と同じ様な待機所へと辿り着くと、ルーナが指示を出す。
「さて、アラヤにはソラリスと殺さない程度に戦ってもらうわ。まずは能力を使用している状態に慣れないとね」
「分かった」
アラヤとソラリスが仮想空間に入ると、そこは真っ白な空間だった。奥行き五十メートル横十メートル、縦十五メートルほどの直方体の形をしていた。
アラヤから少し離れたソラリスは屈伸運動をしながら体を温めている。
「本気モードだな」
「当たり前だろ。アタシも能力者と戦うのは初めてだしな。データ収集のための模擬戦だからって手は抜かないぜ」
「女に手を抜かれた方が嫌だっつーの」
二人の掛け合いに、空気が張り詰めたようになる。
すると、アラヤの足元から円柱が飛び出し胸の前で止まった。円柱の胸元の部分が開きその中には、金属製の腕輪が入っている。
それを眺めていると、通信機越しに性格が変貌したハミールの鋭い声が響いた。
『アラヤそれ付けろ! それがないと能力を測定出来ないからな!』
「ふーん。そりゃまた最新鋭なことで」
そう言われ、アラヤ目の前の腕輪を右手に付けた。付けると同時に円柱は再び地面へと下がる。
そして、スピーカーから再度ハミールの声が響いた。
『よし。それじゃあこれよりアラヤとソラリスの模擬戦を始める! 戦闘不能になるまで戦え!』
「了解!」
「ああ!」
準備の合図。
ハミールの言葉に促され、二人は戦闘態勢に移る。
ソラリスは身体を乗り出して左手を床に突きいて突撃態勢。それを迎撃する様な形でアラヤは左手を前に出し、半身に構えて急所を隠す。
お互いの戦闘の気が膨らみ、相手の意を感じ取った。
『行くぜ――模擬戦開始!!』
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