第5話

「うわぁ!?何何何!?ちょっと!?何これ怖い怖い怖い!!どうなってんですか!?何ですかこれ!?何の音!?何、目光らせてんの!?大丈夫なのこれ!?」


思わずもふもふを取り落とし、徹はソファの上に飛び上がりおびえた様子で身を縮めた。


当のもふもふは床に落ちて転がり、しかし何かリアクションを取るでも無く、相変わらず警報音を響かせ目から放たれる赤い点滅光で床を照らしている。


「ほぅ、なかなかに変わった鳴き声だな。それに発光する生物はあまたあれど、光の反射でも無くおのずから眼球を光らせるものなど聞いたことが無い。徹君、やはりこれは一度解剖してみた方が話が早いのでは無い……」


と、その遊佐木の言葉が終わる前に、屋外で何かプロペラとジェットのような音が高速で近付き、研究所の直上ちょくじょうで停止して爆音を響かせ、窓ガラスを激しく振動させ始めた。


「ん?なんだ?」


「ちょっと!?今度は何ですか!?UMAの次はUFOとかですか!?勘弁して下さいよぉ!!」


と二人が窓の方へ振り返ると、ふいにベランダに迷彩服の軍人らしき者がロープを伝って降り立ち、辛辣しんらつかつ済まなそうな表情で窓をノックしてきた。


「すみません!開けて頂けますか!?それを回収させて下さい!」


ジェットヘリの爆音に負けないような大声で軍人が叫び、さらに遊佐木の顔を見ると、


「!?遊佐木先生ですか!?良かった!!助かりましたよ!!すみませんが近隣の御迷惑にもなりますし、速やかに回収して離脱致しますので、早く開けて下さい!!」


と一瞬、安堵あんどの表情を浮かべた後に再び切羽詰まった声を上げた。


「えぇ?知り合いですか?どういう状況ですかこれ」


「うぅーん、暗くてよくわからないが……」


ますます混乱して怯えている徹に答えつつ、遊佐木は慎重にベランダへと足を運び始めるが、


「あぁ、なんだ、依田よだじゃないか。何をやっているんだ?こんな所で」


軍人の素性に気付くと驚き微笑みながら、鍵を外して窓を開いた。


「御無沙汰しております、遊佐木先生!詳細は後ほど改めてご説明にうかがわせて頂きますので、とにかく早急にあれを回収させて頂けますか!緊急信号が発せられてやっと居場所がわかったのです!」


と未だ床に転がり警報音と目の点滅を繰り返すもふもふの物体を指し示した。


「……なるほど、そういうことか……。しかし国家機密を紛失とは、お前、後ほど改めてご説明に伺う前に、どこか異国の離島にでも左遷されてしまうのではないのか?まぁせいぜいそうならんよう、さっさと持って行くといい」


「はい!!すみません!ありがとうございます!失礼致します!!」


軽く頭を下げつつ、依田は遊佐木の脇を擦り抜けて室内へと駆け込み、もふもふとした「国家機密」を手早く回収し、腰に装着した無線機のような何かのボタンを幾つか押すと、もふもふの警報音と目の点滅が収まった。


ふぅ、と息を吐くと、隣のソファにしがみついて怯えている徹には目もくれずに、依田はベランダへと走った。


「それでは失礼致します!!御協力ありがとうございました!!必ず連絡致しますから!!」


言い残してロープに吊られたまま飛び去っていく依田に軽く手を挙げ、ヘリの爆音が遠ざかり消えていくまで、わずかに笑みを浮かべながら見送っていた遊佐木だったが、やがて窓を閉め部屋へと振り返った。


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