2-5 レジサイド支部

「――なあ、これどこに向かってるんだ? 来た道とは違うけど」


 戦闘地から立ち去った後、二人は本部のある第一区域に戻らずに第四区域の路地裏を歩いていた。


「アタシ達の支部だ。アタシ達の本部は第一区域の地下にあるけど、一か所に拠点があるなんてリスクが高いだろ? だから治療用とか補充を受けるために各区域の地下に支部があるんだよ。まあ、入り口自体は結構数あるし注意して見ないと見つけられないけどな。――っと、ここだ」


 ソラリスが立ち止まる。目の前には金属製のボロボロの看板が扉の役割を果たしている古ぼけた店があった。ソラリスが看板をどけ、中に入る。続いてアラヤも中に入るとそこは昔にあったバーの様な空間だった。足元を見ると酒瓶の破片が転がっている。


「凄いボロボロだな。こんなところに支部があるのか?」

「ここは偽の入り口だ。この奥に本当の入り口が隠されてんのさ」


 ソラリスは破片に気をつけながら歩いて行く。その後に続きくと、ソラリスがカウンターの中に入って錆びれたシンクの蛇口のハンドルを捻った。

 ハンドルは錆びれている風に見えているだけの様で簡単に一回転する。水は当然、出て来ない。


「それが、入り口の鍵か?」

「いいや、違う。――これは鍵の一つさ」


 ソラリスは蛇口の次に棚にあるラベルの無い酒瓶を九十度回転させた。そして、最後にぶら下がっているグラスの一つを下に下げると、棚の一歩手前の床が音をたててスライドし階段が現れた。


「この順番でやらないと絶対に開かない仕掛けになってんだ。しかも全部指紋認証も兼ねているから、レジサイドのメンバーにしか絶対に開けることは出来ない。アタシ達は見つかったらそこで終わりだからな」


 足元だけに光が灯された薄暗い空間の中、カンカンと音を立てながら階段を降りていく。

 エレベーターがあれば楽なのだが、極力バレる可能性を減らす為とメンテナンス作業を無くす為に付けていないらしい。

 既に四階建てビルくらいの段数は降りている。


「……本部から出たときはあまり分からなかったけど、かなり地下にあるんだな」

「実際、かなり深いぞ。本部からの出撃はゆっくりと行くわけにはいかないから最短ルートでの出撃になるからな。本部や各支部には出口のみの最短ルートの道が解除されるのさ」


 ま、逆に入り口は迷路みたいになっててクソ時間かかるけどな。とソラリスはそう締めくくる。

 階段を下り終わると、そこには長い廊下があった。十メートルごとに分かれ道が存在しており、曲がろうとした先にも分岐がいくつもある。一つ間違えば迷い果てること間違いない。

 徹底した防衛。万が一敵がやって来たとしても、一方的に殲滅しうるだろう。


「これが第四支部の場所までの道筋。この地図を持つか、誰かと一緒に来ないと絶対に迷うから気を付けろ。地図は後で支給されんだろ」


 ソラリスは、端末を開いて浮遊画面ホロディスプレイ状の地図をアラヤに見せてくる。確かに道は蜘蛛の巣状に広がっており、一人だと支部まではたどり着けそうにない。 

 会話はぽつぽつと止まりながらも、十数分かけて歩いたところでついに支部にたどり着いた。


「ここが第四支部だ。広さは本部には負けるが、それでも十分広い。作戦室・訓練室・医務室・避難民を収容する居住区とまあこんなもんだ。栽培施設もあってそこで自給自足もやっている。とりあえず、作戦室に行くぞ」

「廃墟部の地下にこんな大がかりな施設があったとは……。本部もそうだが、レジサイドの規模はかなり大きいんだな」

「このくらいはな。相手は世界最強の国だ。どれだけ大きくても損はない」


 まばらにいる人を横目に、アラヤはソラリスの後をついて行く。薄汚れた人もいることから、地上にいた第四区域の人達だろう。

 作戦室の中は大きな机が真ん中にあり、そこに数個の椅子が置いてあった。中に入ると、そこにはルーナとサイオン、そしてミューランと呼ばれていた栗色をしたロングヘアの女性が座っていた。そしてアラヤの腰ほど位の身長の、見覚えのないショートへアの少女がルーナの傍に立っている。   

 その少女が、アラヤに近づいて話しかけた。


「初めまして~。私は、ハミール。レジサイド全体のオペレーター兼参謀補佐をやってるよ! さっきは通信だったし、ほとんどの会話しかしてなかったからこれが初の会話だね。これからよろしく!」

「は……?」


 アラヤは驚いた。通信機から聞こえてきた声はかなり鋭く、甲高くも歴戦の兵士すら思わせる雰囲気があった。

 しかし、今目の前にいるのは明るく朗らかな子供でしかない。

 呆気取られたアラヤを見て、ハミール以外のメンバーが笑った。そしてミューランが笑いながら言う。


「まぁそうなるわよね。ハミールのそれもはや二重人格みたいなものだもの」

「ちげぇねぇ。おじさん、今でも戸惑うもんな」


 ガハハハと笑いながらサイオンが言う。未だ困惑するアラヤに立ち上がってミューランが握手を求めた。


「さっきはまともに話する余裕もなかったからここで紹介しとくわね。私は、ミューランよ。ホプリテス部隊の隊長をやってるわ。よろしく」

「おっと、そいじゃおれも。アラヤ、初任務お疲れさん。さっきも会ったが、サイオンだ。歩兵部隊の隊長で基本的に住民の避難と遊撃をやってる。これからはお前さんの援護もするから、よろしくな」


 自己紹介してきた三人にようやく理解が追い付いたアラヤは、握手を返しながら自己紹介をする。


「アラヤだ。ついさっきレジサイドに所属する事になった。これからよろしく頼む」

「――それじゃあ、お互いの紹介も済んだことだし、これからの話をしましょうか」

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